13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)事案で、刑事損害賠償命令申立に対して刑事和解で約300万円を支払った事案(札幌高裁h30.11.14)
報道では、原判決は岩見沢支部h30.6.18で懲役4年(求刑懲役5年)だったようです。
刑事損害賠償命令に応じて払った場合は、普通2項破棄になります。
Aを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)のうち、刑事損害賠償命令の対象になるのは、未成年者誘拐罪だけです。科刑上一罪にしてくれれば、被害者Aは全部の罪名について、刑事損害賠償命令を利用できるんですが。
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成十二年五月十九日法律第七十五号)
(損害賠償命令の申立て)
第二十三条
1次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
札幌高等裁判所判決平成30年11月14日未成年者誘拐,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,北海道青少年健全育成条例違反,児童福祉法違反被告 岩見沢
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
本件控訴の趣意は,弁護人加藤正佳(主任)及び同高嶋智共同作成の控訴趣意書及び「答弁書に対する反論書」に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官藏重有紀作成の答弁書に記載のとおりである。論旨は,法令適用の誤り,事実誤認,理由齟齬,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。
第1 法令適用の誤りについて
論旨は,「児童に淫行をさせる行為」を禁止した児童福祉法34条1項6号は,処罰範囲が広範に過ぎる上,「させる行為」の内容が不明確であるから,憲法31条に違反するのに,原判決は原判示第6の事実について,児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,児童福祉法36条1項6号にいう「淫行」とは,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいい,「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう(最高裁判所昭和40年4月30日第二小法廷決定裁判集刑事155号595頁,同裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)のであって,同号の処罰範囲が広範に過ぎるとも,構成要件が不明確ともいえない。論旨は理由がない。
第2 事実誤認及び法令適用の誤りについて
1 原判決は,罪となるべき事実第6において,以下の事実を認定している。すなわち,被告人はTwitter(以下「ツイッター」という。)上で家出をしたいと書き込んでいた被害者Aに対し,家出をして被告人の下に来るように誘惑し,平成29年11月16日午後7時44分頃,Aと合流して被告人方へ連れ去り,その頃から同月20日までの間,Aを被告人方に寝泊まりさせて自分の支配下に置いていたが,その立場を利用し,Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,①同月16日午後9時過ぎ頃と②同月17日午後5時過ぎ頃に,いずれも,被告人方で,Aに自分を相手に性交及び口淫をさせ,もって児童に淫行をさせる行為をした,というのである。
これに対し,論旨は,「児童に淫行をさせる行為」をしたというためには,行為者と児童との間に,児童の全人格の形成に関わる一定の依存関係がなければならないと解されるが,原判決は被告人とAとの間にこのような依存関係がないのに,「淫行をさせる行為」をしたと認定して児童福祉法34条1項6号を適用しているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある,というのである。
2 しかしながら,「児童に淫行をさせる行為」とは,前記のとおり,淫行(すなわち,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為)を児童がなすことを,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして助長し促進する行為をいうのであって,児童の心身の健全育成という児童福祉法の趣旨に照らせば,所論が主張するような依存関係がなければ「児童に淫行をさせる行為」をしたとはいえないと限定して解釈するのは相当ではない。所論は独自の見解を主張したものといわざるを得ず,採用できない。
そして,「児童に淫行をさせる行為」に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁判所平成28年6月21日第一小法廷決定刑集70巻5号369頁参照)。これを前提に,本件について検討すると,以下のとおりである。
(1) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
ア 当時34歳の被告人は,好みに合った女子児童を自宅に監禁して,ペットのように飼育,調教し,思うがまま性交等をして,奴隷のように支配したいとの願望を有していた。そこで,家出や自殺願望のある児童であれば簡単に自宅に連れ込めると考えて,ソーシャルネットワーキングサービスのツイッター上でそのような投稿をしているAを見付け,Aとの間でツイッター上でのやり取りを始めた。そして,女子児童を入れるための犬用のケージと拘束具をあらかじめ購入し,飼育成長を記録するためとして,室内にビデオカメラを設置するなどの準備を行った。
イ Aは,当時13歳の中学生であったが,保護者との折り合いが悪いため,強い家出願望を有していた。しかし,所持金が3万円ほどしかなく,家出して被告人と合流した後は,被告人方に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ない状況にあった。Aは,性交の経験がなく,被告人と性交しなければならなくなるのが嫌であり被告人に犯されないか心配しているとか,自宅にいるくらいなら毎日口淫させられることも頑張るが,性交することは困るなどと伝えて,被告人の意図を確認しようとした。これに対し,被告人は,自分の意図を隠し,性交渉を持つつもりはない旨返答して,原判示第5の事実のとおり,Aの誘拐に及んだ。
ウ 被告人は,平成29年11月16日,Aを誘拐して自宅に連れ込んだ後,入浴を促し,入浴のために裸となったAを,そのまま風呂場から連れ出し,鎖付きの首輪を付けて,ガムテープで後ろ手に両手首を縛って,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の1及び第7の1の事実)。
エ 被告人は,翌17日,Aの陰毛などの体毛を剃った上,やはり鎖付きの首輪を付けたまま,口淫をさせるとともに性交に及び,膣内に射精し,その際の状況を撮影した(原判示第6の2及び第7の2の事実)。被告人は,Aが首輪を外そうとすると,「Aを飼うために買った。」「悪いことをしたらケージに入れるからね。」などと言い,Aを5日間にわたり寝泊まりさせ,その後も複数回性交等に及んだ。
(2) このように,被告人は,被告人に対して好意を抱いているわけでもなく,被告人との間で性交等をしたくないと考えていたAに対し,自分の倒錯した性的欲望を満たすだけのために性交等に及んでいる。これが,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあるものであることは明らかであり,Aの性交等は,「淫行」に該当するといえる。
また,13歳という年齢や,強い家出願望を有するなどのAの状況からすれば,Aに自分の性行動に関する適切な判断能力がなかったことは明らかである。そして,被告人のAに対する性的行為は,被告人宅に寝泊まりして生活を被告人に頼らざるを得ないAの状況を利用したものである上,特に,原判示第6の1の事実の性交等については,特異な嗜好に基づく強力かつ直接的な態様のものであって,性交経験を有さず,被告人との性交を嫌がっていたAが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられないものであった。原判示第6の2の事実の性交等についても,Aが被告人を頼らざるを得ないことなど,その他の状況が変わっていないことや,原判示第6の1の事実の性交等が一旦行われた後のものであることや,それ自体陰毛を剃るなどの特異な嗜好に基づく行為がされていることなどからすれば,Aが自律的意思に基づいて応じたとはおよそ考えられない。以上によれば,本件は,判断能力に乏しい児童を狙って,これを自己の影響下に置き,その影響力を行使して,自己の倒錯した性的欲求を満足させようと計画した被告人が,実際に,その計画に従って,性交等を望んでいなかった児童を自分の影響下に置き,強い影響力を及ぼして,淫行を助長,促進した事案と評価できるのであって,被告人が,Aに「淫行をさせる行為をした」といえることは明らかである。
したがって,被告人が「児童に淫行をさせる行為」をしたと認定した原判決は相当である。
(3)ア これに対し,所論は,Aが被告人とのツイッター上のやり取りの中で,家出先で口淫することについては容認していたことや,小学6年生時に自分の裸の画像を見知らぬ者に送信したことがあるなど,不健全な性行動に親和的な生活を送っていたといえるから,被告人の行為が,Aに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進する行為に当たるとはいえない旨主張する。
しかし,13歳というAの年齢や心身の状態等に照らせば,Aが自分の性行動に関する十分な判断力を有していたとは認められない。前記の淫行に至る動機・経緯や当時のAの状況,被告人とAの関係,淫行に向けて及ぼした影響力の程度や態様等によれば,被告人がAに事実上の影響力を及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたことは明らかである。
イ 所論は,原判決が認定した最初の淫行は,被告人がAと合流してわずか1時間17分後にされたものであるから,Aが被告人に依存するといった関係性が生じていたとはいえないと主張する。
しかし,上記のとおり,Aは13歳で,十分な判断力を備えておらず,強い家出願望を有していた。被告人は,このようなAを,安心させて家出をさせ,自宅に連れ込み,Aを被告人に頼らざるを得ない状況の下に置いた上で,前記のとおり,淫行に向けて直接的かつ強力な態様で影響力を及ぼしているのであるから,最初の淫行の時点でも,既にAに事実上の影響力を及ぼして,Aが淫行をなすことを助長し促進させる行為を行っていたといえる。
(4) 所論の指摘するその他の点を検討しても,原判決に所論のような事実の誤認又は法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
第3 理由齟齬について
論旨は,原判決は「罪数に対する判断」の「3 未成年者誘拐罪,児童ポルノ製造罪及び児童福祉法違反の罪の関係について」の項で,「未成年者誘拐罪は,わいせつ目的がないことを前提とする」としながら,「量刑の理由」の項で,「性交等の相手にしようなどと考えて各犯行に及んだ」などとして,わいせつ目的があったことを前提に量刑判断をしており,理由に食い違いがある,というのである。
しかし,原判決の「罪数に対する判断」の項の上記説示が未成年者誘拐罪の構成要件を説明したにすぎないものであるのに対し,「量刑の理由」の項の上記説示は,被告人が未成年者誘拐に及んだ動機を説明したものであって,両者は趣旨を異にしているから,理由に食い違いはない。論旨は理由がない。
第4 訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りについて
論旨は,Aに対する未成年者誘拐の事実(原判示第5の事実),児童に淫行をさせる行為をした事実(同第6の事実)及び児童ポルノを製造した事実(同第7の事実)については,検察官に釈明をするか,訴因変更を促すなどして,未成年者誘拐の事実をわいせつ目的誘拐と認定した上で,かすがい理論により,上記三つの罪を科刑上一罪として処理すべきであったのに,原判決はそのような釈明等をせずに,未成年者誘拐と認定して,いずれも併合罪の関係にあるとしているから,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,検察官が未成年者誘拐として起訴したのに対し,原裁判所が,より法定刑の重いわいせつ目的誘拐に訴因変更するよう促さなかったからといって,これが訴訟手続の法令違反になるとは,およそ考えられない。未成年者誘拐罪の事実を認定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない(なお,仮に,論旨が主張するように,誘拐の事実と児童に淫行をさせる行為をした事実と児童ポルノを製造した事実とが科刑上一罪になるという見解に立つとしても,処断刑の下限が重くなり,被告人に不利になるだけで,考慮すべき量刑事情に違いがあるわけではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
第5 法令適用の誤りについて
論旨は,当時18歳に満たない被害者Bや被害者Cに対し,それぞれ,性交又は性交類似行為をして淫行した北海道青少年健全育成条例違反の行為(原判示第1及び第3の事実)と,その際その姿態を撮影し,動画データを記録させて保存した児童ポルノの製造の行為(原判示第2及び第4の事実)は,被告人の1個の行為が2個の罪名に触れる観念的競合として1罪となるのに,原判決は併合罪の関係にあるとしており,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,被害児童と性交又は性交類似行為をして撮影し,これをもって児童ポルノを製造した場合,被告人の上記条例に触れる行為と児童ポルノ法7条4項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえない。また,両行為の性質等に鑑みると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである(児童福祉法の児童に淫行をさせる罪と児童ポルノ製造罪との罪数に係る最高裁判所平成21年10月21日第一小法廷決定刑集63巻8号1070頁を参照。
なお,仮に,条例違反の行為と児童ポルノ製造の行為とが観念的競合の関係にあり,これを併合罪の関係にあると解することが誤りであるとの立場に立ったとしても,処断刑の範囲や考慮すべき量刑事情に差異を生じさせるものではないから,明らかに判決に影響を及ぼすとはいえない。)。論旨は理由がない。
第6 量刑不当について
論旨は,被告人を懲役4年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である,というのである。
そこで検討すると,本件は,被告人が
①(ア)当時15歳の児童であるBと3回にわたり性交して淫行をし(条例違反。原判示第1の事実),(イ)その際,Bの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第2の事実),
②(ア)当時16歳(3回目の行為時は17歳)の児童であるCと3回にわたり性交又は性交類似行為をして淫行をし(条例違反。同第3の事実),(イ)その際,Cの姿態を撮影して児童ポルノを製造し(同第4の事実),
③(ア)当時13歳のAを誘拐した(未成年者誘拐。同第5の事実)上,(イ)Aに2回にわたり被告人を相手に性交及び口淫をさせて児童に淫行をさせる行為をし(児童福祉法違反。同第6の事実),(ウ)その際,Aの姿態を撮影して児童ポルノを製造した(同第7の事実)
という事案である。
原判決は,以下の諸事情を考慮して,量刑を行っている。すなわち,被告人は,家出願望のあったAを誘拐し,5日間にわたり被告人方に寝泊まりさせて,複数回性交等に及び,その姿態を撮影した。この一連の犯行は,保護すべき児童を性的に弄んだ卑劣かつ悪質な犯行であり,Aに与えた悪影響は大きい。B及びCに対する各犯行も,出会い系サイトで知り合った後,複数回性交等をし,その姿態を撮影して児童ポルノを製造したものであって,児童らに与えた悪影響は大きい。被告人には厳しい非難が向けられるべきである。他方で,Aに対し100万円とその遅延損害金を供託し,Aとその母に謝罪したことや,反省の態度を示し,性嗜好障害を治療する意向を有していること,親族が監督をする意向を表したこと,同種の前科がないことなどの被告人に有利な事情も認められるので,これらの事情も考慮し,懲役4年に処するのが相当である,というのである。この量刑判断は相当であり,是認できる。
これに対し,所論は,以下のとおり主張する。すなわち,①Aが被告人方に寝泊まりをしていたのは5日間にすぎないこと,被告人方は,Aが独力で帰宅できる範囲内にあったこと,本件で問題とされたAに対する性交等は2回にすぎないこと,被告人は,100万円及びその遅延損害金をAに対する関係で供託していること,同種前科がないこと,反省し,性嗜好障害の治療を受け,再犯をしない旨誓っていることなどの事情からすると,原判決の量刑は,同種の事案と比較して,重きに失する。②原判決後,被告人が,A及びその親族との間で和解を成立させ,これに基づき上記供託金のほか200万円を支払ったこと,B及びCに対するしょく罪の趣旨で,合計40万円を法律援護基金に寄附したこと,性嗜好障害の通院治療を継続する必要性が認められること,反省を深めたことを考慮すべきである,というのである。
しかし,①については,原判決も所論指摘の事情を考慮して量刑判断を行っている。被告人がB及びCに対する条例違反及び児童ポルノ製造にも及んでおり,複数の児童に対して同種の行為を常習的に繰り返した点をも踏まえると,原判決の量刑判断が,同種事案と比較して,重過ぎて不当とはいえない。
②については,確かに,当審における事実取調べの結果,Aは親権者である母らと共に,刑事損害賠償命令を申し立てて,被告人に対して損害賠償の請求をしていたところ(その請求額は,証拠上明らかではない。この刑事損害賠償命令申立事件は,原裁判官が担当している。),原判決後の審尋期日において,被告人がAらに対し供託金101万8493円に加えて200万円を支払う旨の和解が成立し,被告人はこれを履行した事実が認められる。
また,被告人がB及びCに対するしょく罪の趣旨で,原判決後に合計40万円寄附した事実も認められる。しかし,Aは被告人に対して刑事損害賠償命令を申し立てていたのであるから,原審の段階で,原判決後に,適当な賠償額で,被告人のAに対する賠償命令が出されるか,あるいは,和解が成立するかが,見込まれていたといえる。また,被告人の伯母であるDの原審証言や被告人の公判供述によれば,被告人がB及びCに対する賠償の趣旨でしょく罪金を支払うことを検討していたことや,被告人には賠償金を支払う資力はないが,伯母や両親の助力で賠償金を用意したことが認められる。そうすると,被告人にとって,Aに対する適当な賠償額で賠償金を支払うことや,B及びCに対するしょく罪の趣旨で寄附をすることは,原審の段階で実現可能であったといえるし,原判決も,原判決後にこれらのことが実現され得る可能性も一定程度踏まえて量刑判断をしたものと思料される。さらに,本件各犯行は児童らの心身の健全な成長や発達を害した犯行であり,各児童,特にAの心身に与えた影響の大きさ等の本件の犯情や各罪の保護法益を考慮すると,原判決後に金銭賠償された事実を量刑上大きく評価することはできない。以上によれば,所論指摘の各事情が認められるとしても,原判決を破棄しなければ明らかに正義に反するとまでは認められない。所論はいずれも採用できず,論旨は理由がない。
第7 よって,刑事訴訟法396条により,主文のとおり判決する。
平成30年10月29日
札幌高等裁判所刑事部
裁判長裁判官 登石郁朗
裁判官 瀧岡俊文
裁判官 深野英一