児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童が口淫しているのを、「口腔性交する」(刑法177条)と評価される場合と、性交類似行為(児童福祉法違反)と評価される場合

 こういう法文です。
 作為犯になっています。

刑法第一七七条(強制性交等)
 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 一見して、被害者が口淫しているように見えても、暴行脅迫があれば、主体は男性と評価されて、強制口腔性交罪になります。

阪高裁R02
法令適用の誤りの控訴趣意について
弁護人は,被告人は被害者の口腔内に陰茎を無理矢理挿入したのではなく,被告人が求めて,被害者がそれに応じて口淫しており, 口が陰茎に近づいたのであるから, 口腔性交は未遂である旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,被告人は,Aと面識がないのに,暴行脅迫を加え, Aを抵抗できない状態にした上, Aに口淫することを求めながら, Aの口元に自己の陰茎を押し当て, Aは, ~被告人の言うことを聞くしかないと考えて,被告人の陰茎を口の中に入れたことが認められる。
そうすると,被告人は, Aに対して,暴行脅迫を用いて口腔性交をしたと認められ, 口腔性交は未遂である旨の弁護人の主張は採用できない。

 問題は13歳未満が口淫している場面です。
https://okumuraosaka.hatenadiary.jp/entry/2017/08/28/000000
で検討しているように、主体がどっちかで判断されます。

今井將人「刑法の一部を改正する法律」の概要(上) 警察公論2017年10月号
編集
イ要件
「性交」とは。改正前の刑法177条の「姦淫」と同義であり,膣内に陰茎を入れる行為をいう。
「肛門性交」とは肛門内に陰茎を入れる行為をいい, 「口腔性交」とは口腔内に陰茎を入れる行為をいう*7。
「性交」。「肛門性交」及び「口腔性交」を合わせて「性交等」ということとされており, これらの行為には. 自己又は第三者の陰茎を被害音の膣内等に入れる行為だけでなく、自己又は第三者の膣内等に被害音の陰茎を入れる行為(いわば、入れさせる行為)を含む。具体的には,女性が行為主体となって,男性の陰茎を自己の膣内,肛門内又は口腔内に入れさせる行為や,男性が別の男性の陰茎を自己の肛門内又は口腔内に入れさせる行為も、本罪による処罰対象となる。
*7 例えば、陰茎を膣内に全く入れずに単に舌先でなめる行為や、女性の外陰部をなめる行為などは「口腔性交」には当たらない。

 児童淫行罪の場合だと、影響関係があればいいから、性交類似行為させたと評価できます。
 強制口腔性交罪において、児童が口淫しているのを「口腔性交した」と評価できるかですが、被害者の行為を利用した間接正犯を検討する必要があると思います。
 そこでこういう主張を用意しました。

 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 口腔性交罪は、「者に口腔性交した者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

間接正犯
1 意義 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することをいう。例えば,医師が事情を全く知らない看護師を利用して患者に毒物を飲ませるとか,情を知らない郵送機関を利用して,毒殺のための毒物を郵送する(大判大正7・11・16刑録24・1352)など,構成要件要素としての故意がない者を利用する間接正犯の例は多い。行使の目的のない他人を利用して通貨を偽造させたり(目的なき故意ある道具),公務員が非公務員を利用して虚偽文書を作成させるような場合(身分なき故意ある道具)も間接正犯とされる。被利用者の適法行為を利用する間接正犯(大判大正10・5・7刑録27・257),被害者の行為を利用する間接正犯(最決平成16・1・20刑集58・1・1)も認められる。いわゆる「故意ある幇助的道具」(故意はあるが正犯者の意思を欠き,もっぱら利用者を幇助する意思で行おうとする者)を利用する行為も間接正犯である(最判昭和25・7・6刑集4・7・1178)。
[株式会社有斐閣 法律学小辞典第4版補訂版]

 本件は、被告人は陰茎を挿入してないから。間接正犯の問題にほかならない。
被害者を利用した間接正犯の事例*1では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。

裁判年月日 平成27年11月13日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(わ)887号 ・ 平24(わ)986号 ・ 平25(わ)120号 ・ 平25(わ)211号 ・ 平25(わ)439号 ・ 平25(わ)573号 ・ 平25(わ)827号
事件名 死体遺棄、逮捕監禁、殺人、監禁、詐欺、生命身体加害略取、傷害致死被告事件
裁判結果 有罪(無期懲役(求刑 無期懲役)) 上訴等 控訴<控訴棄却> 文献番号 2015WLJPCA11139002(4) 殺人罪の成否等の検討
 このように,弁護人が指摘するとおり,V1はAから何度も死ぬよう命じられるたびに了承し,拒否・反論の態度を一切明確にしていない。また,被告人だけでなく,証人として出廷したFもBも,口をそろえて,V1は死ぬことを覚悟しているように見えたと述べている。


 この判決の論理に従うなら、被害者を利用した間接正犯として議論される「自殺強要」はすべて殺人罪の単独正犯として処理されることになる。