児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

脅迫によるsextingは強制わいせつ罪(176条)で、児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R04.01.20 確定)

 脅迫によるsextingは強制わいせつ罪(176条)で、児童ポルノ製造罪とは観念的競合(大阪高裁R04.01.20)
 わいせつ行為と評価されるのは、「撮影させ」まで。
 これまでは、強要罪だとか言って、製造とは併合罪としていましたよね。

東京高裁H28.2.9
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがある

阪高裁R04.01.20
2理由不備ないし理由齟齬の論旨について
所論は,次のとおり,原判決には理由不備ないし理由齟齬がある,というものである。
(1)所論は,①上記「第2当裁判所の判断1弁護人の主張①について」で認定した訴因外の事実を含めて強制わいせつ罪となるのであるから,原判示第1の罪となるべき事実だけでは,強制わいせつ罪を充たさないことや,②原判示第1の罪となるべき事実だけでは,強要罪との区別がつかないことからすると,理由不備に当たると主張する。
しかし,①については、罪となるべき事実第1の記載自体で、被告人が被害者から受信していた同人の乳房等が露出するなどした静止画データを利用して、被害者に対し脅迫文言を伝え、強いてわいせつな行為をしたことが明らかであるし、所論が訴因外の事実であると指摘する本件の経緯は、上記1で説示した趣旨で認定されたものであって、上記静止画データを利用すること以上に、罪となるべき事実として事細かに記載すべき内容ではないから、理由不備には当たらない。
次いで、②についてみると、罪となるべき事実第1は,上記のとおり,被告人が性的な意図の下,被害者を脅迫して,その反抗を著しく困難にした上,被害者にその意思に反して、性的な意味合いの強い乳房等を露出した裸体になるという性的行為を強いて,被害者の身体を性的な対象として利用できる状態に置く行為であり,かつ,これを強いて撮影させて記録化することで,その内容や態様を被告人や第三者が知り得る状態に置き,性的侵害性を強める行為であるから,単なる強要罪に当たる行為にとどまらず,強制わいせつ罪を構成することが明らかである。
以上と異なる評価をいう所論は採用できない。
・・・
3法令適用の誤りの論旨について
所論は,次のとおり,原判示第1の強制わいせつ罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
(1)所論は,本件は,被害者を利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯となり得ないところ,被害者は道具化していないから,間接正犯は成立せず,強要罪か準強制わいせつ罪に当たると主張する。
しかし,刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。
これと同旨の原判決は正当である。
原判決の説示が「わいせつな行為」について、意味不明で独自の定義を作出するものであり,理由不備があるとする主張も含めて、所論は独自の見解であって、採用できない。
関連して所論は、原判決は、画像要求行為と被害者自身の撮影行為の全体をわいせつな行為と解している点で誤っており,全国の都道府県で画像要求行為を独立に処罰化する動きがあることは、同行為をわいせつな行為と評価することが困難であることを示していると主張する。
しかし、原判決は、被害者をして乳房等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させたことを含めて、わいせつな行為とみているのであり,画像要求行為そのものがわいせつな行為に当たると判断しているわけではないから、所論は前提を誤った主張であり,採用できない。
(2)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,刑法176条の「わいせつな行為」は明確な定義がないし,原判決もその定義を示せていないので)あって,漠然不明確であるから,同条項は罪刑法定主義に反して文面上無効であるのに,原判決は,同条項を適用して強制わいせつ罪の成立を認めたと主張する。
しかし,「わいせつな行為」という言葉は,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持つことができる言葉であるし,これまでの実務上,多くの事例判断が積み重ねられており,それらの集積からある程度の外延がうかがわれるものである。
そして、「わいせつな行為」を別の角言葉で分かりやすく表現することには困難を伴う上,定義付けた場合に、かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。
また,定義付けしても,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」に該当するのか否かを直ちに判断できるものでもない。
「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断方法こそが重要であり、定義付けが必須とはいえない。
所論は,種々指摘して、刑法176条は罪刑法定主義に反しており無効であるというが,独自の見解であって採用できない。


(3)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,被害者に撮影させ,記録させ,送信させて,被告人が受信するまでしていれば、わいせつな行為と評価される余地はあるが,撮影させた行為だけではわいせつな行為に当たらないし,被告人の性的意図を考慮すると強制わいせつ未遂罪にとどまると主張する。
しかし,被告人が被害者を脅迫して、要求どおり裸の写真を撮影させた行為が強制わいせつの既遂に当たることは、上記のとおり明らかである。
被害者の意思に反して乳房等を露出する姿態をとらせ,これを撮影させるだけで十分な法益侵害性が認められるから,現実に画像データを送信させる行為は,強制わいせつ罪の成立を認める上で不可欠の要素とはいえない。
異なる評価Iをいう所論は採用できない。
(4)所論は,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提とされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的にみて,被害者の目の前にいるといえなければ,わいせつな行為にあたらないと解されるところ、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから,規範的にみて被害者の目の前にいるといえず、わいせつな行為に当たらないと主張する。
しかし,有形力の行使を伴わない非接触型の強制わいせつの成否を、有形力を伴う接触型という類型を異にする強制わいせつの成否と同様に考える必然性はなく,所論は前提において失当である。
規範的にみて被害者の面前にいるとはいえなくても,本件のように,被害者を畏怖させて,強いてその身体を性的な対象として利用できる状況に置き,これを撮影させることで、接触を伴う強制わいせつと同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである。
所論は採用できない。
(5)所論は,原判示第1の強制わいせつ罪と同第2の児童ポルノ製造罪は,それぞれに該当する行為が,自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,両罪は観念的競合であるのに,原判決は併合罪として処理した違法があると主張する。
そこで検討するに,本件のように,被害者を脅迫して、被害者にその乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させ,その画像データを送信させ,被告人が使用する携帯電話機でこれを受信,記録して児童ポルノを製造した場合,姿態をとらせるための具体的な手段である脅迫が、児童ポルノ法7条4項の児童ポルノ製造罪において必須の行為ではないことを考慮しても、強制わいせつ罪に当たる行為は、上記児童ポルノ製造罪に当たる行為にほぼ包摂され、大幅に重なり合っているといえる。
そして、乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させること以外にわいせつな行為が存在せず、かつ、当初から被告人が撮影後、画像データを送信するよう要求していた事案であって、ほぼ同時に送信、受信、記録が行われたことを考慮すると、脅迫が必須の手段ではないという上記の点を踏まえても、両行為は通常伴うものということができる。
これらのことからすると、両行為は、自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,本件において、両罪は観念的競合であるというべきであり,これを併合罪であると判断した原判決には,所論が指摘するとおり,法令適用の誤りがある。

判例番号】 L07120170
       強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成27年(う)第1766号
【判決日付】 平成28年2月19日
【判示事項】 強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
【参照条文】 刑法45前段
       刑法54-1前段
       刑法223-1
       児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前)7-3
【掲載誌】  東京高等裁判所判決時報刑事67巻1~12号1頁
       判例タイムズ1432号134頁
       LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 本件控訴を棄却する。

       理   由

 弁護人奥村徹の控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤りおよび量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
 1 法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
 (1) 強要罪が成立しないとの主張について
 記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
 すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
 弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
 しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名および罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
 また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
 そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
 以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
 (2) 公訴棄却にすべきとの主張について
 以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
 また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
 以上のとおり,本件は,強要罪および3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
 (3) 小括
 以上の次第で,法令適用の誤りおよび訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
 2 法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
 法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
 なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
 3 量刑不当の主張について
 論旨は,被告人を懲役2年,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は,重すぎて不当であり,執行猶予を付した罰金刑か,より軽い懲役刑(執行猶予付き)とされるべきである,というのである。
 そこで検討すると,本件は,前示のとおりの強要罪,3項製造罪の事案であるが,原判決は,未成熟な被害者を利用した犯行動機に特段の酌量の余地がないこと,製造に係る児童ポルノ画像数が11点と多いこと,脅迫の手口が卑劣で悪質なことなどを指摘し,一方で,被告人に前科がなく,反省の弁を述べていることなどの有利な事情をも踏まえて,前示の刑を量定したものである。
 原判決の上記量刑判断は,当裁判所も相当として支持することができる。
 弁護人は,強烈な脅迫文言はないこと,被害者1名に対する1回の事案であること,被告人が原判決後に反省を深めたことなどを考慮すべきである旨主張するが,これらは原判決が前提としているか,原判決の量刑を左右しないものである。
 また,弁護人は,類似事例の量刑を指摘して原判決の量刑を論難するが,個別事情が様々な事案を指摘するもので本件に不適切である。
 量刑不当をいう論旨は,理由がない。
 4 結論
 よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
  平成28年2月19日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官  藤井敏明
           裁判官  福士利博
           裁判官  山田裕文


追記
控訴理由第7は研修876号の大竹検事の見解でしたが、「失当」とされました。大竹検事ごめんなさい。

阪高裁r040120
(4)所論は,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提とされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的にみて,被害者の目の前にいるといえなければ,わいせつな行為にあたらないと解されるところ、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから,規範的にみて被害者の目の前にいるといえず、わいせつな行為に当たらないと主張する。
しかし,有形力の行使を伴わない非接触型の強制わいせつの成否を、有形力を伴う接触型という類型を異にする強制わいせつの成否と同様に考える必然性はなく,所論は前提において失当である。
規範的にみて被害者の面前にいるとはいえなくても,本件のように,被害者を畏怖させて,強いてその身体を性的な対象として利用できる状況に置き,これを撮影させることで、接触を伴う強制わいせつと同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである。
所論は採用できない。

控訴理由第7 法令適用の誤り~研修876号の大竹検事の見解では「遠隔であってもオンラインで生中継させるなど脅迫行為と同時に撮影させる場合のみが強制わいせつ罪となる」とされているが、本件では、脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから、わいせつ行為にはならない(判示第1)
1 研修876号の見解
 遠隔で撮影させる行為が「わいせつ行為」になるにしても、撮影だけなのか、送信させる行為も含むのかについては、いろいろな考え方があるところ、研修876号では、
生中継させた場合には、

「犯人が遠隔地にいるからといって,自己の裸を他人の目に直接さらすということに違いはなく,遠隔地でオンラインでつながっていることは,規範的に見て,目の前にいることと違いはないという結論に至りました。」

という強気な見解である一方、
撮影・送信させる場合には

「被害者に自分の裸を撮影させて,後でその動画を送らせる,すなわち,裸の動画を撮影している際には,犯人が被害者の面前にいるとは規範的にも言えない場合は,わいせつな行為に当たるかも検討しました。これについては,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提にされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的に見て,被害者の目の前にいると言えなければ,わいせつな行為に当たらないという意見」
「遠隔地にいる被害者を脅迫して,被害者の裸の写真を送らせた行為について,強制わいせつ罪で逮捕状を請求したところ,これを却下された事例があるという報告もありましたが‘この裁判官も上述したのと同じ理由で。強制わいせつ罪に該当しないと判断したものと思われます

と弱気な見解となっている。

大竹依里子「オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例」 研修876号
第2 本事例の概要及び原庁での処理内容等
本事例は,被告人が,当時10歳ないし11歳の児童4名(以下,「被害児童」という。)に対し,オンラインゲーム上で使用できるアイテム等を交付することの対価として,被害児童がその陰部等を露出したり,手で陰部を触るなどの姿態を撮影させ,撮影させた映像を,被害児童の携帯電話機のビデオ通話機能を使用して,被疑者の携帯電話機にライブ配信させた上,同映像を被疑者の携帯電話機本体に記録して保存した事案です。
原庁は,本件について,児童ポルノ製造罪だけでなく,強制わいせつ罪も成立するとして,両罪で公判請求し,一審の判決も公訴事実どおりの罪を認定しました。

 遠隔の医療行為に配慮したようだ。

しかし,陰部を直接撮影していたとしても,医師が治療行為の一環として,陰部にできた腫瘍を記録・保存する行為を想定したとすると,わいせつな行為だというのは,違和感を覚えます。

 そこで本件でも強制わいせつ罪の訴因は「撮影させ」に留まっている。

 大竹検事に問い合わせると、研修の事案は熊本地裁R3.1.13だという。刑事確定訴訟記録法で閲覧したところ、児童がLINEで裸体を生中継して、被告人が同時に視聴した事案を強制わいせつ罪(176条後段)にしたものである。(さらにこれを1号ポルノ(性交・性交類似行為)で起訴した模様である。)
 生中継だから、同時であって、面前のわいせつ行為と同評価できるというのである。
 この研修の見解に従えば、本件では、脅迫行為と、撮影行為とは少し時間がズレているので、強制わいせつ罪に該当しない。
 にもかかわらず強制わいせつ罪を認めた原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

追記
控訴理由第4は立石検事の見解ですが、「刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。」とされました。立石検事ごめんなさい

控訴理由第4 法令適用の誤り~立石検事の主張によれば、本件は「被害者を利用した間接正犯」になっていなければ強制わいせつ罪の正犯とはなり得ないところ、被害者Aは道具化していないから、間接正犯になっていないから、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪か準強制わいせつ罪であること
1 自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行することを間接正犯という
 強制わいせつ罪は、「者にわいせつ行為をした者は」という法文であるから、犯人自らが、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら行うのが原則であって、他人を介する場合には、間接正犯を検討する必要がある。

 本件は、被告人は撮影せず、Aを介して裸体を撮影しているから、間接正犯にほかならない。
 
 原判決は「社会通念上わいせつ行為とされているものの中には,被害者を脅し,畏怖状態を利用してその着衣を自ら脱ぎ,卑猥な姿態を取るよう要求してこれを被害者に行わせる等,暴行・脅迫により反抗が著しく困難な状況を利用して性的な行為を要求し,被害者に応じさせるような態様のものも当然含まれる。したがって,刑法176条にいうわいせつ行為を「した」とは,被害者にわいせつ行為を要求し,これを被害者にさせた場合も当然含む」というのだが、このような学説・判例はなく、原審の独自の見解である。

原判決
(3) 弁護人の主張ⅱについて
 わいせつ行為についての理解は下記ⅲに述べるとおりであるが,社会通念上わいせつ行為とされているものの中には,被害者を脅し,畏怖状態を利用してその着衣を自ら脱ぎ,卑猥な姿態を取るよう要求してこれを被害者に行わせる等,暴行・脅迫により反抗が著しく困難な状況を利用して性的な行為を要求し,被害者に応じさせるような態様のものも当然含まれる。したがって,刑法176条にいうわいせつ行為を「した」とは,被害者にわいせつ行為を要求し,これを被害者にさせた場合も当然含むと解される。
 そして,本件も,被告人は,被害者を上記のとおり脅迫して畏怖させた上で,自己の裸体の写真を撮影することを要求してこれに応じさせているのであって,これがわいせつ行為を「した」に該当することは明らかである。
 弁護人及び被告人は,被害者にわいせつ行為をさせた場合は間接正犯であると主張し,それを前提に,被害者の行為に道具性がない,行為支配がないと主張するが,そもそも構成要件により被害者の行為が予定されている場合(強要罪等)は,これを間接正犯とはいわない。脅迫により畏怖し,要求に応じたのであれば,それ以外の要素として道具性や行為支配を検討する必要はないのであって,弁護人の主張は採用できない。

 原判決が言及する強要罪は、もともと「人に義務のないことを行わせ」という法文であって、犯人が脅迫して被害者をして行為させるという構成要件になっているので、間接正犯性は問題にならないのは当然であり、強要罪で間接正犯性を問題にしないから、(法文上他人を介することが予定されてない)強制わいせつ罪でも間接正犯性が問題にならないというのは失当である。理由になってない。

2 強制わいせつ罪の公訴事実は被害者を利用した間接正犯のような記載であること
 Aをして「姿態をとらせた上、これを同人に撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、」という記載だから、「自ら,直接手を下さず,人を道具のように利用して犯罪を実行すること」であって間接正犯構成である。

3 被害者を利用した間接正犯だとして、脅迫によって道具と化していないこと
 脅迫と言っても、会ったこともなSNSの先の人物からであるし、「殺すぞ」という強度なものではなく、「画像を流布するかもしれない」という程度である。これでは間接正犯理論の道具と化していない。「その反抗を著しく困難にした上」では、道具となっている主張とは読めない。
 被害者を利用した間接正犯の事例では、継続的な脅迫等により支配していたような関係が要件となっているようである。会ったことも無くLINEのやりとりをしていただけの関係では、正犯と同視できない。


 これでは被害者を利用した間接正犯における道具化しているとは言えない

4 暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」から強制わいせつ罪になるわけではない。という立石検事の答弁書は正解である。
 裸体行為を撮影送信させた行為を強要罪であって強制わいせつ罪ではないという高裁判例は幾つかあるが、強要被告事件の控訴事件では検察官は、撮影する行為と撮影させる行為は違い、撮影させる行為はわいせつ行為にはならないと繰り返し主張していた。
名古屋高裁金沢支部H27.7.23(富山地裁高岡支部h27.3.3)(裁判例24)

名古屋高裁金沢支部H27.7.23(福井地裁h27.1.8)(裁判例22)

 検察官答弁書控訴審判決に引用されて判決の一部を構成しているので紹介しておく。
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23(裁判例22)
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23(裁判例24)

 コピペの答弁書なので、該当部分を引用しておく

名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23
 被告人自らが撮影する場合と,被害者に撮影させる場合とでは,被害者にとってみれば,他人に自らの恥ずかしい姿態を撮影されることと,自らがそれと知りつつ撮影することの違いが生じているのであって,その性的差恥心の程度には格段の差があり,必然的に強制わいせつ罪の保護法益である「性的自由」の侵害の程度も両態様を比較すれば大きく異なる。
 かかる差は強制わいせつ罪における「わいせつ行為」か否かの判断においては重要な要素を占めているものと思われるのであり,被害者の恥ずかしい姿態を被告人自ら撮影する行為がわいせつ行為であると認定されたとしても,被害者に恥ずかしい姿態を撮影させる行為をもって,直ちに強制わいせつ行為であると認定するには躊躇せざるを得ない。弁護人が縷々掲げる判例,裁判例が存在するにもかかわらず,これまで,本件のみならず,暴行脅迫により被害者自らに恥ずかしい姿態を「撮影させた」事案は多数件にわたり発生しているものと思われるところ,かかる事案を強制わいせつ罪として積極的に処断した事例はほとんどないものと思われるが,それはかかる理由によるものであろう。
ウ この点,弁護人は,「被害者を強要して撮影させる行為も間接正犯と構成するまでもなく,性的意図を満たす行為であれば,わいせつ行為である」とのみ記載する。弁護人が「間接正犯と構成するまでもなく」との文言の意味は定かではないが,間接正犯として構成できるかどうかは,実際に撮影した者が被害者自身であっても,行為者自らが「撮影する行為」として認定できるかどうかの分水嶺であるほど重要な争点であって,およそ「間接正犯と構成するまでもなく」の一言で片付けられる事情ではない。また,強制わいせつの間接正犯が成立するような場合は,むしろ準強制わいせつ罪の対象になるものと思われる。しかしながら,本件の事実関係を前提にするならば,およそ準強制わいせつ罪の成否が問題となる事案ではなく,また,間接正犯の成立が考えられる事案でもないことは明らかである。この点につき,弁護人何ら理由が示されていない。加えて,「性的意図を満たす行為」であればわいせつ行為である旨の論旨はおよそ理由がない。

 立石検事の答弁は、撮影させる行為は、強制わいせつ罪の間接正犯の問題(被害者を利用する間接正犯)になって、LINEでちょっと怖いこと言ったぐらいでは道具になっていないので、強制わいせつ罪の間接正犯にはならない(強要罪が正解)という点では、弁護人の主張と同じである。

阪高裁r040120
3法令適用の誤りの論旨について
所論は,次のとおり,原判示第1の強制わいせつ罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
(1)所論は,本件は,被害者を利用した間接正犯になっていなければ、強制わいせつ罪の正犯となり得ないところ,被害者は道具化していないから,間接正犯は成立せず,強要罪か準強制わいせつ罪に当たると主張する。
しかし,刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行、脅迫を加えて、被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて、被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ、その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際、それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。
これと同旨の原判決は正当である。
原判決の説示が「わいせつな行為」について、意味不明で独自の定義を作出するものであり,理由不備があるとする主張も含めて、所論は独自の見解であって、採用できない。
関連して所論は、原判決は、画像要求行為と被害者自身の撮影行為の全体をわいせつな行為と解している点で誤っており,全国の都道府県で画像要求行為を独立に処罰化する動きがあることは、同行為をわいせつな行為と評価Iすることが困難であることを示していると主張する。
しかし、原判決は、被害者をして乳房等を露出した姿態をとらせ、これを撮影させたことを含めて、わいせつな行為とみているのであり,画像要求行為そのものがわいせつな行為に当たると判断しているわけではないから、所論は前提を誤った主張であり,採用できない。