強制わいせつ罪(176条後段)が立つ場合に、児童が犯人に淫行した(犯人が児童に淫行させた)と言えないと思うし、数回の強制わいせつ罪(176条後段)が科刑上一罪になっちゃうので、児童淫行罪立てない方がいいと思う。
口淫とかが強制口腔性交罪になったときも児童淫行罪立ててくれるのかなあ。
水戸地方裁判所平成29年08月21日
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、●●●学童保育所●●●を運営し、指導員を務めていた者であるが、(平成29年3月14日付け追起訴状記載の公訴事実第3、第4、平成28年7月29日付け起訴状、同年8月29日付け訴因変更等請求書記載の公訴事実)
第1 本件学童保育所に通所していたAが13歳未満であることを知りながら、
1 別表1記載のとおり、平成26年6月11日から同年9月17日までの間、4回にわたり、本件学童保育所等において、指導員としての立場を利用し、Aに被告人の陰茎を口淫させるなどし、もって13歳未満の男子に対し、わいせつな行為をするとともに、児童に淫行をさせる行為をし、
2 第1の1記載のとおりAに被告人の陰茎を口淫する姿態などをとらせ、それを自己が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で撮影し、それらの動画データ合計6点をその携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって児童による性交類似行為に係る姿態若しくは他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し、
3 平成27年10月28日午後6時55分頃、茨城県内において、指導員としての立場を利用し、Aに被告人の陰茎を口淫させ、もって13歳未満の男子に対し、わいせつな行為をするとともに、児童に淫行をさせる行為をし、
4 第1の3記載のとおりAに被告人の陰茎を口淫する姿態をとらせ、それを自己が使用する動画撮影機能付き携帯電話機で撮影し、その動画データをその携帯電話機(平成29年水戸地領第106号符号1)の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって児童による性交類似行為に係る姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し、
・・・
(争点に対する判断)
第1 争点
弁護人は、Dを除く被害児童ら(以下、「争点に対する判断」の項では単に「被害児童ら」という。)に関する児童淫行罪の成否について、被告人は、被害児童らとの間で口淫や手淫等をしたが、児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長、促進したとはいえないから、被告人の行為は児童福祉法34条1項6号にいう児童に淫行を「させる行為」には該当せず、児童淫行罪は成立しないと主張する。
第2 検討
1 同号の「させる行為」とは、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいい、そのような行為に当たるか否かは、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容と児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容と淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断すべきである(最高裁平成28年6月21日第一小法廷決定・刑集70巻5号369頁参照)。
2 これを本件についてみると、被告人の公判供述、供述調書に加え、被害児童らやその保護者らの供述調書等の証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件学童保育所は、保護者が仕事などで日中に家庭にいない小学生を対象とする施設であり、放課後や長期休暇の際に、複数の指導員が、施設で児童に遊び、おやつ、宿題などをさせた後、夕方に児童を自宅に送り届けるなどしていた。被告人は、本件学童保育所を運営し、指導員も務めていた。被害児童らは、いずれも、本件学童保育所に通所していた小学生であり、指導員の中でも特に被告人を信頼し、懐いていた。
(2) 被害児童らは、口淫、手淫といった行為があることやそのやり方など、性的な行為に関する知識がないか、極めて乏しかった。
(3) 被告人は、被害児童らに対し、それぞれ、口淫を「ピースケ」と、他人の性器を手淫することを「お手手」と呼び、それらのやり方を説明するなどして、口淫や手淫のことを教えた。
(4) その上で、被告人は、判示のとおり、本件学童保育所や、被害児童らを送迎する自動車内、本件学童保育所の行事で宿泊した施設などにおいて、男児である被害児童らとの間で、相手方の陰茎を口淫したり、手淫したりするなど、性交類似行為を行った。
3 以上の事実関係に基づき検討する。
(1) 被害児童らは、いずれも、被告人が運営し指導員も務めていた本件学童保育所に通い、被告人ら指導員から世話を受けながら、本件学童保育所で親が帰宅するまでの時間を過ごしていた小学生であり、指導員の中でも被告人を特に慕っていた。その上、被害児童らは、性的な行為に関し、無知であるかそれに近い状態であったから、被告人は前記児童らに影響力を及ぼしやすい立場にあったと認められる。そして、被告人は、被害児童らに性交類似行為を教えて身に付けさせたというべきであり、性交類似行為をするに当たっては、被害児童らが本件学童保育所に通所した機会をよく利用していた。これらの事情を考慮すると、被告人は、被害児童らの淫行について、いずれも、単に淫行の相手方となっただけではなく、いわば指導員としての立場を利用し、事実上の影響力を及ぼして被害児童らが淫行をすることを助長し促進する行為をしたと認めるのが相当である。
(2) なお、被告人は、Aとの性交類似行為が始まったのは、本件学童保育所に通所する別の児童と被告人との間の性的な行為をAに目撃されてしまい、Aから、同じような行為をしたいと繰り返しせがまれたからであると供述する。しかし、被告人と本件学童保育所に通所していたAとの性交類似行為が始まったのは、Aが小学3、4年生の頃である(甲2、乙7)。また、当時のAは、前記のとおり、性的な行為については無知かそれに近い状態であり、指導員の被告人を慕っていた。これらのことからすると、仮に被告人が述べるような事情があったとしても、Aは、目撃した行為のやり方や行為の意味をよく理解しないで、自分も被告人とその行為をしたいとせがんだものと考えられる。にもかかわらず、被告人は、前記のとおり、Aに性交類似行為のやり方や呼び名などを教えて、Aと性交類似行為をし、また、Aに被告人との性交類似行為を口外しないことを約束させているから(被告人の公判供述、乙7)、被告人が事実上の影響力を及ぼしてAの淫行を助長、促進したとの評価は妨げられない。
(3) 次に、被告人は、Mとの間で行った一部の性交類似行為(肛門への陰茎の挿入)について、被告人からはそのような行為の説明をしたことがなかったのに、Mからそれをすることを申し出てきたと供述する。しかし、この供述を前提とするとしても、その性交類似行為が始まったのは、被告人の働き掛けで口淫や手淫が行われるようになった後のことであるから、被告人が説明をしていなかったとする前記行為も含めて、被告人は、事実上の影響力を及ぼしてMが淫行をすることを助長し促進する行為をしたと認められる。
(4) また、Jは、判示第10の2の事案の時点では、既に中学生(●●●)であり、本件学童保育所には通所していなかった。しかし、Jは、小学6年生まで本件学童保育所に通い(甲162、163)、前記のとおり、指導員である被告人を慕っていた上、既に被告人との間で性交類似行為を行っていたのであるから、前記事案においても、依然として、被告人からの誘いを断りづらい状況にあったと認められる。そして、被告人の公判供述やJの供述調書等によれば、前記事案において、被告人は、本件学童保育所に通っていたJの兄弟の送迎でJ宅を訪れた際、Jと偶然会うと、Jに性交類似行為をしようと誘い、送迎車の中でJと判示の性交類似行為を行ったことが認められる。以上の事情を考慮すると、被告人は、前記事案についても、元指導員としての立場を利用し、事実上の影響力を及ぼしてJが淫行をすることを助長し促進する行為をしたと認められる。
4 これに対し、弁護人は、〈1〉A以外の被害児童らに対する被告人の助長・促進行為は、児童と初めて性交類似行為に及ぶ際、性交類似行為のやり方を説明するというものであり、行為をするかは児童の意思に委ねられていた上、2回目以降の性交類似行為は、児童から誘われることが多かったこと、〈2〉被告人は、自分が同性愛者であることを児童に受け入れられた喜びから、児童と関係を深めたいという感情になり、性交類似行為に及んだことから、児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長、促進したとはいえないと主張する。
しかし、〈1〉の点については、淫行を助長、促進する行為は淫行を強制する場合に限られないから、被害児童らが、自分の意思で性交類似行為を行ったからといって、被告人が淫行を助長、促進したとの前記判断は左右されない。また、〈2〉のような経緯、動機自体は、被害児童らに対する影響力を高めたり、淫行を助長、促進したりするものではないが、既にみた事情に照らすと、被告人が事実上の影響力を及ぼして被害児童らの淫行を助長、促進したことは優に認定できる。弁護人の主張は採用できない。
第3 結論
以上によれば、被告人は、判示のとおり、指導員又は元指導員としての立場を利用し、被害児童らに淫行を「させる行為」をしたものと認められ、児童淫行罪が成立する。
(法令の適用)
なお、児童淫行罪の罪数については、被告人が、学童保育所の指導員としての立場を利用し、通所児童らに性交類似行為を教えたことに基づく犯行であるから、一部の事案は行為の期間が相当長く、断続的であることを考慮しても、犯行時期が学童保育所の退所前と退所後に分かれている判示第10の事案を除き、被害児童ごとに包括一罪になると解すべきである。また、児童ポルノ製造罪の罪数については、被告人は、前記のとおり指導員としての立場を利用して通所児童らと性交類似行為を繰り返し、携帯電話機を持ち合わせていなかった場合を除き、その様子を自分の携帯電話機で撮影して、動画データをその携帯電話機等に保存していたことが認められるから、各被害児童について、それぞれ、一連の機会に継続した意思により児童ポルノを製造したといえる。したがって、判示第10の事案以外の児童ポルノ製造罪については被害児童ごとに包括一罪になるというべきである。
(量刑の理由)
本件は、被告人が男児13名との間で口淫や手淫等の性交類似行為を行い、その場面を携帯電話機で撮影、記録するなどした強制わいせつ罪、児童淫行罪、児童ポルノ製造罪の事案である。
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(求刑 懲役12年、携帯電話機・HDD・デスクトップパソコンの没収)
刑事部
(裁判官 小笠原義泰)