児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

侵入型強制性交事件のうち、強制性交を無罪としたもの(宮崎地裁 R02.10.26)

侵入型強制性交事件のうち、強制性交を無罪としたもの(宮崎地裁
R02.10.26)

建造物侵入,強制わいせつ未遂,住居侵入,強制性交等被告事件
宮崎地方裁判所
令和2年10月26日刑事部判決

       判   決
 上記の者に対する頭書被告事件について,当裁判所は,検察官春口太志及び
国選弁護人成見暁子各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,
第2 正当な理由がないのに,令和元年8月27日午前2時頃から同日午前2
時56分頃までの間に,別紙の2記載の住居に無施錠の南西側寝室掃き出し窓
から侵入した(令和元年11月21日付け起訴状記載の公訴事実に係る事
実)。
(証拠の標目)《略》
(争点に対する判断)
第2 住居侵入・強制性交等被告事件(判示第2)について
1 公訴事実
 令和元年11月21日付け起訴状記載の公訴事実は,「被告人は,B(当時
16歳)の居室に侵入してBと強制的に性交をしようと考え,令和元年8月2
7日午前2時56分頃,別紙の2記載の住居に無施錠の南西側寝室掃き出し窓
から侵入し,同所において,布団の上で横になっていたBの傍らに横臥し,右
手をその頸部の下に差し入れ身体をBの身体に密着させてBの首筋を舐めた
上,上半身でその左肩を押さえ付け,Bが着用していた下着の中に手を差し入
れてその陰部に手指を挿入し,さらに,Bの両足の上に馬乗りになって両手で
Bの下着等を脱がせ,両手でBの両足を持ち上げるなどの暴行を加え,その反
抗を著しく困難にしてBと性交した。」というものである。
2 争点及び当裁判所の判断の骨子
 本件当夜,午前2時頃以降の深夜の時間帯に,被告人が,事前にBの承諾を
得ることなく,無施錠の掃き出し窓から,Bが布団を敷いて横になっていたB
方居室(以下「本件居室」という。)に立ち入ったことは,被告人も認めてお
り,争いがない。
 その後の経緯につき,検察官は,Bの公判供述に基づき,被告人は,公訴事
実のとおり,本件居室内で強いてBと性交した後,その場から逃走したと主張
する。
 これに対し,被告人は,本件居室内で公訴事実記載の行為は一切しておら
ず,被告人は,B方から退去した後,Bと一緒にB方の近所にあるアパートの
階段に移動し,同所で,Bの同意のもとで同人と性交した旨述べ,弁護人は,
公訴事実のうち,強制性交の点については,その事実自体がなく,住居侵入の
点は,被告人供述に係る事実関係に照らせば,可罰的違法性がないから,被告
人は無罪である旨主張する。
 当裁判所は,本件居室内で強制性交の被害を受けたというB供述は,信用性
に疑問が残り,他方,被告人の供述も,全面的に信用できるものではなく,取
り分け,Bが,被告人が勝手に家に入ってきたことを許容し,さらに,被告人
との性的な行為に任意に応じたかのように述べる点は信用できないものの,本
件居室内でBがいうような出来事はなかったとする部分は,にわかに排斥する
ことができず,結局,公訴事実のうち,強制性交の点は,認定できないと判断
した。
 以下,その理由を説明する。
3 関係証拠によれば,前述の争いのない事実に加え,以下の事実が認めら
れ,これらの点は,当事者も特に争っていない。
(1)Bと被告人は,インターネット上で知り合い,本件の約1週間前に,事
前に約束をして,B方付近で初めて実際に会った。
 しかし,その後,本件に至るまでの間,被告人からBにメッセージを送った
ことはあったが,Bの方は,被告人に対して一切連絡を取らなかった。
(2)別紙の4記載のBの友人(以下「C」という。)は,本件当夜の午前2
時56分頃,Bから,電話で,話があるから来てほしい旨頼まれ,自転車でB
方に向かった。
 Cが,B方の玄関前に到着し,Bに「ついた」というメッセージを送ると,
Bは,家の外に出てきて,Cに対し,部屋に入って来た男に無理やり犯された
という趣旨の話をした。
 その後,Bは,近所に住んでいる実母に対しても,電話をかけ,話したいこ
とがある,などと言って,その場に来てもらった上,前同様の話をし,事件翌
日(28日)の午前2時45分頃,実母及びCと一緒に警察署に行き,本件被
害を申告した。
4 Bの公判供述について
 Bの公判供述の要旨は,以下のとおりである。
〔1〕初めて被告人と会った時,被告人は,「初めまして」と言ってBに抱き
付き,服の上から胸を触ってきた。セックス目的で会いに来たのだと思い,突
き放した。被告人は,さらに,被告人の家に誘うようなことや,ホテルに行こ
うとか,近くのアパートの階段でしようとか言ってきたが,断って家に帰っ
た。その後,被告人からメッセージが来たが,返信せず,自分からメッセージ
を送ることもしなかった。
〔2〕本件当夜,布団の上で,窓(被告人が侵入した掃出し窓を指す。以下同
じ)に背を向けた状態で横になって携帯をいじっていると,窓が開く音がし
た。兄が帰って来たのだと思って窓の方を向くと,窓のそばの室内に男(被告
人)が立っていた。びっくりして助けを呼ぼうと思い,被告人に「友達に電話
をかけるから少し待って」と言って,幼なじみであるCに電話をかけ,「話し
たいことがあるから家に来てほしい」と言うと,Cは「すぐに行く」と言って
くれた。電話が終わった時,被告人は,Bの方に少し近づいており,そこから
Bの方に歩いてきて,Bの左横に寝てきた。そして,Bの首筋をなめたり,B
のパンツの中に手を入れて膣の中に指を入れたりした後,Bの足首に馬乗りに
なって,Bがはいていたハーフパンツと下着のパンツを脱がせ,陰茎をBの膣
に入れて腰を動かし,最終的に,Bのおなかの上に射精した。その後,被告人
は「また週末来る」と言って,入ってきた時と同じ窓から帰って行った。
 被害に遭っていた間,Bは,「やめて」と言ったり,脱がされないようズボ
ンを押さえたり,被告人を手で押したりして抵抗したが,父にインターネット
上で知り合った人と会っていることがばれて怒られるのが嫌だったし,知らな
い人と一緒に寝ているところを家族に見られたくなかったので,大声を出して
家族に助けを求めることはできなかった。
〔3〕被告人が出て行った後,まず,Cに,いつ来てくれる,という趣旨のメ
ッセージを送り,その後,台所にティッシュを取りに行き,その場で射精され
た精液を拭き取り,トイレに行き,シャワーを浴びてから,本件居室に戻っ
た。その後,Cから,来たと連絡があったので,外に出てCに会ったが,それ
までの間に,遠距離に住む彼氏に電話をし,レイプされたことなどを話した。
5 B供述の信用性について
(1)検察官は,B供述は,客観的証拠と整合し,信用性を左右するような不
自然,不合理な点はない旨主張する。
 しかしながら,B供述には,以下のとおり,本件居室内で被告人に性交され
たという,供述の核心部分の信用性評価に関わる重要な点において,関係証拠
によって認定できる事実等との間で看過できない不整合があり,検察官が指摘
するその他の事情を踏まえても,信用性に疑問が残るといわざるを得ない。
ア Cの行動との時間的な整合性
 まず,B供述のうち,被告人が本件居室に入って来た直後にCに電話をか
け,その直後に同室内で強制性交の被害を受けたという事実経過については,
検察官自身も基本的に信用性を肯定するC供述によって認定できるC自身の行
動との時間的な整合性の点で,重大な疑義がある。
 すなわち,Cは,Bから電話で来てほしいと頼まれた後のC自身の行動につ
いて,Bが怯えている様子だったので,急いで行こうと思い,二,三分で着替
えをすませ,すぐに家を出て自転車でB方に向かったが,電話のちょっと後
に,Bから「これそう?」というメッセージが来たので,準備を終えて家を出
る前に「今から出る!」というメッセージを返信した,と供述している。
 Cの上記供述のうち,Bとの電話を終えた後,すぐに着替えてB方に向かっ
たとする点は,Cが,事件の翌日,捜査官に対し,電話で来てと言われた約5
分後にBを訪ねたと説明していること(令和元年8月28日付け捜査報告書・
弁4。なお,Cは,公判でも,当時,捜査官にそのような説明をしたことを特
に否定していない。)と一貫しているし,B,C間で,通話の後,上記メッセ
ージのやり取りが交わされたこと自体は,客観的証拠によって裏付けられてお
り,そのメッセージのやりとりのタイミングに関する部分も,メッセージの内
容に即したものであり,上記C供述の信用性を疑う理由は何ら存しない。
 そうすると,Cは,Bとの通話を終えた数分後には,自宅を出て自転車でB
方に向かったが,自宅を出る前の時点で,既にBから「これそう?」というメ
ッセージを受け取っていたと認めるほかない。また,Cが,Cの証人尋問終了
後に捜査官に対して説明した経路を,弁護人が未明の時間帯に実際に自転車で
走行して計測した結果によれば,C方からB方まで自転車で移動した場合の所
要時間は,Cが普段使っていると説明した経路を通った場合は,四,五分程
度,Cが本件当夜に使ったと説明した経路を通った場合は,六,七分程度であ
ると認められる(甲36,弁15)。
 以上を前提に,B供述を時間的観点から検討すると,B供述によれば,
〔1〕被告人は,Cが,Bとの電話を終えて家を出るまで数分間で,Bがいう
強制性交等の実行行為を全て行った上,B方から立ち去り,〔2〕Bは,その
後,Cが自転車で自宅からB方に移動するまでのせいぜい六,七分程の間に,
シャワーを浴び,交際相手に電話をして本件について話すなどしたことにな
る。しかし,Bのいう被告人やBの行動が,それぞれ,そのような短時間でで
きるものかについては,Cが述べる着替えに要した時間等にある程度の誤差が
含まれ得ることを考慮しても,かなり疑問であるといわざるを得ない。その
上,被告人が犯行に要した時間(上記〔1〕の点)については,Bが,本件の
翌日の段階で,捜査官に対し,約30分間にわたって被害に遭ったと説明して
いたこと(弁4)との整合性も問題となるところ,両者の乖離の大きさからす
れば,一般に人の時間感覚が曖昧なものであり,取り分け,性犯罪被害に遭っ
ている最中の時間感覚が通常とは異なるものとなり得ることを踏まえても,そ
のような理由だけで,このような大幅なずれが生じた理由を説明することは困
難である。なお、BとCの説明に時間的な矛盾があることは,被害申告の当日
に作成された捜査報告書(弁4)において,既に指摘されていたことであり,
弁護人も,この点に着目した反証活動を行っているが,検察官は,論告におい
て,この点について何ら説明を試みていない。
 以上の点は,B供述のうち,Cに電話をかけたり,メッセージを送ったりし
た時点におけるB側の状況,すなわち,電話をかけたのは,本件居室内に被告
人が入って来た直後,強制性交の被害に遭う直前であり,「これそう?」とい
うメッセージを送ったのは,被告人が立ち去った直後であって,発信場所は,
いずれも本件居室内であったとする部分に,重大な疑念を抱かせる事情といえ
る。そして,Cに電話をかけたり,メッセージを送ったりした際の状況に関す
るB供述の内容は,およそ記憶違いをするような性質の事柄ではないことに加
え,特にCに電話をかけた状況については,Bは,これを,被告人が本件居室
内にいる間の一連の出来事として,強制性交の被害状況と密接に関連付けて供
述していることからすれば,前述の疑念は,本件居室において,果たしてBが
供述するような強制性交の被害があったのか自体についても,相当程度の疑問
を抱かせるものといわざるを得ない。 
イ Bが申告した場所から,精液を拭ったティッシュが発見されなかったこと
 次に,Bは,本件翌日午前2時45分頃,警察官に対して被害申告をした時
点で,腹部についていた精液をティッシュで拭い,これを本件居室内のゴミ箱
に捨てた旨説明していたが,その約5時間後に実施されたB方での鑑識活動
で,本件居室内のゴミ箱内からBのいうティッシュは発見されなかった(弁
4,5)。
 この点に関し,Bは,公判で,当時は本件居宅のごみ箱に捨てたという記憶
だったが,トイレに行ったので,トイレに流したのではないかという記憶もあ
った,などと述べる。
 しかし,実際はティッシュはトイレで流していたのだとすれば,なぜ,事件
の翌日の段階で,Bに当該ティッシュを本件居室のゴミ箱に捨てたという事実
と異なる記憶があったのか,B供述によっても判然とせず,この点は,検察官
が主張するように,強制性交という心的ショックの大きい被害を受けた直後で
あることによる記憶の混同ということだけでは,にわかに説明がつかない。被
告人が本件居室内で射精した事実の直接的な裏付けとなる重要証拠が,Bが本
件翌日の段階で警察官にした被害申告から数時間後に実施された鑑識活動によ
っても,Bが申告した場所から発見されなかったという事実は,Bの公判供述
の内容と併せて検討しても,やはり,B供述のうち,被告人が,本件居室内で
射精したという部分,ひいては,本件居室内で被告人に性交されたということ
自体について,B供述の信用性に疑問を抱かせる事情であるといわざるを得な
い。
(2)検察官の主張について
 検察官は,B供述が信用できる理由として,〔1〕本件の約1週間前に最初
に被害者に会ってから,本件当夜,Cや実母に本件被害を申告するまでの経緯
に関するB供述は,被告人のことを拒絶しているという内容で一貫していてそ
の供述内容に破綻はなく,客観証拠とも整合し,当時の自己の心情も含めて具
体的に証言していることも併せれば,自然で合理的である,〔2〕Bは,被告
人が侵入した時点でCに助けを求め,強制性交被害の直後に母親に連絡するな
ど,被害に遭った者として自然かつ合理的な行動をとっている,Bの証言内容
が虚言だとすれば,深夜に友人や母親を呼び出すということは考えられない,
〔3〕Bは,本件に関して真摯に証言しようとしており,そのようなBが,偽
証罪で処罰される危険を冒してまで,あえて被告人に不利な虚偽供述をする理
由がない,などと主張する。
 この点,〔1〕,〔2〕については,確かに,本件前後の被告人とBとの間
の関係性や,被害申告の経緯等に関する動かし難い事実が,本件当夜,被告人
から強制性交の被害に遭ったとするB供述と整合的であることは,検察官が指
摘するとおりである。また,Bが述べる強制性交の態様は,自己の心情を交え
た具体的なものといえ,それ自体に,取立てて不自然,不合理な点はない。
 しかし,これらの事情は,(1)ア,イで指摘した疑問を払拭するものでは
ない上,後述するとおり,本件においては,Bが,本件当夜,本件居室以外の
場所で,被告人から意に沿わない性交等をされた可能性が否定できないことか
らすれば,〔1〕,〔2〕の事情は,本件居室内でBが述べるような出来事は
なかったとする被告人の弁解とも両立し得るといえる。
 したがって,こうした事情があるからといって,前述の疑問点を度外視し,
B供述の信用性を肯定することはできない。
 また,前記〔3〕については,後述するとおり,被告人の弁解内容も併せて
検討すれば,Bに,本件当夜の経緯や被害状況を偽って供述する理由がないと
はいえず,検察官の指摘自体が首肯できない。
6 被告人の弁解について
(1)被告人は,公判において,要旨,以下のとおり弁解する。
 〔1〕被告人は,本件の1週間程前に初めてBに会った時,会ってすぐにハ
グをしたり,ディープキスをしたりしたが,Bは嫌がらずに応じてくれ,ラブ
ホテルや被告人方に行くことは断られたものの,そばにあるアパートの階段に
移動することには応じてもらえた。そこで,Bに階段の4段目くらいに座って
もらい,その一,二段下に被告人が膝をついて向かい合う形で,いちゃいちゃ
し,痛いと言われたのですぐに止めたものの,性交もし,別れ際に,被告人
が,また会いたいね,などと言うと,Bも,会ってくれるという形で答えてく
れた。〔2〕その後,Bと連絡が取れなくなったが,最初に会ったときの状況
が前記〔1〕のとおりであったことから,拒否されているとは全く思わず,B
に会おうと思い,最初に会ったのが午前2時だったので,本件当日も午前2時
の少し前にB方に行くと,灯りがついている部屋があり,布団の上でBが横に
なっているのが見えた。そこで,同室の掃き出し窓を少し開けてみて鍵がかか
っていないことを確認し,部屋の灯りが消えるのを待って,部屋に入り,布団
に寝転がってスマホをいじっていたBの近くに行き,両肘と両膝を床についた
姿勢で,「連絡取れないから会いに来たよ。ごめんね。」と話しかけた。
〔3〕Bは,驚いた様子だったが,「うん,いいよ。」というふうに返してく
れ,被告人がBを抱き寄せてキスをすると,Bも応じてディープキスもしてく
れた。〔4〕このままエッチもできるんじゃないかと思い,Bの上にまたがっ
てBの胸を触っていたら,廊下側から足音のような音が聞こえ,Bから,「妹
かも。外に出て。」と言われたので,入ってきた掃き出し窓から外に出て,B
方前の道路まで出た。被告人がBの部屋にいたのは一,二分だったと思う。そ
して,最初に会ったときに行ったアパートの近くまで移動し,B方からの出入
口の方を見ていると,一,二分後にBも出てきた。この時,Bは,スマホで誰
かと話していたが,「また後でかけるわ。」と言って電話を切り,被告人の方
に来てくれた。〔5〕その後,前記アパートの階段に行き,最初に会った時と
同じように,Bに階段に座ってもらって,Bのズボンやパンツを脱がせて性交
したが,また痛いと言われたので,陰茎を抜き,自分で触って,Bに掛からな
いよう階段辺りに射精した。その後,Bにズボンをはかせ,さらにいちゃいち
ゃしてから,一緒にBの家の前まで行き,そこで別れたが,この際,Bは,週
末に家に行きたいとか,アプリを再登録して連絡するとか言っていた。
(2)被告人の弁解によれば,Bは,最初に会った時,聞いていた年齢(20
代前半)より相当老けている上,会ったとたんに抱き付いてくるなどした被告
人を直ちに受け入れたばかりか,野外での性交にまで応じ,本件当夜も,深
夜,消灯後の寝室にいきなり入ってきた被告人をすぐに受け入れ,性的な行為
にも応じたということになる。しかし,被告人が述べるこのようなBの態度
は,それ自体が相当不自然であるといえる上,最初に会った時点から被告人に
連絡を取るのをやめ,本件の後には,すぐにCや実母に被害を訴えて,翌日に
は警察に被害申告をしたという,動かし難いBの行動と相容れないものであ
り,被告人の供述中,一連の経緯において,Bが,被告人との性的な行為に嫌
がらずに応じていたなどとする点は,全く信用できないし,最初に会った日
に,本件当夜とほぼ同じ態様でBと性交したとする点も,相当疑わしく,にわ
かに信用することはできない。
(3)もっとも,被告人の供述のうち,本件居室に立ち入って間もなく,妹の
動静を理由にBから外に出るよう促され,本件居室から退去したとする点や,
その後,Bも外に出て来て,一緒に道路から見えにくい近所のアパートの階段
に移動し,そこでBと性交を含む性的な行為をした,という部分については,
Bが被告人との性交等に同意していたという点を除けば,あながちあり得ない
こととはいえない。すなわち,前述した本件前後の事情等に照らせば,Bが,
本件当夜,家族に隠れて性的な行為をするために,被告人と一緒に外に出たな
どということは到底考えられないものの,他方,Bは,インターネット上で知
り合い,一度不用意に会ってしまった相手に勝手に家に上がり込まれたことを
実父ら家族に知られることを強く恐れていたと認められるのであり,そうした
事情も踏まえると,Bが,とりあえず被告人に家から出てもらい,帰宅してく
る兄と鉢合わせしないですむ場所に移動した上で,話をして穏便に帰ってもら
おうと考え,被告人と行動を共にしたということは,想定できないことではな
い。そして,被告人自身の供述によっても認められる被告人の行動傾向に照ら
せば,その機会に,被告人がBの意向を確かめずにBとの性交等に及んだとい
うことも,考えられないことではない。
 この点,検察官は,アパートの階段で性交があったというのであれば,B
が,同所で強制性交の被害に遭った旨被害申告するのが普通である旨主張す
る。
 しかし,深夜,勝手に部屋に入ってきた相手と一緒に,他人のアパートの人
目につきにくい場所に入り込んだといった事情があったとすれば,そのような
事情が,Bにとって,できれば隠しておきたい事柄であることは,Bが,当
初,実母に対し,犯人は知らない人と説明していたことに照らしても想像に難
くない。被告人は,〔ア〕Bとは「d」で知り合った,〔イ〕最初に会う前
に,Bが自宅の住所を教えてくれたと述べ,以上の点は,関係証拠に照らし,
信用性が高いが,Bは,公判において,これらの点を殊更否定していることも
併せ考えると,Bが,被害申告に当たって,本件当夜の自身の行動を伏せるた
め,被害場所を自室と偽って話してしまい,その供述を公判でも維持している
ということは,考えられないことではないというべきである。
(4)小括
 以上の次第で,被告人の弁解は,本件当夜,Bが,被告人の来訪や性的行為
を嫌がらずに受入れたとする点は信用できないが,本件居室内では性交はして
おらず,本件居室を退去した後,別の場所(近所のアパートの階段)でBと性
交した旨述べる部分は,排斥できない。
7 結論
(1)強制性交等の点について
 以上によれば,本件寝室内での公訴事実記載の強制性交の事実があったと認
定するには合理的疑いが残るといわざるを得ないから,令和元年11月21日
付け起訴状記載の公訴事実中,強制性交等の点については,その証明が不十分
であって,犯罪の証明がないことに帰する(なお,強制性交等の点は,下記
(2)のとおり成立する判示第2の住居侵入の罪と牽連犯の関係にあるとして
起訴されたものと認められるから,主文において特に無罪の言渡しをしな
い。)。
(2)住居侵入の点について
 被告人は,深夜,B以外のB方の居住者はもとより,Bにも無断で,Bが一
人で床についている消灯された部屋に勝手に立ち入ったものである。Bが,被
告人の立入り行為を明示的にも黙示的にも承諾した事実は存在しない。
 被告人は,正当な理由がないのに,本件当夜,本件居室内に侵入したとい
え,このような行為に可罰的違法性があることは明らかである。
(法令の適用)
罰条
判示第1の行為
建造物侵入の点 刑法130条前段
強制わいせつ未遂の点 刑法180条,176条前段
判示第2の行為 刑法130条前段
科刑上一罪の処理
判示第1について 刑法54条1項後段,10条(建造物侵入と強制わいせつ
未遂との間には,手段結果の関係があるので,重い強制わいせつ未遂罪の刑で
処断)
刑種の選択
判示第2について 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文,10条(重い判示第1の罪に刑
に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
(求刑 懲役8年)
令和2年10月26日
宮崎地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 福島恵子 裁判官 角田康洋 裁判官 渡邊智弘