福井地裁H30.12.6
監禁、強制性交等被告事件
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成30年7月5日,F市内の量販店内で見掛けたB(以下,「被害者」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,同人を追跡し,犯行に供するために準備してあった黒色仮面,黒色ニット帽及びゴム手袋を着用した。
そうして,被告人は,同日午前2時39分頃,F県a市〈以下省略〉において,被害者が同所に駐車した軽四輪乗用自動車運転席から降車しようとするや,同人の肩付近を手で押して同車助手席まで同人を押し込み,「殺さんから。」などと言う暴行脅迫を加えた。ところが,その頃,同車のクラクションが鳴ったことから,被告人は,被害者を連行して犯行場所を移そうと考え,直ちに同車を運転して発進させ,走行中の同車内において,同人に対し,「顔を見れないようにせなあかん。」などと言って脅迫し,同人を同市〈以下省略〉まで連行した。そして,被告人は,同所に停車中の同車内において,前記一連の暴行脅迫により反抗を抑圧された被害者に対し,着衣の首元付近を引き下げてその乳首をなめる,パンツを引き下げてその陰部をなめる,被告人の指を膣の中に入れるなどし,さらに,強制的に性交をしようと考え,同車助手席ドア付近で被害者と性交し,引き続き,同車を運転して同県b町〈以下省略〉まで同人を連行し,同日午前3時21分頃,同所において同人を解放するまでの間,同人が同車内等から脱出することを著しく困難にさせ,もって同人を不法に監禁した。
(証拠の標目)
〈以下省略〉
なお,被告人の脅迫文句については,被告人の「顔を見れないようにせなあかん。」との発言を,顔をぐちゃぐちゃにするとの意味に被害者が捉え,そのまま記憶した可能性も十分あり得ることから,被告人供述に従い認定した。
(法令の適用)
1 罰条 監禁の点につき刑法220条,強制性交の点につき同法177条前段(強制わいせつ行為中に強制性交の犯意を生じてこれに及んだ点は,包括して強制性交等罪一罪が成立すると解する。)
2 科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い強制性交等罪の刑で処断)
3 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 被告人は,深夜の人気のない駐車場において,被害者を車内に押し込み,さらに同車で連行して周囲に助けを求められない状況にした上,仮面等を付けた不気味な姿で,抵抗すれば顔を傷つける旨の脅迫に及んでおり,凶器のみならず殴るなどの暴力も用いていないものの,被害者に強い恐怖心を与える態様である。また,種々のわいせつ行為を行った上で,体外に射精したとはいえ避妊の措置を講じることなく性交に及んでおり,この点も相応に悪質である。監禁については成り行きによる犯行である上,当初から性交まで企図していたわけでもないが,強制わいせつ行為に備えて自己の犯行が発覚しないよう前記仮面等を事前に準備していたことからすれば,単なる場当たり的犯行でもない(なお,被告人は,性交については被害者が承諾したと誤信していたかのような供述をしているが,前記のような本件犯行の時間,場所,態様等に加え,被告人は,犯行後ほどない頃にはいわゆる強姦をしたと自覚したというのであるから,被害者が犯行中に性交に応じるような態度を取っていたとしても,状況からしてそれが真意でないことは認識していたものと認められる。)。
もとより,被害者が受けた苦痛は多大なものであったと認められ,現に,本件被害に遭ったことにより,離職や引っ越し,車の買換えを余儀なくされている。
2 さらに,被告人は,前科はないものの,本件以前にも盗撮をしたり強制わいせつを企図して女性を追跡したりしたことがあるというのであって,その性癖には根深い問題が認められる。
そうすると,被告人が被害者に謝罪した上で500万円を支払って示談を成立させたことのほか,事実を認めて反省の態度を示し,性障害専門の治療に努める意向を示していること,実母と義兄が出廷してそれぞれ被告人の支援を約束し,本件犯行後に離婚した元妻も書面で更生に協力する旨述べていることから,被告人が再犯を犯さないことは相応に期待し得ることを加味しても,単独犯が路上で面識のない者に対して敢行した強制性交等(強姦)1件の量刑傾向に照らし,本件は,酌量減軽は認められるものの,刑の執行猶予を付すべき事案であるとはいえず,被告人を主文標記の実刑に処するのが相当である。
(求刑・懲役5年6月)
福井地方裁判所刑事部
(裁判長裁判官 渡邉史朗 裁判官 西谷大吾 裁判官 浅井翼)