「性的権利を侵害する行為」ってなんやねん。
「青少年の健全生育」というのが唐突に出てきます
和田俊憲 注釈刑法第2巻各論1強制わいせつ罪p619
客体が13歳未満の場合は別の検討を要する。性的蓋恥心を,年齢を無視した一般的判断に服せしめ,乳幼児の臀部を撫でる行為にまで本罪を認めるのは過剰であろう。逆に,性的差恥心を個別的に判断し, それを有しない幼年者を,たとえば性交類似行為からも保護しないのは妥当でない。保護法益を青少年の健全な成育に求めたうえで,?被害者の性的蓋恥心(事後的なものも含む)を介して健全な成育を害するおそれのある行為(新潟地判昭63.8.26判時1299号152頁7歳の女児の乳部・臀部部を撫でる行為につき,被害者が羞恥心と嫌悪感を抱いたことなどを指摘して本罪を肯定〕参照) と,?身体的感覚(およびその記憶)を通して健全な生育を害するおそれのある行為(福岡地飯塚支判昭34.2.17下刑集1巻2号399頁〔3歳児に対する強姦未遂を肯定〕参照) とを,併せてわいせつ行為とするのが妥当と思われる。特別法や条例における青少年保護との違いは,行為の害悪性の程度の差に求められよう。
客体が13歳以上の場合も同様に, それ自体が法益侵害性をそなえる形でわいせつ行為を構成するのが整合的である。裁判例も, たとえば接吻をわいせつ行為と認める際には,被害者の怠思に反することもその要素としている(東京地判昭56.4.30判時1028号145頁など)。それを一歩進めると,性的性質が弱い場合には,被害者の意思を侵害する程度が高いことがそれを補いうるという見方もできよう。なお,最近では, わいせつ行為を,一定の重大な性的性質を有する侵襲として定義づける試みもみられる(佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」法時1l044号(2()16) 62")。
発表年 | 著者 | 書名 | わいせつ定義 |
1927 | 新保勘解人 | 日本刑法要論p232 | 猥褻ノ行爲トハ性的意異欲望ヲ表現スル行爲即チ性的行爲ニシテ客観的ニ社会公衆ノ性ニ関スル道義感情ヲ侵害スルニ適スルモノヲ言フ |
1973 | 平出禾 | 「刑法各論」p130 | 「猥褻」という語は、刑法でも数か所で用いられているが、構成要件的行為との関連で本罪においては、相手の性的自由の侵害という点を主眼として考察することを要する。本罪における猥褻の行為は(乳房・股間)などに接触する行為を主とし、これに準ずる行為を含むと解する |
1975 | 中山研一 | 口述刑法各論 | 何が猥褻かということはきわめて規範的な概念だとされ、その限界の不明瞭さが指摘されているわけです。しかし、相手方が直接被害を受ける本罪のような場合では、たとえば局部にさわるとか、乳房に触れるとか、接吻をするとかいう行為そのものがいわば即物的な形で問題になるといってよいでしょう。たとえば、一七五条の関係では、写真や映画などでの接吻の場面が猥褻だというようなことはもう現在の常識からすれば通用しないでしょう。しかし、いやがる者に無理やり接吻を押しつけるというのはやはり強制狼蓑だといわなければなりません |
1984 | 団藤重光 | 綱要各論増補 | 猥褻の概念については一七五条の関係で前述した。ただ、ここでは相手の性的自由の侵害ということを主眼として考えなければならないので、重点が多少異なるのは当然である。しかし、性的自由の見地からみて猥褻行為とされるものは、性的風俗の見地からみても猥褻性を帯びるものといえる |
1985 | 団藤重光 | 綱要各論改訂版 | 猥褻の概念については一七五条の関係で前述した耐認にと。ただ、ここでは相手の性的自由の侵害ということを主眼として考えなければならないので、重点が多少異なるのは当然である。しかし、性的自由の見地からみて猥褻行為とされるものは、性的風俗の見地からみても猥褻性を帯びるものといえる |
1986 | 大谷実 | 基本法コンメンタール第3版刑法 | 猥褻行為とは、相手方が性的な蓋恥・嫌悪感情を抱くと一般に考えられる行為をいう |
1990 | 坂本武志 | 刑法各論 | 猥褻の行為については、公然猥褻罪に関して述べたところである |
1991 | 中森喜彦 | 「刑法各論」63頁 | 端的に、人の性的羞恥心を害する行為をいうとすれば足りる(内田一五八頁、曽根六二頁) |
1994 | 井上正治 | 刑法学各則 | 猥褻とは、性慾を刺戟しまたはこれを満足せしむべき行為であって、人をして差恥・嫌悪の情を生ぜしめる程度のものをいう |
1995 | 平川宗信 | 『刑法各論』(有斐閣、一九九五年) | p199「わいせつ」(旧規定では。「猥褻」) は,通説によれば,公然わいせつ罪・わいせつ物頒布等罪にいう「わいせつ」と基本的に同義であり, いたずらに性欲を興禽・刺激させ,普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反することをいうが.同罪が風俗犯であるのに対して本罪は性的自由を害する罪であるから,その重点を異にするとされる。しかし,保護法絡を異にする以上「わいせつ」の概念も別個にとらえられるべきであり,本罪の「わいせつ行為」の意義は,性的自由の侵害の観点から独自に論定すべきものであろう。したがって,本罪の「わいせつ行為」は,一般に性的意味がある行為であって,意に反して行うことが具体的事情のもとで性的自由の侵害とみられるものをいうと解すべきであろう(判 |
1996 | 町野 | 刑法各論のいまp279 | 個人の性的自由を侵害する行為 |
2001 | 斉藤信治 | 刑法各論 | 「わいせつな行為」とは, 普通人である限り著しく性的な嫌悪感・羞恥心をいだくであろうような形で被害者の性的自由を侵害する行為を指し(174・175条の場合とは若干事情を異にする), |
2004 | 板倉宏 | 刑法各論 | 「わいせつな行為」とは,本罪は,性的自由を第一次的保護法益一社会的法益としての性風俗は第二次的法益一としていることから,公然わいせつ罪(174条)やわいせつ物頒布等の罪(175条)におけるわいせつ概念よりも広く,被害者の性的蓋恥心を害する行為ととらえるべきであろう(西田,中森)。 |
2005 | 曽根威彦 | 刑法各論3版補正2版 | わいせつは、一般に「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的荒恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」と定義されているが、強制わいせつ罪の「わいせつ」概念の定義としては、被害者の観点が欠落しており適当でない(内田158)・右の定義は、特定の被害者の性的自由を害するおそれのない行為をもわいせつと評価しうる点で広すぎるし、反面、現に被害者の性的自由を侵害していながら、右の定義に抵触しないかぎりわいせつでないとする余地を残している点で狭すぎる。 |
2007 | 斉藤彰子 | アクチュアル刑法各論 伊藤ら | P88本罪の「わいせつ」概念について,判例は,「徒らに性欲を典蒋又は刺戟せしめ, かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的同義観念に反すること」と(名古屋高金沢支判昭36・5・2下刑集3・5= 6・399) . 公然わいせつの罪におけるのと同様の定義を用いている6)。しかし,公然わいせつ罪等は健全な性風俗,公衆の性的感情に関する罪であり, したがって,そのわいせつ性は,公然と行われることが妥当かどうかという観点から定義されるのに対して,本罪の保護法益は個人の性的自由であるから,端的に,被害者の性的自由を害する行為をいうと解すべきであろう(中森64頁) |
2011 | 高山佳奈子 | 楽しい刑法?各論P76 | 強制わいせつ罪にいうわいせつな行為には、裸にして写真を撮る、陰部を触るなど、被害者の性的差恥心を害すべき行為があたる。 |
2013 | 川端博 | レクチャー刑法各論3版 | 徒に性欲を興奮または刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的蒸恥心を害し,善良な性的道徳観念に反すること」をいいます(名古屋高裁金沢支判昭36. 5 . 2下刑集3巻5=6号399頁)。これは,通常は,性欲を興奮または刺激させようとする意図のもとになされますが,客観的には,一般人の正常な性的蓋恥心を害し善良な性的道徳観念に反する行為がなされることを要する趣旨であると解されます。 |
2016 | 松宮孝明 | 「刑法各論講義(第4版)」2016成文堂 | 自己または他人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという行為 |
2016 | 和田俊憲 | 注釈刑法第2巻各論1p621 | これは客観的に性的自由を害する行為であり,被害者の立場に立った一般人から見て客体とされることにつき一定程度以上の性的差恥心の対象となる行為をいうものと解される |
2016 | 井田良 | 講義刑法学各論 | 被害者の意思に反して, 上記のような身体的内密領域を侵害し、そのことにより被害者の性的蓋恥心を害し, かつ一般通常人でも性的蓋恥心を害されるであろう行為のことをいう。 |