児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強制わいせつ致傷等で懲役2年6月の実刑(その刑の一部である懲役8月の執行を3年間猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。)とした事例(千葉地裁H28.9.1)

強制わいせつ致傷,強制わいせつ被告事件
千葉地方裁判所判決平成28年9月1日
       主   文

 被告人を懲役2年6月に処する。
 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
 その刑の一部である懲役8月の執行を3年間猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 通行中の女性Aに強いてわいせつな行為をしようと考え,平成27年(以下省略),千葉県(以下省略)路上において,女性Aに対し,いきなり背後からスカートの中に手を差し入れて下着の上からその臀部をわしづかみし,もって強いてわいせつな行為をし
第2 通行中の女性Bに強いてわいせつな行為をしようと考え,平成27年(以下省略),千葉県(以下省略)路上において,女性Bに対し,いきなりスカートの前側から一方の手を,その後ろ側からもう一方の手を,それぞれその中に差し入れてスパッツの上からその陰部及び臀部を触り,もって強いてわいせつな行為をし,その際,路上にひざまずいた女性Bに全治約10日間を要する両膝打撲の傷害を負わせ
たものである。
(事実認定の補足説明)
 本件の争点は,第2事件(判示第2の事実)について,被告人が被害者に対してわいせつな行為をしたかである。そこで,被害者の被害状況に関する供述の信用性について検討する。
 被害者は,被害直後にその被害状況を警察官に告げている。被害者は,被告人と面識がなく,被害弁償の申出を拒絶していて,金銭的要求をした形跡もない。被害者が被告人を陥れるような嘘を述べるような理由は考えられない。
 また,その供述内容に不自然,不合理な点は全くない。陰部と臀部をいきなりつかまれたため,その場にしゃがみこんで膝を怪我したと述べている点は,両膝のやや内側寄りの負傷状況と整合的である。被害者の述べる被害状況は,被告人の意図的なわいせつ行為があったことを明確に示すものであり,被告人の述べるような接触状況について,誤ってわいせつな行為をされたと思い込んだ可能性は考えられない。
 加えて,被害者の供述は被害直後から一貫している。弁護人が供述の変遷として主張する点は,表現ぶりにニュアンスの違いがあるという程度のものであって,明らかな変遷とはいえない。
 被害者の供述は,信用することができる。
 他方,被告人は,ナンパをしようと考えて被害者に声をかけ,肩に手を回すなどしたところ,被害者が驚いて自分から離れるようによろめいたので,支えようとしたときにその下半身に手が触れたにすぎないと述べる。しかし,被告人が述べるような状況で被害者を支えようとしたのであれば,そもそもその手が被害者の下半身に触れること自体,明らかに不自然である。また,被害者の倒れ方とその負傷状況は整合していない。被告人の供述は,信用することができない。
 以上によれば,被告人は,被害者に対し,判示第2の強制わいせつ行為に及んだと認められる。
(量刑の理由)
 被告人は,路上で,通行中の女性に近づいて,いきなり手をスカートの中に差し入れ,下着等の衣類の上から臀部や陰部をつかむといった強制わいせつ行為2件に及び,うち1件の被害者に傷害を負わせた。その犯行態様等をみると,いずれの事件も,わいせつ行為をするために殴る蹴るといった直接的な暴行を加えたり,脅迫を加えたりはしていない。わいせつ行為の内容や被害者の負傷の程度も比較的軽微である。被告人の行為の客観的重さは,同種事案の中では比較的軽い部類に属するといえる。
 犯行に至る経緯等についてみると,被告人は,本件各犯行の2年足らず前に強制わいせつの疑いで検挙されて職を失い,その後,妻と幼い子がいるにもかかわらず,本件の約3か月前から週に1回程度,女性をナンパすることを繰り返し,その際には女性の身体に触れたりしたこともあったという。本件各犯行は,その挙げ句,2日間連続して,見ず知らずの女性に強制わいせつ行為に及んだものである。被告人には,女性の人格を尊重せず,自らの欲求の赴くままに行動する傾向が認められ,常習性もうかがわれる。本件各犯行の意思決定には,相当に強い非難がされるべきである。
 行為責任に関するこれらの諸事情を前提に,路上における同程度の件数の強制わいせつ致傷の事案の量刑傾向を参考にして検討すると,被告人に対する刑としては,法定刑の下限前後の実刑も執行猶予も選択の余地があるといえる。
 そこで,一般情状についてみると,被告人は,判示第2の事実を否認して明らかな嘘を述べたりしている。反省の態度は認められない。カウンセリングを受けたいと述べるなど更生意欲を示しているものの,自らの犯行に真摯に向き合っておらず,現状では,再犯のおそれは否定できない。示談や被害弁償等,執行猶予を相当とするような事情も認められない。
 以上によれば,本件は,刑の全部の執行を猶予すべき事案であるとはいえない。酌量減軽をした上で主刑を懲役2年6月とする実刑に処するのが相当である。
 そして,前記のとおり,被告人には再犯のおそれが認められ,これを防ぐためには,施設内処遇に引き続き,保護観察所による継続的な指導の下,性犯罪者処遇プログラムを受けさせるなどの社会内処遇を行うことが必要かつ有用であり,被告人の更生意欲や更生環境等に照らせばそれが相当と認められる。よって,その刑の一部の執行を猶予することとし,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役4年)
(裁判長裁判官 吉村典晃 裁判官 高橋正幸 裁判官 大庭陽子)