児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「「わいせつな行為」とは,被害者の性的差恥心を害する行為であって,通常人であれば著しく性的な嫌悪感・差恥心を抱くであろう行為をいう。」橋本正博「法学叢書 刑法各論」2017新世社

「「わいせつな行為」とは,被害者の性的差恥心を害する行為であって,通常人であれば著しく性的な嫌悪感・差恥心を抱くであろう行為をいう。」橋本正博「法学叢書 刑法各論」2017新世社
 「性的自由」からこの定義が出てきますかね。

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8. l.2強制わいせつ・強姦罪の保護法益
通説によれば , 個人的法益に対する罪としての性犯罪は,個人の性的自由(性的自己決定)を保護するものである。性は, ごく私的な領域に属することがらであり,性に関する個人の自由は,個人の尊厳に関わる自由であるとの認識に基づき, その保護の重要性は今日ますます高まっているということができよう。その反面で,私的であるがゆえに,性的行動には個人差が大きく, その法益の保護のために侵害行為に対し刑罰による威嚇をすることが適切であるかどうかについては議論もある。刑罰による制裁は,犯罪の成否という形で事件を単純化せざるをえないし,他方で,必然的に公的な領域に引き出す効果を伴うので,性犯罪被害者に対しさらに二次的な被害の可能性をももたらす。しかし,性犯罪に関する従来の刑法の対応は,法典中の条文配置(社会的法益に対する罪と混在している)にも表れているように,個人の尊厳という視点からは遠いところから出発し, いわば「及び腰」のところがあったのではないかと思われる。現代に即した保護法益の再検討により,実態に沿った捉え直しが要請されるといえるであろう。
ここでは, さしあたって,性的自由に対する犯罪とする立場に立つが, このときには,強制わいせつ罪・強姦罪において個人の性的自由を侵害する行為として規定されているわいせつ行為・姦淫行為も,相手と合意の上であれば何ら刑罰を科す必要はないはずである。したがって, これらの罪においては, こうした行為が被害者の意思に反するものであることが要件となる。すなわち,被害者の同意・承諾は,行為の構成要件該当性自体を否定する根拠となる。また, これらの罪は,被害者の秘密や名誉に関わる側面があるので,親告罪とされている(180条)。ただし,法益侵害が重大と認められる類型は親告罪から除かれる(同条2項)。なお,裁判は公開が原則である(憲法82条)が,被害者特定事項の秘匿(刑訴290条の2)などの制度が設けられている。
注1 強制わいせつ・強姦に関して保護される利益を「自由」, とくに,意思決定の自由と捉えることには,現実の被害者における不利益の実質を-| ・全に捉えきれない面があることも認識されるようになってきた。性に関する社会一般の捉え方の変遷にも伴って, ほぼ制定時の概念を維持したまま推移している刑法典の性犯罪は,見直しを迫られている。後述(88参照)するように,性犯罪に対処するための刑法の一部改正が法制審議会の議論に上っているが,法務省の設置した検討会による「「性犯罪の罰則に関する検討会」取I)まとめ報告書」(平成27年8月)においても, 「強姦罪等の性犯罪が被害者の人格や尊厳を著しく侵害するという実態を持つ犯罪であるという認識がおおむね共有され」たとしている。性犯罪は, 自由否定にとどまらず, 人格・尊厳否定であるとの捉え方がなされているのである。

p119
8.2.2 わいせつな行為
客体の年齢を問わず, 「わいせつな行為」をすることが要件である。「わいせつな行為」とは,被害者の性的差恥心を害する行為であって,通常人であれば著しく性的な嫌悪感・差恥心を抱くであろう行為をいう。風俗の観点から考盧される社会的法益に対する罪の場合に比較して,個人的法益に対する罪におけるわいせつ性は,問題となる行為が行われる場合に個人の性的自己決定に基づく必要があるか否かという観点から判断されるべきである。
主観的要素に関わる問題として,判例は,犯人に, 自己の性欲を刺激・興奮させるという主観的傾向のもとに行われることを要するとする(最判昭和45・1 ・29刑集24巻1号1頁) これは,理論的には,主観的違法要素としての「心理的傾向」が必要だということを意味し,本罪を「傾向犯」とする立場である。しかし, これには疑問がある。本罪を風俗の侵害と捉える場合ならともかく,本罪の本質を個人の自由侵害と把握する以上, その侵害の認識と侵害事実が存在すれば処罰に必要な不法性は十分であり,行為者の性的傾向のような主観は,不法内容に影響しないはずである。「尊厳」を問題にするなら, なおさらである。