児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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強姦致傷被告事件(姦淫なし)懲役6年6月(神戸地裁h21.12.18)

       強姦致傷被告事件
【事件番号】 神戸地方裁判所判決平成21年12月18日
       主   文
 被告人を懲役6年6月に処する。
 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,自己の経営する株式会社Aの従業員であるB(当時24歳)を強姦しようと企て,平成21年7月31日午前10時30分ころから同日午後1時ころまでの間,兵庫県明石市(以下略)所在の同社事務所内において,同女に対し,いきなり背後から抱きつき,腕をつかむなどしてソファに押し倒し,更に腹部を手拳で殴り,着衣をはぎ取るなどの暴行を加え,同女が抵抗できない状態にした上,同女の陰部に自己の陰茎を押し当てて性交しようとしたが,陰茎が勃起しなかったことから強姦の目的を遂げず,その際,これらの暴行により,同女に全治約1週間を要する胸部腹部打撲,左肘部・右前腕部及び右手首部圧挫傷の傷害を負わせたものである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法181条2項(177条前段)に該当するので,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,自分の経営する会社の女性従業員を強姦しようとして,会社の事務所内で同女に暴力を振るい,わいせつな行為を行った上で性交しようとしたところ,結局性交はできなかったものの,同女に全治1週間の傷害を負わせたという強姦致傷1件の事案である。
 検察官が主張する量刑の事情を検討すると,被害者を強姦しようとした被告人が嫌がる被害者の腹部を殴った行為はいずれも同女を強姦するために加えた暴力であると認められるのであり,このような暴力を加えられたため抵抗が難しい状態となった被害者に対し,長時間にわたってわいせつな行為をしつこく続けた被告人の犯行は,強姦の目的を達していないものの,強姦されたときに受けると思われるのに近い恐怖と屈辱を与えたと評価できる悪質な犯行であるといえる。
 また,本件犯行により被害者が受けた精神的,肉体的な被害は重大であり,外出すると吐き気やめまいをもよおし,働くこともできないなど,現在も癒えていない心の傷を受けた被害者が,被告人を厳しく処罰してほしいと思っているのも当然である。
 さらに,被害者との結婚を望む気持ちがあったとしても,被害者から拒絶された後にも交際を迫るなどした被告人が,自分の性欲を満たすために行った本件犯行の動機は極めて自己中心的であり,他人の目が届かない自分の会社の事務所内で,雇用主としての立場を利用した本件犯行の手口も卑劣で,被告人を許すという念書を作成させたり,被告人が捕まれば給料が支払われないなどと言って被害者に口止めした犯行後の行動も強い非難を免れない。
 そして,被告人は,本件について,それなりには反省しているといえるものの,法廷において,被害者の苦痛や心情を十分理解していないのではないかとも思われる発言をしていることからすると,深く反省しているとまではいい難く,20年以上前の事件であるとはいえ,同じ強姦致傷罪で服役したことや,その後苦労をした末に築き上げた現在の地位や財産を失うことも考えずに本件犯行を行った被告人には,相手の気持ちを考えない自己中心的な傾向が強くうかがえるのであり,再び同じような犯罪を行うおそれがあることは否定できない。
 以上の点からすると,本件は,強姦の目的を達していない強姦致傷のなかでも極めて悪質な類型の犯罪といえるのであり,弁護人の主張するように,執行猶予を付すことはもとより,酌量減軽をすることも相当な事案とはいえず,法が定める刑の下限である懲役5年を上回る刑を科すべきである。
 すると,被害者へ謝罪をしたり損害賠償をすると約束しており,損害賠償に充てるため,被告人の父から提供を受けた200万円を弁護人に預けていることや,犯行の翌日には交番に出頭していることなど,弁護人が主張する事情を考えても,被告人に対しては,懲役7年という求刑に近い,懲役6年6月の刑を科すべきである。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役7年)
  平成21年12月18日
    神戸地方裁判所第1刑事部
          裁判長裁判官   東尾龍一
             裁判官   佐藤 建
             裁判官   村井美喜子