児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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住居侵入強姦致傷被告事件(姦淫なし 示談)保護観察付執行猶予(大津地裁h21.11.13)

強姦致傷被告事件
津地方裁判所判決平成21年11月13日
       主   文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,同じホテルに宿泊する女性に性的ないたずらをする目的で,平成20年9月5日午前2時過ぎころ,滋賀県(以下略)に所在するビジネスホテルAのB(当時19歳)が宿泊している204号室に無施錠の出入口ドアから侵入し,そのころ,同所において,同女を強姦しようと企て,就寝中の同女に覆い被さり,目を覚ました同女に対し,両手でその両肩をつかんで押さえ付け,同女の陰部を手指で触り,右手拳でその左胸腹部を数回殴打するなどの暴行を加えて,同女の反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女が激しく抵抗したため,その目的を遂げず,その際,上記暴行により,同女に全治約1週間から10日間を要する左側胸部打撲等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
 検察官は,被告人が当初から強姦目的で被害者の部屋に侵入したと主張するのに対し,被告人は,被害者の部屋に入る時には,強姦目的はなく,同女と話をするために同女の部屋に入ったにすぎないと弁解する。そこで,これを検討すると,関係各証拠によれば,被告人は,ソフトボール部の女子部員がホテルの2階と3階のシングルの部屋に宿泊していることを知っていたこと,本件犯行前に部屋を訪れたソフトボール部のキャプテンのCから消灯時間であることを告げられ,部屋から退出するように求められていること,被告人は,無言で被害者の部屋のドアを開け,部屋の電気が点いておらず,同女が就寝していることを認識しながら,そのまま声をかけることもなく,部屋の奥まで立ち入っていること,その後も無言で,寝ている同女の上に覆い被さり,同女の陰部を触るなどしていることなどが認められる。以上の事実によれば,被告人は,単に被害者と話をするために同女の部屋に入ったとは認められず,同女に対し,少なくとも性的ないたずらをする目的で同女の部屋に侵入したと認定することができる。しかしながら,同女の布団の中に入った時点以降に強姦目的を生じたという被告人の弁解供述も必ずしも不自然,不合理ではないから,あながち虚偽であるとして排斥することもできず,当初から強姦目的で侵入したと認定するには合理的な疑いが残る。
(法令の適用)
 被告人の判示所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,強姦致傷の点は同法181条2項(179条,177条前段)にそれぞれ該当するところ,この住居侵入と強姦致傷との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強姦致傷罪の刑で処断し,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,なお,同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,たまたま同じホテルに宿泊していた専門学校のソフトボール部に所属する女子学生に対し,性的ないたずらをする目的で,深夜,被害者の部屋に侵入し,就寝していた同女の姿を見て,同女を強姦しようと考え,同女の両肩を押さえ付け,その脇腹を殴りつけるなどの暴行を加え,同女を強姦しようとしたが,同女に激しく抵抗されたため,強姦の目的を遂げず,その際,同女に傷害を負わせたという住居侵入,強姦致傷各1件の事案である。
 まず,犯情(犯罪に関する事情)として,以下の点が指摘できる。犯行動機は,自己の性的欲望を満たすためであると認められ,身勝手かつ卑劣である。犯行態様は,深夜,被害者の部屋のオートロックがかかっていないのに乗じて室内に侵入し,寝ている同女を強姦しようとして,指で陰部を触り,その腹部を数回殴打するなどしたという悪質なものである。その結果,被害者は,軽微とはいえない傷害を負っており,肉体的苦痛を被ったほか,恐怖感等の精神的苦痛をも被っており,その心の傷は未だ癒えていない。被害者は,19歳の年若い女性であり,本件のような忌まわしい出来事がその将来に悪影響を及ぼすことも懸念される。これらは,刑を重くする事情である。
 他方,犯情として,以下の点も指摘できる。姦淫は未遂に終わり,姦淫が既遂に至った場合よりもやはり軽く処罰すべきである。また,被告人は,酒に酔っていたため,自制心が薄れ,突如,犯行に及んだものであって,計画的犯行とまでは認められない。
 次に,一般情状(犯罪に関する事情以外の量刑事情)として,以下の点が指摘できる。被告人と被害者との間で示談が成立し,慰謝料として金50万円が支払われている。この金は被告人と内縁の妻が結婚資金として貯めていた持ち金すべてであり,これを示談金として支払ったことは被告人の精一杯の努力,誠意の表れであるとみることができる。被害者は,示談書の中では,被告人を許すとの意思を表明し,厳しい処罰を望んではいない。この点について,被害者は,検察官の電話聴取において,被告人が刑務所に入らなくてもよいという意味ではない旨述べてはいるが,やはり金50万円を受領し,軽い処罰でもよいとの意思を表明している以上,その処罰感情は,一定程度和らいでいると考えられる。被告人は,被害者に多大な精神的,肉体的苦痛を与えたことについて謝罪しているほか,職場の同僚,内縁の妻にも多大な迷惑や心配をかけたことを悔い,本件を反省している。本件犯行当時は,自ら代表者となって電気工事業を営み,社会人としてまじめに生活していた。被告人には同種の前科がないのはもとより,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反による罰金前科等の外に前科は見当たらず,犯罪傾向があるとはいえない。被告人の内縁の妻が被告人を今後監督し,更生に協力すると約束している。このような事情からすると,被告人が再犯に及ぶ危険性は高くはないと思われる。
 以上の事情に加え,過去の量刑資料をも総合して考慮した結果,本件においては,確かに,犯行動機,態様は悪質で,被害者が受けた被害結果も軽くはなく,そのために被害者は今なお厳しい処罰感情を抱えていることがうかがえるものの,幸いにも姦淫は未遂に終わったこと,被告人と被害者との間で曲がりなりにも示談が成立していること,被告人の再犯のおそれが高いとはいえないことなどの被告人に有利な事情を重視し,被告人には相応の重い刑事責任があることを明らかにした上,酌量減軽の上,社会内で更生する機会を与えるのが相当であると判断した。なお,被告人の両親は他界しており,内縁の妻の監督だけで不十分であると考え,被告人の再犯防止と更生保護の観点から,保護観察を付けることとした。
(求刑 懲役6年)
  平成21年11月13日
    大津地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  大崎良信
           裁判官  田中健
           裁判官  松本英