児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「整体師である被告人が、その営むクリニックの客等であった8名の被害者に対し、約3年半にわたって、施術と偽って睡眠作用を有する薬物を混入した飲物を飲ませ、抗拒不能の状態にさせた上で、姦淫やわいせつ行為をしたという、準強姦致傷1件、準強姦4件、準強制わいせつ6件から成る事案」について懲役20年とした原判決につき「被告人がBに対して、被害弁償として8万円を支払い、さらに被害弁償として192万円を、被告人が第三者に対して有する金銭債権について、Bが当該第三者から直接弁済を受けるという方法により、最終月を除き毎月5

東京高等裁判所
平成28年07月05日
上記の者に対する準強姦、準強姦未遂(変更後の訴因 準強姦致傷)、準強制わいせつ被告事件について、平成27年12月10日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官勝山浩嗣出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役19年に処する。
原審における未決勾留日数中380日をその刑に算入する。

理由
第2 所論のうち量刑不当をいう点について
 1 本件は、整体師である被告人が、その営むクリニックの客等であった8名の被害者に対し、約3年半にわたって、施術と偽って睡眠作用を有する薬物を混入した飲物を飲ませ、抗拒不能の状態にさせた上で、姦淫やわいせつ行為をしたという、準強姦致傷1件、準強姦4件、準強制わいせつ6件から成る事案である。
 原判決は、本件が11件という多数に上る性犯罪であること、常習性に着目すべき悪質な事案であること、犯行の手口及び態様の卑劣さや危険性にかんがみれば非常に悪質な犯行であること、被害者に身体的精神的に大きな被害が生じていること、身勝手な犯行動機に酌量の余地がないことなどを指摘し、同種事案の量刑傾向に照らし、同種前科がないことや被告人が一定程度反省の態度が示したことも考慮の上、求刑懲役25年のところ、懲役20年に処したものであるが、このような原判決の量刑事情の指摘、評価及びこれに基づく量刑判断はいずれも正当である。
 2 所論は、Bについては準強姦未遂罪が成立するにとどまること、仮に準強姦致傷罪として処罰されるとしても準強姦ないし強姦によって被害者が甚大な精神的苦痛を伴うことは通常想定されている派生的結果であるから量刑判断にあたっては準強姦罪ないし強姦罪を基準とするのが適切であり、準強姦致傷罪ないし強姦致傷罪に準じて量刑判断した原判決の結論は重すぎて不当であるという。
 しかしながら、Bにつき準強姦致傷罪の法条を適用した原判決に誤りがないことは既に述べたとおりであり、精神的障害の場合に準強姦罪ないし強姦罪を基準とすべき合理的理由もないから、致傷事件が1件であることを前提とし、準強姦致傷事件や強姦致傷事件を含む量刑傾向に照らして量刑判断を行った原判決に不合埋なところはない。所論は採用できない。
 以上によれば、原判決の量刑は、その宣告の時点においては、やむを得ないものであって、これが重すぎて不当であるとはいえない。
 3 しかしながら、他方、当審における事実取調べの結果によると、原判決後の事情として、被告人がBに対して、被害弁償として8万円を支払い、さらに被害弁償として192万円を、被告人が第三者に対して有する金銭債権について、Bが当該第三者から直接弁済を受けるという方法により、最終月を除き毎月5万円ずつ分割して支払う旨提案し、当該第三者はこれに同意しており、Bも受け入れる意向を示していること、被告人が原判決後さらに内省を深めていることが認められ、これらの原判決後の事情を考慮すると、原判決の量刑は、現時点においては、重すぎる結果になったというべきである。
 4 よって、刑訴法397条2項により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して被告事件につき更に判決することとする。
 原判決が認定した事実に、原判決が挙示する法令を適用し、その刑期の範囲内で、前記情状を考慮して、被告人を主文掲記の刑に処し、原審における未決勾留日数の本刑算入につき刑法21条を、原審及び当審における訴訟費用の処理(不負担)につき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
第2刑事部
 (裁判長裁判官 青柳勤 裁判官 岡部豪 裁判官 室橋秀紀)