改正前の罪名だと、強姦+強盗致傷ですが、241条1項ということになって、傷害を含む場合もこれだけのようです
大谷刑法各論第5版
(1) 強盗・強制性交等罪
本罪は,犯罪学上,強盗犯人が強盗の機会に強制性交等の行為に及ぶ場合が多いこと, また,強制性交等の機会に強盗行為に及ぶことが多い犯罪の実態を踏まえ, そのような行為の抑止と犯罪の重大性・悪質性に即した処罰の適正を図るため,強盗罪と強制性交等を結合させて独立の構成要件を設け,重い刑を科すこととしたものである。
(ア)行為本罪が成立するためには,強盗罪(もしくはその未遂罪)および強制性交等罪(もしくはその未遂罪)が,同一の機会に行われることが必要である。同一の機会に当たるか否かは,時間的・場所的な近接の程度と強盗または強制性交等の暴行・脅迫による反抗抑圧状態の継続性を基準に判断すべきである。なお,本条は,強盗・強制性交等致傷の場合については規定していない。
強盗・強制性交等罪の法定刑は「無期又は7年以上の懲役」であるところから,致傷の結果は同罪に織り込まれているという趣旨で,敢えて条文に入れなかったものと考えられる。
改正前
第二四一条(強盗強姦及び同致死)
強盗が女子を強姦したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。
↓
改正後
(強盗・強制性交等及び同致死)
第二百四十一条 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第百七十九条第二項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
2 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。
大分地裁平成30年 3月 9日
事件名 強盗・強制性交等,邸宅侵入,公然わいせつ被告事件
文献番号 2018WLJPCA03096005
上記の者に対する強盗・強制性交等,邸宅侵入,公然わいせつ被告事件について,当裁判所は,裁判員の参加する合議体により,検察官志水崇通,同小林佐和子,主任弁護人靍野嘉厚及び弁護人内田精治各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役12年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理由(罪となるべき事実)
被告人は
第3 強制的に●●●と性交等をしようと考え,同月31日午後7時30分頃から同日午後8時30分頃までの間,大分市〈以下省略〉cアパート110号室において,同人に対し,その両手及び両足を椅子等に結束バンド等で縛り付け,「騒いだら殺すぞ。」などと言って暴行・脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同人と口腔性交及び性交をし,さらに,その際,同人から,現金を強奪しようと考え,その頃,同所において,同人に対し,前記反抗抑圧状態に乗じ,同人管理の現金約4万3000円を奪い,その際,前記一連の暴行により,同人に全治まで約8日間を要する索条痕部の皮膚炎の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)
(累犯前科)
(法令の適用)
1 罰条
判示第1の行為 刑法130条前段
判示第2の行為
邸宅侵入の点 刑法130条前段
公然わいせつの点 刑法174条
判示第3の行為 刑法241条1項
2 科刑上一罪の処理
判示第2の罪 刑法54条1項後段,10条(邸宅侵入と公然わいせつとの間には手段結果の関係があるので,1罪として重い邸宅侵入罪の刑で処断)
3 刑種の選択
判示第1及び第2の各罪
懲役刑を選択
判示第3の罪 有期懲役刑を選択
4 累犯加重 刑法59条,56条1項,57条(判示各罪の刑にそれぞれ3犯の加重〔ただし,判示第3の罪の刑については,同法14条2項の制限に従う。〕)
5 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に同法14条2項の制限内で法定の加重)
6 未決勾留日数の算入 刑法21条
7 訴訟費用の不負担 刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
量刑判断の中心となる強盗・強制性交等の犯行についてみると,被告人は,家庭教師会社に娘に家庭教師を付けたいなどとうそを言って被害者を部屋に呼んだ上,被害者を椅子等に縛り付けるためのひも,結束バンド等を事前に購入して,すぐに使用できるように準備しており,顕著な計画性が認められる。そして,被告人は,部屋に来た被害者に対し,マジックのアンケートに協力してほしいなどとうそを言って,アイマスクを着用させ,これらのひも等を使用し,被害者の手足を椅子等に縛り付けるなどして行動の自由を完全に奪った上で,犯行に及び,膣内に射精までしている。その手口は,犯行実現の可能性の高い,極めて巧妙で,卑劣なもので,被告人が被害者に凶器を突き付けたり,直接的な暴力を加えたりしていないとしても,犯行態様はこの種事案の中でも悪質である。被害者が多大な精神的苦痛を受けたことはいうまでもなく,被告人への厳重な処罰を望むのは当然である。
被告人は,同種服役前科2犯(直近前科は,本件同様にうそを言って,女性の手首を結束バンドで縛るなどして口淫をさせた罪を含む。)を有するのに,その刑の執行終了から7か月足らずで,被害者をより強力な方法で拘束する方法を考え,本件において性交にまで至っており,この種犯罪に対する被告人の規範意識は著しく低下している。
以上に加えて,邸宅侵入,公然わいせつも犯していることを併せると,本件は,同種事案(強盗強姦1件,単独犯,強盗の点:既遂)の量刑傾向の中では重い部類に属する。
被告人は,法廷で,被害者への謝罪を述べるなどして反省し,社会復帰後には専門機関において治療を受ける意欲を示しているが,これまで述べたところからすると,再犯のおそれが高いといわざるを得ない。
以上の検討を経て,主文の刑を導いた。
(求刑 懲役13年)
平成30年3月22日
大分地方裁判所刑事部
(裁判長裁判官 今泉裕登 裁判官 家入美香 裁判官 大須賀謙一)