児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

性犯罪と逮捕監禁罪は観念的競合。

 ある単位会から23条照会を受けまして、法的義務感をもって調べさせられています。
 高裁の自判部分を捜せば、結構あるようです。

東京高裁H17.3.29
高等裁判所刑事裁判速報集平成17年71頁
判例時報1891号166頁
三 犯行の動機、経緯、態様等
 (逮捕・監禁、強姦について)
 (1) 被告人は、平成一四年一月二二日、仕事を終えた後、会社の同僚らと三島市内の居酒屋で飲食し、普通乗用自動車を運転して帰宅する途中、弁当箱を従業員の集合場所に忘れてきたことに気付き、取りに戻るため同市内の国道一三六号線を南進走行中、午後一一時ころ、同じ方向を自転車に乗ってアルバイト先から帰宅していた被害者を認め、同女に近づいて車の中から声をかけた。被告人は、被害者に全く相手にされなかったものの、同女が若くて可愛い女性であったことから何とか同女と関係を持ちたいと考え、先回りして降車し、同女の前に立ち塞がって自転車を止め、その前輪を跨ぎ、前籠に両肘をつくなどして、年齢、氏名、学校等を尋ね、さらに、同女の肩に腕を廻し、同女の背中を押して自転車ごと近くに停めてあった被告人の車の傍まで連れて行き、再び自転車の前輪を跨ぎ、執拗に誘っているうち、自転車が倒れ同女と一緒に倒れ込んだが、同女が大声を上げて起き上がり逃げ出そうとするところを引き倒すと、同女は手を振り回すなどして抵抗し悲鳴を上げた。そこで、被告人は、同女を無理にでも姦淫することを決意し、同女の頭部を右脇に抱え込みながら、口を手で塞ぎ、「静かにしろ。」と強く言って、同女をチャイルドロックが設定された自車後部座席に素早く押し込み、発進疾走させて静岡県田方郡函南町軽井沢字立洞地内まで連行し、その間、畏怖している同女に対し、「俺の顔見たろう。警察にチクるなよ。ぶっ殺すぞ。」などと言って脅迫し、午後一一時四〇分過ぎころ、車内で強いて同女を姦淫した上、翌二三日午前二時ころ同市川原ヶ谷字山田山地内の道路拡幅工事現場で同女を殺害するに至るまでの約三時間、同女を車内に閉じ込め監禁したものである。
第三 破棄自判
 よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従い、当裁判所において、更に次のとおり判決する。
 原判決が認定した罪となるべき事実に法令を適用すると、原判示第一の所為のうち、逮捕・監禁の点は包括して刑法二二〇条に、強姦の点は同法一七七条前段(ただし、刑の長期は平成一六年法律第一五六号による改正前の刑法一二条一項による。)に、原判示第二の所為は同法一九九条(ただし、懲役刑の長期は同改正前の刑法一二条一項による。)にそれぞれ該当するところ、上記の逮捕・監禁と強姦は一個の行為が二個の罪名にあたる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い強姦罪の刑で処断するが、前記情状にかんがみ、原判示第二の罪について所定刑中死刑を選択し、原判示第一の罪は原判示の累犯前科の関係で再犯であるから、同法五六条一項、五七条により同改正前の刑法一四条の制限内で再犯の加重をし、以上の各罪と原判示の確定裁判があった罪とは、刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ確定裁判を経ていない原判示各罪について更に処断することとし、以上は同法四五条前段の併合罪の関係にあるが、同法四六条一項本文により原判示第二の罪について選択した死刑のほかは他の刑を科さず、もって被告人を死刑に処し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。"

名古屋高裁H8.1.31
窃盗(変更後の訴因は強制わいせつ致死、強盗致死、認定罪名は強制わいせつ致死、窃盗)、尊属監禁、恐喝未遂、傷害、死体遺棄、強盗致傷、強制わいせつ、監禁、逮捕監禁致傷、強姦被告事件
名古屋高等裁判所判決平成8年1月31日
高等裁判所刑事判例集49巻1号1頁
高等裁判所刑事裁判速報集平成8年135頁
判例タイムズ908号262頁

逮捕監禁致傷と強姦は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるので、旧法五四条一項前段、一〇条を適用して一罪として重い強姦罪の刑で処断し、原判示第三の監禁、強盗致傷、強制わいせつは一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるので、同法五四条一項前段、一〇条を適用して一罪として最も重い強盗致傷罪の刑で処断する。原判示第三、第四の各罪については所定刑中いずれも有期懲役刑を選択する。

札幌高裁S53.6.29
札幌高等裁判所判決昭和53年6月29日
高等裁判所刑事裁判速報集113号1頁
刑事裁判月報10巻6〜8号1045頁
判例時報922号114頁
警察時報34巻11号117頁
研修366号89頁
捜査研究28巻9号28頁
 そこで、その余の量刑不当の論旨について判断するに先立ち、職権により原判決を調査するのに、原判決は、法令の適用中において、原判示第一の監禁の罪と同第二の強姦致傷の罪とを併合罪として処理したことが明らかである。
 しかしながら、原判決が認定した事実関係のもとにおいては、本件のように、原判示の頭初の(□□◎◎での)脅迫が監禁罪の実行の着手であると同時に強姦致傷罪の実行の着手でもあると解され、監禁と強姦の両行為が、時間的・場所的にも全く重なり合うのみならず、監禁行為そのものも強姦の手段たる脅迫行為をなしている場合においては、行為を、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個の評価を受けるか否かの観点にたって(最高裁判所昭和四七年(あ)第七二五号、同四九年五月二九日大法廷判決・刑集二八巻四号九一頁等参照)考察すると、右両罪は観念的競合の関係にあると解するのが相当である。それゆえ、被告人の本件所為は、結局一罪として重い原判示第二の強姦致傷害罪の刑で処断すべきこととなる。したがって、原判決には、刑法五四条一項前段を適用せず、同法四五条前段、四七条を適用した点において法令の適用に誤りがあり、この誤りにより処断刑の上限に相違を生ずることになるから、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな場合であるといわなければならない。そうだとすると、控訴趣意のうち、その余の量刑不当の論旨を判断するまでもなく、右の点において原判決は破棄を免れない。
 よって、刑訴法三九七条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して、当裁判所において直ちに次のとおり自判する。
 原判決が確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示第一の各所為は被害者ごとにいずれも刑法二二〇条一項に、原判示第二の所為は同法一七七条前段、一八一条に該当するが、原判示第一の各所為と同第二の所為は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により結局一罪として最も重い北山に対する強姦致傷罪の刑で処断すべく、所定刑中有期懲役刑を選択し、諸般の事情にかんがみ、特に本件犯行の罪質・態様・被告人の過去の処分歴等に照らし、他面、被害者北山との間に示談が成立していること、被害者らにも軽率の点があったことその他弁護人指摘の酌むべき事情を十分に考慮しても、本件は、被告人に対しその刑の執行を猶予すべき案件であるとは認められず、法定刑の最低限を酌量減軽するに足りる事由も認め難いので、右刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処することとし、原審及び当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文によりその全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決をする。
(裁判官 藤原昇治 裁判官 日比幹夫)