強姦致傷被告事件
札幌地方裁判所判決平成21年11月27日
主 文被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,帰宅途中の■■■■(当時22歳)を強いて姦淫しようと企て,平成20年6月8日午前5時15分ころから午前5時33分ころまでの間,札幌市中央区(以下略)A大学△△センター北側歩道上において,同女に対し,いきなり背後から抱きつき,同女を同所から同センター南側敷地内に連れ込み,仰向けに押し倒して,顔面を右手掌で数回平手打ちし,頚部を右手で押さえつけ,左手でパンティーを引き下ろし,陰部に指を入れるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,同女が抵抗したためその目的を遂げず,その際,上記一連の暴行により,同女に加療約2週間を要する頭部外傷,顔面挫傷及び頚椎捻挫の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条 刑法181条2項(179条,177条前段)
刑種の選択 有期懲役刑を選択
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,被告人が帰宅途中の女性を襲って強姦しようとし,被害者が抵抗したことから姦淫は未遂に終わったが,加療約2週間を要する傷害を負わせたという,強姦致傷の事案である。
被告人は,飲酒後,付近を通行中の被害者を見つけ,いわゆるナンパをしようとして声をかけ,断られたにもかかわらず,つきまとった挙げ句,ビルの脇の狭い路地のような場所に押し込むなどして本件犯行に及んだ。
犯行態様は,判示のとおりであり,女性である被害者の顔面を容赦なく殴るなどした上,口淫を迫ったり,さらには,仰向けに倒した被害者の頭部付近に放尿したり射精したりまでした。女性の尊厳や人格を踏みにじる卑劣で悪質極まりない行為である。安全であるはずの市街地で,しかも,早朝の明るくなった時間帯にこのような凶悪犯罪が行われたという点も重視すべきである。
被害者には何の落ち度もないにもかかわらず,仕事を終えて帰宅途中に突然このような被害に遭ったのであって,その蒙った肉体的苦痛はもとより,驚愕,恐怖心,屈辱感,絶望感等の精神的苦痛は甚だしく,将来にわたる心因的悪影響も懸念される。転職を余儀なくされるなど経済的打撃も蒙っている。後記の被害弁償金を受け取った後も被害感情,処罰感情が厳しいのも当然である。
被告人は,性欲の赴くままに行動しており,その動機や経緯に酌量の余地は全くない。
被告人は,犯行後,普通の生活を送っており,これだけの犯罪を犯しながら,その自覚が乏しいと指摘せざるを得ない。
他方で,被害者の必死の抵抗により,姦淫自体は未遂に終わった。傷害は必ずしも重いものではない。計画的な犯行ではない。被告人は,事実を認め,被害者宛の謝罪文を書くなど,反省の態度,改悛の情,更生への意欲を示している。被害弁償金として50万円を被害者に支払った。これまで社会人としてまっとうな生活を送っており,交通事犯による罰金以外の前科がない。母が当公判廷に出廷し,内妻も上申書を提出して,それぞれの立場から今後の更生への助力を誓約したほか,内妻との間にもうけた子がいる。このように被告人に有利又は酌むべき事情も認められる。
そこで,これらの諸般の情状を総合勘案した結果,姦淫自体は未遂であるが,犯行態様の悪質さに照らすと,被告人に対しては,酌量減軽をすべきではなく,法定刑の下限である懲役5年をもって臨むのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(出席検察官・大久保和征,志田卓郎,川副万代
国選弁護人・磯部真士(主任),八代眞由美
求刑・懲役6年〔検察官〕,懲役3年〔弁護人〕)
平成21年11月27日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 嶋原文雄
裁判官 今井 学
裁判官 石渡 圭