児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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少年が青少年を淫行した場合(杉本判事補 判例タイムズ586号)

 宮城県の条例では青少年には適用されないので、犯人が17歳なら不成立(むしろ被害者)で、18歳以上だといっきに「犯罪少年」になります。

女子高生と性的行為の疑いで少年逮捕/仙台北
2013.07.24 河北新報
女子高生と性的行為の疑いで少年逮捕/仙台北
 仙台北署は23日、県青少年健全育成条例違反の疑いで、東松島市の男子専門学校生(19)を逮捕した。逮捕容疑は6月5日午後3時ごろ、自宅で、仙台市の女子高校生(15)が18歳未満と知りながら性的行為をした疑い。北署によると、2人はスマートフォン(多機能携帯電話)の出会い系アプリで知り合ったという。

判例タイムズ586号 16頁 1986年4月24日
青少年条例における淫行処罰規定と少年事件 −−最高裁昭和60年10月23日大法廷判決を契機として−−
杉本啓二:鹿児島家庭裁判所判事補
1 「淫行」該当性の判断基準
大法廷判決は、「淫行」に当たるかどうかの判断をするにあたって、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情という基準を示した。
ところで、青少年の健全な育成を趣旨・目的とする青少年条例において、青少年(通例、ーハ歳未満の者と規定されている)は保護される立場にあるのが原則であるが、「淫行」については、青少年を含めた少年( 二〇歳に満たない者をいう)もこの行為の主体となりうることを認めねばならず、「罪を犯した」または「刑罰法令に触れる行為をした」ものとして家庭裁判所の審判に付されることになる(少年法三条一項)。
こうした、少年を主体とする淫行処罰規定違反事件において、「淫行」に該当するかどうかを判断するに際し考慮すべき点を、最高裁の示した先の判断基準を踏まえて論じてみる。
(1) 両者のそれぞれの年齢淫行処罰規定違反事件の場合、罪を犯した者と名指しされるのは通例男子少年の側であって、 一応、この現状をもとにして論ずることとする。
一般的にいえば、両者の年齢差が大きい場合のほうが「淫行」該当性が認められやすくなり、さほど年齢差のない少年と少女の間でなされた性行為については、それが大人の眼からみて必ずしも道徳的なものといえないものであっても、自由恋愛の範時に属するもので、「淫行」とはいえない場合が多いといえようさらに、繰り返し触れておかなければならないのは、憲法一四条との関係で指摘したように、青少年条例には、行為者が青少年の場合に免責条項を設けている都道府県とそうでないものとがあることである。
後者における少年に対する淫行処罰規定の適用実態は明らかでないが、年齢差および地域間の不均衡という二点から、 一八歳未満の少年に対する淫行処罰規定の適用についてはきわめて慎重な態度で臨むことが要請される。
次に、少女の年齢についてであるが、前述したように、谷口裁判官の意見は、 一六歳に満たない年少少年に対する性交又は性交類似行為の如きは、そこに至る手段・方法のいかんを問わず一律に処罰する合理性があるが、これを超える年長少年については一律処罰は適正とはいえないと述べている。
たしかに、婚姻年齢に達しているかどうかは少女の側の性に対する知見の程度を示す有力な手がかりであるが、年長少年に対する関係においても、不正な手段を用いて性行為を行った場合だけでなく、単に性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合にも、これを「淫行」とすべきであろうし、逆に、年少少年に対する関係においても、ことに、青少年についての免責条項のない青少年条例の下で一八歳未満の少年がその相手方である場合、「淫行」に該当しないと考えるべき場合もあろうと思われる。
(2) 性交渉に至る経緯両者の出会いから初めて性関係をもつまでの期間、その間の交際状況等は「淫行」該当性を判断するに際して重要な意味をもつ。
本判決の事案も、初対面の少女とその日のうちに性交渉をもったものであるが、捜査機関から送致されてくる事例にも初対面で性行為にまで至ったものが多いし、それまでに数回会ったことがあるという事例にしても、性行為に至る経過がゃゃ唐突であると感じられる場合が多い(もっとも、この点は、供述調書の記載の仕方・程度によりそうなる場合もないとはいえない)。
なお、性行為に至る過程において、少女が少年側と同等もしくはそれ以上の立場にあったような場合でも、「淫行」に該当する場合がまったく無いとはいいきれないと先に述べたが、このような事情がある場合に、「淫行」該当性を認めるためには、他に特段の事情があるかどうかを十分に検討する必要があろう
そのほか、実務を担当していて、性交渉に至る経緯の中で「淫行」を認める方向に作用する事由であると評価した例として、少年と少女がシンナーを吸引し、その幻覚状態の下で性行為を行った場合、複数の少年が複数の少女に誘いをかけて一人の少年宅に引き入れ、少年らの側で性行為の相手方となる少女を指名し、少女らの側でこれを承諾したうえ、襖越しにそれぞれのカップルが性行為を行ったという、いわゆる乱交と目すべき場合等があった。
(3) 両者間の付合いの態様
多数意見の判示を借用すれば、真撃な交際関係にあると認められるような事情が、両者間の付合いの中に窺えるかどうかということになろう。
具体的には、両者の交際を保護者の側で了承しているかどうか、性関係をもった後の両者の交際状況等が挙げられる。
なお、少年少女の捜査機関に対する供述調書には、 一様に、結婚など考えたことがないという記載がある。
たしかに、婚姻の意思があるような場合にはまず「淫行」に当たらないであろうが、逆に婚姻の意思がないという場合にこれを過大視し、「淫行」に該当すると安易に決めつけてしまうのは問題であろう。
また一方で、少女の捜査機関に対する供述調書において、少年に対して好意を抱いていたので性行為に応じたという記載がされている場合もある。
両者間に人格的結合がある場合には多数意見のいう第二の形態には当たらないと解されるが、このような調書上の内心的事情のみにとらわれず、客観的諸事情を総合して判断することが条例の趣旨に沿うものと思われる。
以上述べてきたように、「淫行」該当性を判断するための事情は多岐にわたるが、ここで注意しなければならないのは、その判断はあくまで性行為という出来事を中心に据えてなされるべきものであって、少年の側の一般的な素行の悪さ、非行歴、その後に少女と共に非行を犯しているといった事情等は、「淫行」該当性の判断に持ち込むべきでない。
これらの事情は、むしろ、当該性行為が「淫行」に該当すると認められない場合に、少年法三条一項三号にいう、ぐ犯に該当するかどうかを判断するに際して考慮すべき事項であろう
2 捜査、調査および審判において考慮すべき点
これまで述べてきたように、多数意見の示した限定解釈の第二の形態については、それが広汎なものであることは否定できず、島谷裁判官が少数意見で述べられているように、取締りにあたる捜査機関にとっても、取締りの対象領域がはなはだしく暖昧となり、場合によっては、取締りの行過ぎを招来する危険性があり、捜査機関には運用の抑制化が望まれる。
淫行処罰規定違反事件が家庭裁判所に受理された場合、裁判官は、非行事実が「淫行」該当性を示す程度に十分特定しているかどうかを吟味し、また、一件記録中にこれを認められる証拠が備わっているかどうかを検討し、非行事実についての蓋然的心証を形成したうえで調査命令を出さなければならない