児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被告人の無資力は,罰金額を算定する際の一事情たり得ても,罰金刑を科さない理由にはなり得ないというべきである。(東京高裁h22.9.14)

 利欲犯には高額の罰金が効くんですよ。
 「罰金200万円」ですよ。
 刑法改正案のわいせつ図画罪の罪にもこっそり罰金併科が入っています。
 児童ポルノを販売目的で所持していても訴因には「不特定又は多数の者に提供する目的で」と記載して下さい。「販売」と「提供」は意味が違っていて、既遂時期も違うので、

東京高等裁判所判決平成22年9月14日
判例秘書登載
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役1年6月及び罰金200万円に処する。
 原審における未決勾留日数中50日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 宇都宮地方検察庁栃木支部で保管中の外付けハードディスク1台(平成22年領第93号符号27)及びDVD20枚(平成22年領第93号符号(30)ないし(32)の各1ないし5,(33)−1,2,(34)−1ないし3)をいずれも没収する。
       理   由
1 控訴の趣意
  本件控訴の趣意は,要するに,原判決が,①現在,無職であり,特段の財産を有するとは認められない被告人に対し,罰金刑を併科することは相当でないし,②被告人に対して懲役刑を科すことで,一般予防及び特別予防の目的を達することができるとして,被告人を懲役1年6月にのみ処し,罰金刑を併科しなかったのは,量刑不当であるというのである。
2 罰金刑の併科の適否
 (1) 本件は,被告人が,平成22年1月27日,さいたま市内において,児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供する目的又はわいせつ図画を販売の目的で(原判決は,これらの目的をまとめて「販売目的」と表現しているが,不正確である。),児童ポルノであり,かつ,わいせつ図画である外付けハードディスク1台(以下「本件ハードディスク」という。)及びわいせつ図画であるDVD20枚を所持したという事案であるが,原判決は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条5項前段の児童ポルノの提供目的所持(原判決は,販売目的所持というが,構成要件上は,提供目的所持が正確である。)とわいせつ図画の販売目的所持とを観念的競合として,重い児童ポルノの提供目的所持の罪の刑で処断すべきところ,検察官が控訴の趣意で引用する理由を説示し,所定刑中懲役刑のみを選択し,被告人に対し懲役1年6月を言い渡した。
 (2) そこで検討するに,児童ポルノを提供した者やその目的で児童ポルノを所持した者に対する法定刑が,懲役又は罰金の選択刑になっているのに比し(児童ポルノ法7条1項,2項),児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供した者やその目的で児童ポルノを所持した者に対する法定刑が,懲役と罰金の併科刑を裁量的に認めた趣旨は,例えば,不特定,多数の者に対する販売目的で児童ポルノの所持が行われ,現実にも多額の利益を得た場合には,かかる犯罪者から相応の金額を剥奪し,不法利益の取得を目的とする犯罪行為が経済的にも引き合わないことを犯罪者や一般人に感銘させて再犯の防止を期することにあると解すべきである。
   これを本件について見ると,原審で取り調べた被告人の検察官に対する供述調書(原審乙12,乙15)によれば,被告人は,平成16年7月ころから平成18年1月ころまでの間,インターネットで児童ポルノのDVDを少しずつ買い入れ,それを本件ハードディスクにダビングした上,児童ポルノであるDVDを作成して顧客に販売し,平成21年11月ころまでに,600万円くらいの売上げを得ていたことが認められる。そうすると,被告人に対しては,懲役刑を科するだけではなく,相応の罰金刑を併科して,児童ポルノの提供目的所持が経済的にも引き合わないことを被告人にも一般人にも感銘させることが必要であるというべきである。そうしないと,原判決がいう一般予防及び特別予防の観点からみても,不当な結果になる。また,原判決は,被告人が無資力であることを罰金刑を科さない主要な理由の1つにしているが,前述した罰金刑併科の趣旨や労役場留置の規定に照らすと,被告人の無資力は,罰金額を算定する際の一事情たり得ても,罰金刑を科さない理由にはなり得ないというべきである。
 (3) ところで,弁護人は,検察官が,被告人の従前からのわいせつ図画や児童ポルノであるDVDの販売状況に言及して罰金刑の併科を求めているのは,公訴時効にかかった事実や刑訴法378条3号後段にいう審判の請求を受けない事実について,裁判を求めているに等しいなどとして,本件控訴を棄却すべきと主張する。
   確かに,検察官は控訴趣意書において,被告人が,平成15年3月25日から本件犯行日である平成22年1月27日までの間に,わいせつ図画や児童ポルノであるDVDの販売代金として,2800万円余りを得ていることに言及している。しかしながら,児童ポルノの提供目的所持の罪の罰金額の算定に当たっては,被告人が本件ハードディスクを利用した児童ポルノの販売に関わった期間,その間の売上代金,純利益,被告人の資力状況,同種事案の科刑状況等諸般の事情(諸般の事情の中には,本件犯罪事実の内容,弁護人指摘の公訴時効の完成等)を考慮すべきは当然であるところ,検察官作成の控訴趣意書を仔細に検討すると,前記の言及は,本件ハードディスクを元にした児童ポルノのDVDの売上600万円を算定した根拠を示すためのものにすぎず,余罪を処罰する趣旨ではないことは明らかである。
3 破棄自判
 (1) 以上の次第であって,被告人に対し,罰金刑を併科せずに,懲役1年6月にのみ処した原判決の量刑は軽すぎて不当というべきであり,検察官の本件控訴には理由がある。よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄した上,訴訟記録及び取り調べた証拠によって,直ちに判決することができるので,刑訴法400条ただし書に則り,被告事件について更に次のとおり判決する。
 (2) 原判決が認定した罪となるべき事実(ただし,「販売目的で」という部分を「児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供する目的又はわいせつ図画を販売の目的で」と改める。)に,原判示挙示の法令(科刑上一罪の処理を含む。)を適用し,情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,所定刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役1年6月及び罰金200万円に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中50日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,宇都宮地方検察庁栃木支部で保管中の外付けハードディスク1台(平成22年領第93号符号27)は児童ポルノの提供目的所持の,DVD20枚(平成22年領第93号符号(30)ないし(32)の各1ないし5,(33)−1,2,(34)−1ないし3)はわいせつ図画販売目的所持の,それぞれ犯罪行為を組成した物で,いずれも何人の所有も許さないものであるから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収し,原審及び当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用してこれらを被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。
平成22年9月14日
   東京高等裁判所第10刑事部
       裁判長裁判官  山崎 学
          裁判官  河村潤治
          裁判官  大野勝則