児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

撮影行為は強制わいせつ罪のわいせつ行為に当たらないという主張

 触って撮るというのが「わいせつ行為」なのはいいとして、脱衣場とか病院とかで13歳未満の裸を盗撮すると強制わいせつ罪(176条後段)だという事件がありますが、他罪とか条例とかの関係で、ちょっと引っかかるんですよね。

2 わいせつ行為=身体的接触を伴う行為である
 刑法は全てのわいせつ行為(犯人の性的傾向の発現)を処罰するものではなく、暴行・脅迫等に手段を限定しており、程度が著しい場合には致傷罪を用意しているところである。

第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
第178条(準強制わいせつ及び準強姦)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。
第181条(強制わいせつ等致死傷)
第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第百七十七条若しくは第百七十八条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は五年以上の懲役に処する。
3 第百七十八条の二の罪又はその未遂罪を犯し、よって女子を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

 だとすれば、「わいせつな行為」も、暴行脅迫等に関連して、被害者の身体に接触する行為が予定されているというべきである。
 
 池本判事の論稿をみても、着衣の上から接触する行為について成否が分かれているとされており、触れていない行為はわいせつ行為とは言えない。
判例コンメンタール刑法2巻 P292〜293

3 公然わいせつ罪との区別
 接触しない行為をも含むとすれば、13歳未満の者に対して陰部を見せつけるという行為*1*2*3(通常、公然わいせつ罪とされている。6月以下の懲役)との区別がつかない。
 公然わいせつ罪においては、主たる保護法益は善良な風俗であるとしても、多少なりとも見た者の性的自由が害されているところであって、公然わいせつ罪と強制わいせつ罪とを区別しようとすれば、境界線を身体的接触の有無に求めるしかない。

4 盗撮行為(迷惑条例違反)との区別
 最近、迷惑条例ではいわゆる盗撮行為を条例で処罰している。

http://www.pref.fukushima.jp/reiki/reiki_honbun/k4001083001.html
福島県迷惑行為等防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物における他人に対し、みだりに、著しいしゅう恥心又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
一 着衣等の上から、又は直接他人の身体に触れること。
二 着衣等で覆われている他人の下着又は身体をのぞき見し、又は撮影すること。
三 その他卑わいな言動をすること。

 スカートの中の撮影などが該当するようである。被害者の性的自由を害する行為である。

 判例によれば着衣の外観の撮影でも、意に反して行えば「卑わいな言動」に該当するという。

事件番号 平成19(あ)1961
事件名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
裁判年月日 平成20年11月10日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 決定
結果 棄却

 ここで、判例の「わいせつ」の定義に従えば、このような行為が犯人の性的傾向によるものであれば、強制わいせつ罪となりそうなものである。
 特に13歳未満であれば、暴行脅迫が不要であるから、児童の下着姿を撮影すれば強制わいせつ罪になりそうなものである。
判例コンメンタール刑法2巻 P292
 しかし、それは、現行法(強制わいせつ罪など)では処罰できないから、条例で処罰されているのである。
 接触が伴わない行為は「わいせつな行為」に含まれないからである。

5 児童ポルノ製造罪(7条3項)との関係
 仮に、従来の議論で、撮影行為がわいせつ行為にあたるとしても、平成16年以降、児童を撮影する行為は、特別類型として児童ポルノ製造罪として評価されることになったので、強制わいせつ罪として評価することは許されない。
 すなわち、3項製造罪の趣旨は、次の文献に記されているとおりである。
?島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
?衆議院法制局第二部第一課 井川良「児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」法令解説資料総覧(第一法規、2004)
?森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P99
 立法者も同様の解説をしている。
 「他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず」というのである。

 特に13歳未満の児童を撮影する行為についてみれば、従来は、いわば一般法として強制わいせつ罪として処罰されてきたが、児童ポルノ法7条3項で、児童ポルノ製造罪として評価されることとになったのである。

?上田哲「児童買春。児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態を児童にとらせ電磁的記録に係る記録媒体に記録した者が当該電磁的記録を別の記録媒体に記憶させて児童ポルノを製造する行為と同法7条3項の児童ポルノ製造罪の成否(最高裁判所判例解説--平成18年2,3,10月分 平成19年2,3,10月分) (法曹時報. 61(8) [2009.8])
 最近の最高裁判例解説でも3項製造罪の実行行為は撮影行為のみであること(姿態をとらせては実行行為ではないこと)が確認されている。

6 裁判例
?東京高裁H19.11.6*4
 児童に対する強姦や強制わいせつの状況を撮影した場合に,強姦行為や強制わいせつ行為が2項製造罪の実行行為の一部とはいえないとする。
 2項製造罪の実行行為は撮影であって、要するに撮影行為は強制わいせつ罪の実行行為ではないというのである。

?東京高裁H19.2.27*5(一審:横浜地裁横須賀支部H18.10.24*6)
 青少年条例違反(わいせつ行為)と3項製造罪は社会的見解上一個の行為ではないとする。
?大阪高裁H14.9.10
 目的製造罪との関係であるが、「児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪の構成要件の一部とはいえず」と判示している。

阪高裁 平成14年9月10日
しかしながら?についは,児童ポルノ製造罪の保護法益は上記第1記載のとおりであり, この処罰の目的は,個人の性的自由を保護法益とする強制わいせつ罪のそれとは異なることは明らかであり,児童ポルノ製造罪が強制わいせつ罪の構成要件の一部とはいえず,