児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

立石英生「自宅のパソコンのファイルサーバー等に蔵置させたわいせつ図画である児童ポルノの画像ファイルをインターネットを通じて有償販売して提供するとともに同目的の下,前記ファイルサーバー等を所持した事案につき,刑法175条後段のわいせつ物販売目的所持罪の成立を否定した事案(札幌高判平21.6.16 刊行物未登載)」研修737号P418

 大阪高裁H21はダウンロードさせる方法は公然陳列罪であって、提供罪ではないと判示しています。判例が乱れてるようです。

弁護人の主張につき,控訴審は, 「本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実(1)の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し購入者は.そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルを自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上ダウンロードした上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶.蔵置することを要するというべきである。」旨の補足説明を加えている。

 なお、札幌高裁によれば、時々わいせつ画像のメール送信をわいせつ頒布罪にしていることがありますが、それも否定したことになります。
 一応判例なんですが、札幌なので、よそでひっくり返されることがあります。

札幌高裁H21.6.16
 (児童ポルノ提供罪の成立時期についての補足説明)
 弁護人は,本件における児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態においた時点で成立する旨主張するが,本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実1の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し,購入者は,そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルをダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上,ダウンロード。した上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置することを要するというべきであり,弁護人の主張は採用することができない。

 諭旨に対する判断に先立ち,職権で原審記録を調査して検討するに,原判決には次のような法令の解釈適用の誤りがある。
 すなわち,本件訴因変更後の公訴事嘆中,わいせつ図画販売目的所持罪に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,インターネット上に開設したホームペヤジを利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として」「わいせつ図画を販売」「しようと企て,」「男女の性交場面等を露骨に撮影記録したわいせつ図画である動画ファイルを記憶・蔵置させたファイルサーバー2台及びハードディスク3台を,これらの動画ファイルを不特定又は多数の者に」「販売する目的で所持した。」というものであるが,同罪の「販売目的」の対象となる「わいせつな文書,図画その他の物(刑法175条前段)とは有体物であって,単なる電子データそのものや「電磁的記録その他の記録」(法7条項参照)はこれに含まれないと解されるから,有体物ではない「動画ファイル」を販売する目的でファイルサーバー等を所持したとの上記公訴事実自体がわいせつ図画販売目的所持罪を構成しないというべきである。(なお,関係証拠を検討しても,被告人が,わいせつな画像データを記憶,蔵置させファイルサーバー及びハードディスクを所持し,このわいせっな画像データをインターネット等の電気通信回線を通じて第三者にダウンロードさせてその対償を得ていたことは認められるが,このファイルサーバー及びハードディスク自体を飯売したり,わいせつな画像データをCDやDVDなどの有体物に記憶させてこれを販売したりする目的を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しない。)
 したがって,上記公訴事実と同一の事実を「犯罪事実」の項の2において認定し,刑法175条後段を適用してわいせつ図画販売目的所持罪の成立を認めた原判決は,同罪に関する法令の解釈適用を誤っており,この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないところ,原判決は,「犯罪事実」の項の2の事実について,わいせつ図画販売目的所持罪と児童ポルノ提供目的所持罪が成立して両罪は観念的競合であるとし,さらに,同項の1と2の事実を包括一罪として1個の刑を科しているので,原判決は結局その全部について破棄を免れない。


 大阪高裁H15.9.18も影響与えているようですが、札幌の弁護士ががんばったようで、裏に奥村弁護士がかんでいたということはありません。

 大阪高裁H15.9.8は旧法で児童ポルノのダウンロードは販売ではなく公然陳列だという判例ですが、札幌高裁は刑法175条についても同様に解釈したものです。

阪高裁H15.9.8
1 本件控訴の趣意
 本件控訴の趣意は,主任弁護人奥村徹,弁護人岡田崇及び同壇俊光共同作成の控訴趣意書1並びに主任弁護人奥村徹作成の控訴趣意書2,控訴趣意書補充書1,同2,控訴補充書3及び控訴理由補充書4ないし9にそれぞれ記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官篠粼和人作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
 2 当裁判所の判断
 (6) 原判示第2の事実についての法令適用の誤りの主張(控訴理由第1,第2)について
 所論は,原判示第2の事実について,・有体物に化体しない画像データそのものは児童買春児童ポルノ禁止法2条所定の児童ポルノに該当せず(控訴理由第1),また,・有償の譲渡行為といえるためには現実の交付を伴うことが必要であるところ,本件ではこれがない(控訴理由第2)にもかかわらず,それぞれ児童ポルノである画像データを販売したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで,検討するに,原判示第2の事実は,被告人が,各購入者に対して,自己がサーバーコンピューター上に開設したホームページのアドレス及びパスワードをメールで送信し,B及びCに対してはそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法で(原判示第2の1及び2の各事実),Dに対してはその自宅に設置されたパーソナルコンピューター内のフロッピーディスクにダウンロードさせる方法で(同3の事実),児童ポルノである画像データを販売した事実を認定していることが明らかである。ところで,【要旨】児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都千代田区a町b丁目c番地d所在の株式会社E管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記録であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B,C及びDは,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記Bらのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるBらに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
 そうすると,原判決には児童買春児童ポルノ禁止法7条所定の児童ポルノ販売罪に該当しない事実を同罪に該当するとして有罪とした法令の解釈適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 論旨は理由がある。
 3 破棄自判

立石さんのコメントは立法的に解決される予定というものですが、それまでの間に何人逮捕されるんでしょうか?