感心しない行為ですが、メールでは販売罪になりませんよ。
愛知県警は時々勇み足でしかけてきますが、弁護士が適切に対応した事件では、起訴されていません。
http://www.asahi.com/national/update/0623/NGY200806230007.html?ref=goo
愛知県警は23日、自分のヌードなどを販売目的で持っていたとして、同県春日井市の主婦(25)をわいせつ図画販売目的所持容疑で、現行犯逮捕した。
愛知署などの調べでは、主婦は同日午前9時20分ごろ、自宅でわいせつ画像5枚を記録したSDカードを販売目的で所持していた疑い。
画像はカメラ付き携帯電話で撮影した自分のヌードなどだった。インターネットの無料掲示板で客を募り、携帯電話のメールに添付する方法で画像5枚のセットを5千円で販売していたという。
奥村は、メール販売に関係してこういう意見を書いたことがあります。満期まで勾留されて起訴猶予でした。
名古屋地裁でもメール送信=頒布の訴因について頒布罪を否定したものがあるので、まともに訴訟になれば販売頒布罪では有罪にならないでしょう。
勾留取消請求書
被疑者は勾留中のところ、被疑事実はなんら犯罪を構成せず、被疑事実が認められても「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」に当たらないので、刑事訴訟法87条1項、207条1項により、勾留の取消しを請求する。理由
第1部 被疑事実
勾留状の被疑事実をそのまま引用する。
勾留状は、おそらく被疑事実の要旨
被疑者は,平成年月日,××に対して,
電子メール添付送付の方法で
自己の性器が露骨に描写された
わいせつ画像ファイル○○画像
を販売(頒布)したものである。というものであろう。
第2部 メール送信が販売(頒布)罪とならない理由
第1 メール送信の概念
大橋検事の説明なら信用できるであろう。
バケツリレーとたとえられるのは、送信サーバーには必ずしもデータが残らないからである。
大橋充直検事 ハイテク犯罪捜査入門P52
第2 販売・頒布罪の成否(大阪高裁H15.9.18)
1 総説
わいせつ物について最高裁H13.7.16*1、児童ポルノについて大阪高裁H15.9.18*2(上告棄却)によって、販売頒布の客体は有体物でなければならないし、販売頒布には現実の占有移転が必要であるから、販売・頒布罪は成立しない。
2 児童ポルノのメール送信の場合
大阪高裁H15.9.18は児童ポルノデータをサーバーからダウンロードさせた行為について、一審*3では販売・頒布罪としたものを、データ送信は販売・頒布には該当しないとしたものである。大阪高裁H15.9.18
このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B,C及びDは,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記Bらのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるBらに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。当時の児童ポルノ法は、刑法175条を倣った形式であって、児童ポルノの存在形式としては有体物を予定しており、
改正前の児童ポルノ法
http://www.moj.go.jp/KEIJI/H01.html
第二条
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。それゆえ、販売・頒布も占有移転を伴うことが必要であるとされた。
改正前の児童ポルノ法
http://www.moj.go.jp/KEIJI/H01.html
(児童ポルノ頒布等)
第七条 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。なお、その後、児童ポルノ法は改正されて、「電磁的記録の提供罪」として、メール送信も処罰対象とされた。
現行法
第二条
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
第七条
1 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。なお、改正後も、存在形式としては「その他の物」として、有体物性にこだわっていることに注意しなければならない。
3 わいせつ画像のメール送信の場合
これと対照して、わいせつ物の場合、第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。とされているから、やはり、児童ポルノ旧法と同じく、客体としては有体物を予定している。
従って、客体の存在形式に関する大阪高裁H15.9.18は刑法175条にもそのまま妥当する。すなわち、大阪高裁H15の「児童ポルノ」を「わいせつ物」に置き換えて読めばいいのである。大阪高裁H15.9.18の読替
このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。そして,わいせつ物販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B,C及びDは,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記Bらのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるBらに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとではわいせつ物の販売に該当する事実もないというべきである。
よって、わいせつのメール送信は、販売頒布罪とならない。これが高裁の判例である。
わいせつ図画について、電磁的記録を電気通信を通じて提供するという規定は、改正案*4としては存在するが、現行刑法にはない。それには刑法改正が必要であるというのが立法者の見解なのである。
捜査当局がかろうじて指摘できる裁判例(川崎支部H12、岡山地裁など)は、上記大阪高裁事件における検察官の答弁書で縷々強調されたところであるが(資料3)、その主張は容れられなかったのであるから、大阪高裁H15によって否定されていると理解される。
なお、インターネットの場合でも有体物性にこだわる姿勢は、最高裁H13.7.16に顕著である。【事件番号】最高裁判所第3小法廷決定/平成11年(あ)第1221号
【判決日付】平成13年7月16日
まず,被告人がわいせつな画像データを記憶,蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは,刑法175条が定めるわいせつ物に当たるというべきであるから,これと同旨の原判決の判断は正当である。次に,同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を
データをわいせつ物と評価するのではなく、サーバーをわいせつ物と評価して、あくまで、客体は有体物であり、それを陳列すれば公然陳列罪、販売頒布すれば販売頒布罪だと説明するのである。
つまり、最高裁の理解においても、メール送信が頒布罪になることはない。
4 裁判例
検察官答弁書(資料3)によれば、メール送信を頒布販売として裁判例としては、
川崎支部h12.11.24
川崎支部h12.7.6
岡山地裁h9.12.15
があるが、大阪高裁h15によって否定されたので、それ以後はみられない。
報道の事例としては、などというケースがあるが、勾留状はメール送信を販売罪としていたものの、その事実は結局起訴されなかった(余罪のcdromの販売について略式命令となっている)。
第3部 公然陳列罪も成立しない
1 陳列概念
上記大阪高裁判決はwebサーバーからダウンロードさせた場合について公然陳列罪の成立を認めるものであるが、メール送信の場合には、公然陳列罪も成立しない。
陳列罪におけるわいせつ物が有体性を要件とすることは同様である。
前記最決は「同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。」と述べていることからすると、有体物としてのわいせつ物が1箇所にある程度継続的に固定されていて、その物に対して不特定多数が認識しうる状態をいう。
なお、web掲載の場合、実際に閲覧者が見ているのは、閲覧者PCにDLされたデータである。それでもサーバーを陳列したと評価できる理由については、最決H13の原審である大阪高裁H11.8.26で判示されている。【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成9年(う)第1052号
【判決日付】平成11年8月26日
本件の罪につき、わいせつ図画を「公然と陳列した」というためには、わいせつ図画を不特定又は多数の者にとって観覧可能な状態に置くことで足りると解するのが相当であるところ、本件においては、被告人は、わいせつ面データ又はマスク処理ソフトの利用、入手に係るホームページのリンク情報とマスク処理を施してわいせつ性を隠蔽させた画像データをインターネット通信のプロバイダーのサーバーコンピューターに送信して、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させるとともに、右わいせつ画像等をダウンロードできるホームページを作成して開設したところ、さらに、他のホームページと相互にリンクさせたり、サーチエンジンに登録したりして、一般ないし多数の会員に向けて公開していたとの事情も相俟って、不特定又は多数のインターネット利用者が、右わいせつ画像データ等の存在を知り得、右わいせつ画像データ等に容易にアクセスしてこれをダウンロードし、自己のパソコンの画面上にて再生したり、マスクを外したりして、わいせつ画像を再生閲覧した状態が生じていたものということかできるから、被告人がわいせつ画像データ等をそのダウンロードを可能とする被告人開設のホームページのあるプロバイダーのサーバーコンピューターに送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させた行為をもって、わいせつ図画を「公然と陳列した」ものと認めることができ、インターネット利用者か、本件ホームページにアクセスしてから右わいせつ画像を閲覧するに至るまでの一連の行為は、わいせつ図画の陳列行為が既に終了した後になされるものに過ぎず、したがって、右の閲覧そのものが、利用者らのパソコンのハードディスク内に記憶、蔵置させた画像データを再生してするものであることは、本件の罪の成否に何ら影響を及ぼすものではないというべきである。つまり、ユーザーが、直接閲覧するわいせつ画像は、本件の場合、ユーザー側のパソコンのハードディスクに一旦ダウンロードされ記憶された画像データに基つき、そのパソコン画面に表示されることになるとはいうものの、右ユーザー側パソコンの画像データと本件ハードディスクに記憶・蔵置された画像データとの間には、これらによって表示されるわいせつ画像につき同一性が認められるから、サーバーから画像データがDLされて、それがクライアントPCに表示されている状態は、クライアントPCからサーバーHDDを見ているのと同視できるというのである。
有体物であるサーバーに同一データがあって、それに接続してデータを受信して閲覧者PCに表示されるという点を強調して、かろうじて、サーバーの陳列と評価しているのである。2 メール送受信過程
では、メールの送受信によって、わいせつ画像・児童ポルノ画像が送られる場合に、法律が予定する有体物としてのわいせつ物が認められるであろうか?
まず、メール送信の場合、送信者の手元には、一応、送信したデータが残るが、任意に削除しえて、削除しても、メールは到達する。
また、経由したサーバーに、メールデータが保存される場合もあるが、そうでない場合もあり、保存されなくてもメールは到達する。
しかも、受信者は、メールに添付されたデータを画像に再構成して、受信者PC上で、画像を見ているのであって、送信者PCやサーバー上に接続して見ているわけではない。
つまり、メールで送信された場合、有体物としてのわいせつ物が存在するのは、受信者PCだけである。
これは、メーリングリストやメールマガジンでも同じである。3 メール送受信過程を「陳列」と評価できるか?
メールの場合、受信者はネットから一旦メールデータを受信してから受信者PCに表示させるのであって、閲覧するときにはオフラインである。サーバーには接続されていない。
しかも、受信した時には、送信者PCにもサーバーにも画像データが保存されていないのであって、判例理論が前提とする「サーバーに同一データが存在する」という条件を満たさない。
つまり、有体物としてのわいせつ物が1箇所にある程度継続的に固定されていて、その物に対して不特定多数が認識しうる状態は認められない。
従って、メール送信は陳列に当たらない。
4 裁判例
webサーバーからのデータ送信を陳列とした裁判例もあるがメール送信については見あたらない。
わいせつ物について最高裁H13.7.16、児童ポルノについて大阪高裁H15.9.18(上告棄却)によって、わいせつ物・児童ポルノについて有体物性が要求されているところであるから、メール送信は陳列罪に当たらないというのが、判例である。第4部 まとめ
被疑事実について、わいせつ物販売頒布罪およびわいせつ物公然陳列罪を検討しても、いずれも否定されるべきである。
結局、被疑事実はなんら犯罪を構成せず、被疑事実が認められても「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」に当たらないから、勾留は取り消されるべきである。
第5部 資料
資料1 大橋充直検事「ハイテク犯罪捜査入門P52」
資料2 判決書(大阪高裁H15.9.18)
資料3 大阪高裁H15.9.18における検察官の答弁書
追記
ちちんぷいぷいでは
わいせつ物のプレゼントはOK
というコメントが出ていましたが、取材者の聞き間違いです。もろに頒布罪です。
奥村は
刑法は所持のうち販売目的の場合のみを処罰しており、「プレゼント目的の所持」「みせびらかすための所持」は頒布目的所持・公然陳列目的所持であって、販売目的所持罪には当たらないから処罰されない。
と説明したはずです。
第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。