ダウンロードさせる行為について札幌高裁は4項提供罪(不特定多数)としていますので、判例違反です。
札幌高裁H21.6.16
(児童ポルノ提供罪の成立時期についての補足説明)
弁護人は,本件における児童ポルノ提供罪は,不特定多数の第三者がアクセスできる状態においた時点で成立する旨主張するが,本件犯行態様をみると,購入者によりその代金が振込入金されたことを確認した被告人が,犯罪事実1の児童ポルノ動画ファイルのダウンロードに必要なIDとパスワードを購入者に電子メールで送信し,購入者は,そのIDとパスワードを使って,被告人のファイルサーバーから上記児童ポルノ動画ファイルをダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置させた上,ダウンロードした上記児童ポルノ動画ファイルを再生して画像を見るというものであるから,本件における提供というためには,購入者が購入した上記児童ポルノ動画ファイルを実際にダウンロードして自己のパソコン等に記憶,蔵置することを要するというべきであり,弁護人の主張は採用することができない。
大阪高裁H21.9.2と同じ係属部で、同じ検察官で、同じ弁護人でしたので、判決文も同じです。
大阪高裁H21.9.2
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画陳列被告事件
判決
被告人
検察官長崎正治
弁護人奥村徹(私選)
第2控訴理由に対する判断
1法令適用の誤りの主張について
弁護人は,本件犯行時に児童が生存して実在していることが必要である旨主張するが,児童ポルノ法が児童ポルノを規制の対象とするのは,それが児童を性の対象とする風潮を助長することになるのみならず,描写の対象となった児童の人権を侵害するとの考えに基づくものであり,このような立法趣旨にかんがみれば,児童ポルノが作成された時点で対象児童が実在すれば足りるというべきである。そして,関係証拠によれば,本件児童ポルノのもととなった児童ポルノが作成された時点で対象児童が実在したことは明白である。
また,弁護人は,本件は,児童ポルノ公然陳列罪ではなく,児童ポルノ提供罪が成立する旨主張するが,本件が児童ポルノ公然陳列罪に該当することは,一審判決が「補足説明」の項で正当に説示するところである。
なお,弁護人の主張にかんがみ,付言するに,児童ポルノ法の平成16年改正で,電磁的記録の提供(同改正後の同法7条4項後段)を新たに処罰の対象として新設し,かつ,児童ポルノの定義(同法2条3項)に「電磁的記録に係る記録媒体」を明記した趣旨は,同改正前の同法において,児童のポルノに係る電子データを記録媒体に記憶させ,これをインターネット上で不特定多数の者に閲覧させた場合には,上記電子データが記憶・蔵置された記録媒体を有体物としての児童ポルノとし,その公然陳列があったとして,児童ポルノ公然陳列罪が成立すると解されていたところ,これを前提として,同改正前の同法では処罰の対象として含めることに疑義があった電子メールにより児童のポルノを内容とする電磁的記録を送信して頒布する行為の処罰を新設するとともに,この改正に伴い,解釈上の疑義が生じないように児童ポルノの定義中に「電磁的記録に係る記録媒体」が含まれることを明示したというものである。このような同法の改正の趣旨にかんがみれば,本件が児童ポルノ提供罪に当たらないことは明白である。
以上のとおり,一審判決に法令の適用の誤りはない。弁護人の主張は,採用できない。
最決H13.7.16がネットにつながったサーバー蔵置の場合を公然陳列としたのだが、これで処理できるところは、なるべくこれで処理するという手堅い手法なんだろと理解しています。
児童ポルノをDLさせるのを4項提供罪(不特定多数)にすると、わいせつについても公然陳列罪でないことになって、現行刑法だと頒布でもないので処罰できなくなることになるし。
【事件番号】最高裁判所第3小法廷決定
【判決日付】平成13年7月16日
弁護人川口直也外3名の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権により判断する。
原判決の認定によると,被告人は,自ら開設し,運営していたいわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像データを記憶,蔵置させ,それにより,不特定多数の会員が,自己のパソコンを操作して,電話回線を通じ,ホストコンピュータのハードディスクにアクセスして,そのわいせつな画像データをダウンロードし,画像表示ソフトを使用してパソコン画面にわいせつな画像として顕現させ,これを閲覧することができる状態を設定したというのである。
まず,被告人がわいせつな画像データを記憶,蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは,刑法175条が定めるわいせつ物に当たるというべきであるから,これと同旨の原判決の判断は正当である。
次に,同条が定めるわいせつ物を「公然と陳列した」とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。被告人が開設し,運営していたパソコンネットにおいて,そのホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置させたわいせつな画像データを再生して現実に閲覧するためには,会員が,自己のパソコンを使用して,ホストコンピュータのハードディスクから画像データをダウンロードした上,画像表示ソフトを使用して,画像を再生閲覧する操作が必要であるが,そのような操作は,ホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置された画像データを再生閲覧するために通常必要とされる簡単な操作にすぎず,会員は,比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった。
そうすると,被告人の行為は,ホストコンピュータのハードディスクに記憶,蔵置された画像データを不特定多数の者が認識できる状態に置いたものというべきであり,わいせつ物を「公然と陳列した」ことに当たると解されるから,これと同旨の原判決の判断は是認することができる。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫)