児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪と性犯罪福祉犯は観念的競合である。

 目的製造罪と3項製造罪とをわけて考えれば、少しは整理できます。3項製造罪の場合は、姿態をとらせ=性犯罪・福祉犯という関係になるので、観念的競合になりやすいと思います

2 刑法54条1項の「一個の行為」の意味(林正彦判事の分析)
 刑法54条1項の「一個の行為」の意味については、最高裁S49.5.29が「しかしながら、刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。」と判示しているところから、裁判例においては、「社会見解上一個だから観念的競合」「社会見解上一個だとはいえないから併合罪」(まさに本件原判決)などと判示されて、場当たり的に判断されている感が否めない。弁護人から言えば、観念的競合と主張すれば、「社会見解上一個だとはいえないから併合罪」と判断され、併合罪だと主張すれば、「社会見解上一個だから観念的競合」とただ裏返して返答されるようにも思われる。

 そこで、手堅く裁判例を分析された林正彦判事の最近の論稿

林正彦 観念的競合における「一個の行為」について 小林充先生 佐藤文哉先生古稀祝賀刑事裁判論集 上巻

に従って、観念的競合となる場合を検討する。
 林判事の結論は、最高裁s49は「必ずしも構成要件的行為が重なることを要しない」との理解すべきであり、構成要件的重なり合いがあれば、観念的競合となるが、構成要件的行為の重なり合いが無くても、「密輸入」「ひき逃げ」という一個の社会的事象であれば、観念的競合となりうるということである。
 林判事の分析。
結局最高裁s49について「必ずしも構成要件的行為が重なることを要しない」との理解を示している。

 ①構成要件的重なり合いがあれば、観念的競合となる
②構成要件的行為の重なり合いが無くても、「密輸入」「ひき逃げ」という一個の社会的事象であれば、観念的競合となりうる

これが判例の理解である。

 だとすると、構成要件的重なり合いがないから、観念的競合とならないというだけでは理由として不十分であって、構成要件的重なり合いもないし、かつ、一個の社会的事象と評価することもできない場合に初めて、観念的競合ではないことになるのである。
 
3 性犯罪・福祉犯と実行行為が重なるので観念的競合となる場合
 撮影行為自体がわいせつ行為(強制わいせつ罪・青少年条例違反)である場合や、性犯罪・福祉犯の実行行為である性行為が3項製造罪の「姿態をとらせ」に該当する場合がこれに当たる。

(1)児童ポルノ製造罪を立件しない場合(製造罪施行前又は施行後であっても製造罪が立件されていない場合)の撮影行為の刑法的評価
 ここでまず翻って考えて、児童ポルノ製造罪を立件しない場合(製造罪施行前又は施行後であっても製造罪が立件されていない場合)の撮影行為の刑法的評価をみると、撮影行為を児童淫行罪・強制わいせつ罪・青少年条例違反の実行行為として評価したものが多い。
 そうであれば、もともと児童淫行罪・強制わいせつ罪・青少年条例違反であった行為をさらに製造罪としても評価するのであるから、観念的競合になるのは当然である。
①撮影を児童淫行罪の実行行為とするもの
大津家裁H19
イ高松家裁H16.
②撮影を強制わいせつ罪の実行行為とするもの(児童には限らない)
最高裁s45.1.29(但し、性的傾向を欠くので強要罪。)
静岡地裁浜松支部H11
奈良地裁H18
佐賀地裁H18
神戸地裁H17
横浜地裁H16
神戸地裁尼崎H17.
山形地裁H16.
ケ秋田地裁横手H15
那覇地裁H17
サ大津地裁H16
シ大津地裁H18
奈良地裁H13
広島地裁H18
さいたま地裁H19.
金沢地裁H12
松山地裁西条H18.
ツ札幌地裁H16
福岡地裁H13
仙台地裁H18.
仙台地裁H18.
仙台地裁H13.
長崎地裁佐世保H14
横浜地裁H13.
さいたま地裁H19
名古屋地裁半田H17.
松山地裁H13.
神戸地裁H18.
福岡地裁H17.
ホ函館地裁H14.
名古屋地裁H19.
ミ東京高裁H18.
東京地裁h9.
東京地裁H17.
仙台地裁H14
③撮影を青少年条例違反の実行行為としたもの
千葉地裁H15
宇都宮地裁H14
富山地裁H15.
エ高岡簡裁H14.

(2)3項製造罪(姿態とらせて製造)と児童買春罪は観念的競合
 次に、3項製造罪(姿態とらせて製造)とは、児童買春罪の実行行為である性交等が3項製造罪の姿態とらせる行為と重複するので、観念的競合となる。
①函館地裁H19.
 児童買春罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)を観念的競合とする。
②札幌高裁H19.
 函館地裁H19.の控訴審であるが、一審判決を追認して、観念的競合であると判示した。

長野地裁H17.
 児童買春罪と3項製造罪(姿態とらせて製造)を観念的競合とする。
(3)3項製造罪(姿態とらせて製造)と児童淫行罪は観念的競合
 さらに児童淫行罪と3項製造罪も児童淫行罪の実行行為である性交・性交類似行為が3項製造罪の姿態とらせる行為と重複するので、観念的競合となる。
 高裁判決が2件もあって1件は上告棄却となっているからもはや判例である。
 東京高裁判決の「本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である」という判示を見ると、性交と撮影とが社会見解上一個の行為となるのだという理解が明らかである。
 これが現時点での製造罪と福祉犯・性犯罪との罪数処理に関する判例である。

横浜家裁横須賀支部H17.(3項製造罪)
②東京高裁H17.12.26*27(3項製造罪)(上告棄却)
原田國男「量刑をめぐる諸問題−裁判員裁判の実施を迎えて−」判例タイムズ 第1242号

長野家裁H18.(3項製造罪)
 児童淫行罪の当初訴因に、販売目的製造罪が訴因変更によって追加された事案である。
札幌家裁小樽支部H18.(3項製造罪)
 札幌高裁H19.3.8の一審判決で、児童淫行罪と3項製造罪(姿態をとらせて製造)を観念的競合だとした。

名古屋家裁岡崎支部H18.(3項製造罪)
 児童淫行罪と3項製造罪(姿態をとらせて製造)を観念的競合だとした。
⑥札幌高裁H19.3.8(3項製造罪)
 これは、事物管轄についての製造罪と児童淫行罪は併合罪ではないかという主張に対する判断である。
 東京高裁H17.12.26は傍論として判示したものであるのに対して、札幌高裁H19.3.8は正面から観念的競合としたのである。
 しかも札幌高裁事件では、検察官が、観念的競合によるかすがい現象を主張して、採用されたのである

名古屋家裁H19.(3項製造罪)
(4)3項製造罪(姿態とらせて製造)と青少年条例違反は観念的競合
 さらに、青少年条例違反罪−製造罪も観念的競合である。これは、撮影行為ないし姿態をとらせる行為がわいせつ行為と評価されるからである。従って、3項製造罪に限らない。目的製造罪でも撮影行為自体が条例のわいせつ行為と評価されるからである。
横浜地裁H17.
 横浜地裁H17は青少年条例違反(淫行)と提供目的製造罪を観念的競合とする。
長野地裁佐久支部H19.
 徳島県青少年条例違反と撮影後の編集・複製を含めた3項製造罪(姿態とらせて製造)を観念的競合とした。

(5)3項製造罪(姿態とらせて製造)と強制わいせつ罪は観念的競合
 さらに、強制わいせつ罪−製造罪も観念的競合である。これは、撮影行為ないし姿態をとらせる行為がわいせつ行為と評価されるからである。

長野地裁H19.
 わいせつ行為と撮影行為が混然と記載されており、仮に併合罪だとすると、このような記載では訴因不特定となるであろう。
② 札幌地裁H19.(控訴棄却札幌高裁H20.)
 被害児童B・Cに対する強制わいせつ罪の訴因に、訴因変更によって、同児童への製造罪が追加されている。併合罪であれば、違法な訴因変更許可となろう。

(6)「児童買春法違反事件裁判結果調」法務省刑事局
 法務省の統計を見ても、3項製造罪(姿態とらせて製造)と他罪が観念的競合とされた事例が報告されている。検察庁からの報告の集計であるから、詳細は、検察官から裁判書を提出されたい。
 統計は、各条項別になっており、製造罪が含まれる7条2項、3項、5項のうち、2項及び5項については、所持・運搬なども含まれる(たとえば、わいせつ図画販売目的所持との観念的競合の事案)から、製造罪と観念的競合の事案があるのかは不明である。
 しかし、7条3項は、「姿態とらせて製造」のみであるから、これとの観念的競合となるのは、前提となる性犯罪・福祉犯との関係しかあり得ない。
 そこで、7条3項の数値を中心に統計を詳細に検討することにする。
 注1にあるように、7条3項の数値のうち、括弧書の数値が、観念的競合となった事案数である。

 平成17年の統計では、3項製造罪(姿態とらせて製造)と他罪が観念的競合とされた事案として、2年以上3年未満の実刑事案1件と、罰金事案1件が報告されている。

 平成18年の統計では、2年〜3年実刑事案1、2年〜3年執行猶予事案2、1年〜2年執行猶予事案1、罰金事案1の合計5件が報告されている。

 法務省の統計からみても、性犯罪・福祉犯と3項製造罪とが社会見解上一個と評価されていることがわかるのである。

5 構成要件的行為の重なり合いが無くても、一個の社会的事象である場合
 性行為を含む罪(性犯罪・福祉犯)とその際の製造罪とはいわゆる「ハメ撮り」という社会見解上一個の行為である。
 裁判例も複数あるから、弁護人の創造ではない。
 林判事の

林判事
最高裁s49は「必ずしも構成要件的行為が重なることを要しない」との理解すべきであり、構成要件的重なり合いがあれば、観念的競合となるが、構成要件的行為の重なり合いが無くても、「密輸入」「ひき逃げ」という一個の社会的事象であれば、観念的競合となりうる

という分析に従えば、これは端的に、性交等とその状況を撮影する行為がいわゆる「ハメ撮り」行為として社会的事象として一個だと評価されるからである。

 すなわち、刑法54条1項の「一個の行為」の意味については、最高裁S49.5.29が「しかしながら、刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいうと解すべきである。」と判示しているところであるが、児童との性交場面を撮影するというのは、性交しなければ姿態要件で製造罪が成立しないという意味で、密接に結合した関係であって、「ハメ撮り」として社会的に評価されるに至っているから、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合にあたるのである。
 実務家の論文でも、「ハメ撮り」という行為類型が認められている。
大橋検事「ハイテク犯罪の捜査」捜査研究2004.12


(1)児童買春罪−目的製造罪が観念的競合とされた裁判例
 児童買春罪とその際の製造罪とはいわゆる「ハメ撮り」という社会見解上一個の行為である。性交等と撮影行為が社会見解上一個なので、当然の帰結である。
 裁判例も複数あるから、弁護人の創造ではない。
富山地裁高岡支部H19.

(2)児童淫行罪−目的製造罪も観念的競合
 さらに、児童福祉法違反(淫行させる行為)の機会に提供目的製造罪(旧販売目的製造罪)が行われた場合については、観念的競合とする裁判例もいくつもある。
①千葉家裁H12(販売目的製造罪)
横浜家裁H16(販売目的製造罪)
奈良家裁H16.(販売目的製造罪)
東京家裁H16.(販売目的製造罪)
 児童淫行罪と販売目的製造罪が観念的競合であるとした。
 小栗健一「実例捜査セミナー 16歳の少女について年齢確認の方法を尽くさず,女優としてアダルトDVDに出演させた事件について」(捜査研究'05.06.05)において、「室長検事」が推奨していた事件処理である。


東京家裁H18.(販売目的製造罪)
 児童淫行罪の当初訴因に、販売目的製造罪が訴因変更によって追加された事案である。
東京家裁H18(販売目的製造罪)
長野家裁H18.(3項製造罪)
 児童淫行罪の当初訴因に、販売目的製造罪が訴因変更によって追加された事案である。