児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「児童ポルノの公然陳列に関するセンターへの昨年の通報は1609件。誰かがサイトに児童ポルノを掲載しても掲載場所を提供するサーバーの管理者には削除義務がない。だが単純所持が違法となれば、管理者が児童ポルノと知りながら放置すると法律違反になる。」?

 法律の話だから、実務家に取材してほしいのですが、管理者も逮捕されて有罪になってる。
 奥村は、公然陳列されている状況は、誰が見ても違法なので、削除しないとだめなんですけど、「削除義務の根拠と内容が不明確」だと言っています。削除するのが面倒な人が「削除義務がない」といってるだけです。
 自分の家の塀に、誰かがわいせつとか児童ポルノとかを貼ってるのを見つけたら、「こりゃあかん」って、はがすでしょ。「合法だ」「削除義務がない」なんて言わないですよ普通。でも「削除義務の根拠と内容が不明確」だとはいえるでしょ。

http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20080322ddm003040104000c.html
画像の陳列や交換は、現行法でも処罰対象だ。ネット上の違法・有害情報の通報を受けるインターネット・ホットラインセンター(東京都港区)の吉川誠司副センター長は「それでも需要(単純所持)が認められている限り、供給(陳列・提供)は止まらない」と指摘する。

 児童ポルノの公然陳列に関するセンターへの昨年の通報は1609件。誰かがサイトに児童ポルノを掲載しても掲載場所を提供するサーバーの管理者には削除義務がない。だが単純所持が違法となれば、管理者が児童ポルノと知りながら放置すると法律違反になる。


 これは難しい問題なんですけど、単純所持罪で解決すると、プロバイダは全員有罪になりますよ。プロバイダ責任制限法なんかふっとんじゃいますね。
 そもそも、web掲載を公然陳列(閲覧者には残らない)としているところが間違っていると思います。

 裁判例を見ると、正犯か幇助か、作為犯か不作為犯かが定まっていないことが明かである*1。
横浜地裁H15.12.15*2(「インターネット上の誹謗中傷と責任」P149)(不作為犯・正犯)
②東京高裁H16.6.23*3(「インターネット上の誹謗中傷と責任」P151)(作為犯・正犯)→上告棄却(最高裁H19.3.28)
名古屋地裁H18.1.16*4(公刊物未掲載)(不作為犯・幇助犯)
名古屋地裁H19.1.10*5(公刊物未掲載)(作為犯・幇助犯)
⑤神戸簡裁H19.2.29(公刊物未掲載)(不作為犯・幇助犯)
名古屋高裁H19.7.6*6(公刊物未掲載)(作為犯・幇助犯)→上告棄却(最高裁H19.11.9)

 掲示板管理者の法的責任については、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)によって立法的解決をみているが、同法は民事責任のみに関するものであるから、刑事責任については、現状では、刑法総論の理屈(共犯理論、不真正不作為犯)で解決するしかない。
 設置行為については、名古屋高裁が「電子掲示板開設行為は、実行正犯である投稿者らが行う上記実行行為を、それ以外の方法で容易にする行為であって、自らのためにするものではないから、幇助行為に他ならない」と判示するように、他人が事前連絡なく投稿する場合管理者の手元には児童ポルノ画像がない以上、掲示板設置行為を公然陳列罪(正犯)の実行行為と評価するには無理があるから、設置行為は幇助(作為犯)と評価すべきであろう。
 他方、違法画像を認識しつつ放置した点については、民事責任に関する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダー責任制限法)においては、掲示板管理者は関係役務提供者(同法3条)として同条所定の場合の不作為責任を負うとされていることとの均衡から、不作為犯における作為義務の根拠と内容が議論されるべきであろう。
 これは難しい問題で、名古屋高裁もわからなかったようで判断を回避している。

名古屋高裁H19.7.6
もとより、同種事案における判断が裁判体ごとに異なる事態は望ましいことではないが、このような場合、上級審による見解の統一が図られ、又は多数裁判例の集積により自ずから一定の結論に収束していくこととなる。

 しかし、被告人は裁判体を選べないし、他人が投稿した画像について刑事責任を問われるという深刻な問題について判例の集積を待つというのは罪刑法定主義の観点から妥当な解決とは言えないであろう。早急な立法的解決が必要。

7 web掲載行為は公然陳列罪ではなく4項提供罪である。
(1) web掲載行為
 児童ポルノ画像をweb上に掲載する行為については、刑法175条に関する最高裁判例H13にならって、公然陳列罪として処罰しているが、これは行為の本質を見誤っている。
 公然陳列行為というのは、違法画像を見せるだけで、閲覧者の手元には残らないという概念である。残るとすれば、網膜とか脳裏とか記憶に残るだけで、閲覧者から再度流通しない。
 web掲載というのは、違法画像が閲覧者のパソコンに送られており、閲覧者において保存・加工・送信可能となるから、実質は4項提供罪である。
 児童ポルノを内容とする画像データ(有体物に化体しないもの)を送る行為については、陳列の概念を超えているのである。


 民主党は譲受罪?
 単純所持罪っていっても、結局、提供罪の対向犯が中心になるので、結果は一緒でしょうね。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080322ddm003040104000c.html
単純所持禁止は議論のたびに見送られてきた。法改正には民主党内などにある「捜査権の乱用につながる」との懸念に応える手段を設けられるかが鍵となる。枝野氏は「日本の捜査は自白偏重。(一方的に画像を送られるなど)所持の認識がない例まで処罰されかねない。ただ流通・製造を抑える工夫はしたい。自ら意図して提供を受けた場合に限り罪に問うことは考えられる」と話す。民主党も近く検討チームを作る。