http://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/200801/
☆ 児童買春・ポルノ禁止法及び人身売買等の人身の自由を侵害する行為についての犯罪事実等のポイント(第5回)
今回は「児童ポルノの輸入、輸出の罪について」をご執筆いただきました。特に捜査上問題となる本邦への輸入罪の既遂時期の解釈を中心に解説します。
関税法の同種の罪との異同が解説されています。
白井検事は名古屋高裁h18.5.30を紹介して追認しているわけですが、それなら先にそう書いてほしいものです。東京地裁八王子支部では違う判決もありますから。
なお、児童ポルノ輸入罪の既遂時期については、「本邦内に入っただけでなく携帯して飛行機から降りた時」なんて言いますが、領海領空内の船舶・航空機から電気通信の方法で送信してしまえば、輸入罪は既遂になりませんよね。甘いと思います。
奥村説は領域搬入説。
法7条5項の輸入罪は、「日本の領域(領空・領海)に入った時点」で既遂となる(領海説 領域搬入説)。
輸出入の定義については、諸説*1ありうるところであるが、判例タイムズ1060号264頁
そして、一般に、覚せい剤取締法のような薬物関係法規を中心にして、輸入の意義ないし既遂時期に関する学説の動向をみると、かねて、対象物品を国外から本邦の領海・領空に持ち込めば直ちに輸入既遂罪が成立するとする領海説(領域搬入説。植松正・再訂刑法概論Ⅱ各論一九六頁、大塚仁・刑法概説各論(三版)五一〇頁等)、本邦領土に陸揚げした時点で既遂罪が成立するとする陸揚げ説(特に航空機による搬入の場合について、既遂時期に関し若干の見解の差があるが、ここでは触れない。香城敏麿「覚せい剤取締法」『注解特別刑法」五巻Ⅱ(二版)一〇八頁、宮崎礼壹・注釈特別刑法八巻二〇五頁、飛田清弘ほか・改訂覚せい剤事犯とその捜査五七頁等)、保税地域等を経由して引き取られる物品については関税線を通過して自由流通状態になった時点で既遂に達するとする関税線突破説(通関説。土本武司・判時一〇九二号三頁、亀山継夫・研修三○八号五三頁(ただし、爆発物等の危険物の場合は領海説を採るべきとする。)等)の諸説が対立している。また、本邦外から本邦領域内に物品を搬入し、かつもともと本邦内にあったのと同様の濫用の危険のある事実状態を作出したか否かを、搬入態様ごとに個別的に検討して既遂時期を決するとする個別化説も唱えられている(渡辺一弘「あへん法」『大コンメンタール薬物五法」二巻一二一頁、古田佑紀・捜査研究三三巻二号一九頁等)。立法者は、陸揚げ*2*3・保税地域*4(関税線突破)は採用せず、領域搬入説を採用したのである。
本件の訴因でいえば、飛行機が日本の領空・領海に入った時点で既遂となる。
森山・野田「よくわかる児童ポルノ・児童買春処罰法」P60
このように児童ポルノについては、薬物や輸入禁制品の場合よりも輸入罪の既遂時期が早いのは、有体物として陸揚げされなくても領土に接近してデータとして送信されれば法益が侵害される危険があるからだと合理的に理解できる。
本件の公訴事実には、日本の空港への到達まで記載されているから、(日本領空に入った時点で)児童ポルノ輸入罪も既遂となる。
5 通過国にかかる輸出入罪も成立する。
さらに、本件のような公訴事実の場合、a国から日本の空港に到達するまでの経由国にかかる輸出入罪も成立する。
すなわち、児童ポルノ輸出入罪は領域搬入説を採用するので、積み込み・荷下ろしがなくても、通過するだけで輸出入罪が成立する。
すなわち、世界地図を見ると、a国と日本の間には、b国c国d国などが存在し、たとえa国→日本の直行便でも、第三国の領域を通過する。
領域搬入説によれば、かつ、原判決の罪数判断を前提とすれば
a国を出たところで7条6項の外国から輸出罪、
bに入ったところで6項の外国に輸入罪、
b出るところで7条6項の外国から輸出罪
cに入ったところで6項の外国に輸入罪、
cを出るところで7条6項の外国から輸出罪
dに入ったところで6項の外国に輸入罪、
dを出るところで(→公海)7条6項の外国から輸出罪
公海から日本に入ったところで5項の本邦に輸入罪
が成立し、併合罪となる。
だから、「a→日本」だけ記載すると、数罪を一罪として記載したので訴因不特定になるという控訴理由なんですよ。