児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「覚せい剤を携行して通関線を突破して本邦内に輸入しようとする者は,必然的に両罪を犯すことになり,いずれか一方の罪のみを犯すということは考えられない」から両罪は覚せい剤輸入罪と関税法違反罪は観念的競合(東京高裁H19.11.6)

っていうんですが、児童ポルノの密輸入の外国からの輸出と関税法違反は、国際EMSを利用する場合は、「本邦内に輸入しようとする者は,必然的に両罪を犯すことになり,いずれか一方の罪のみを犯すということは考えられない」んですが、名古屋高裁H18.5.30は一個の行為じゃないことを理由にして併合罪にしています。
 これまた、ああ言えばこう言うという感じの対応ですかね。

東京高裁H19.11.6
そこで検討すると,?,?及び?の各児童買春罪に該当する行為は,児童に対し対償を供与し,あるいは,その約束をして,児童と性交するなどしたものであり,?及び?の各児童ポルノ製造罪(本法7条2項所定の罪。以下,これを同条3項所定の児童ポルノ製造罪と区別して,「2項製造罪」という。)に該当する行為は,提供の目的で,その性交等をしている児童の姿態等を撮影し,DVD−RW1枚あるいはネガフィルム1個の児童ポルノを製造したものであって,これらの行為は,各性交等の時点では同時的に併存してはいても,自然的観察の下で,行為者の動態が社会的見解上1個のものと評価される場合には当たらないと解するのが相当である。
 その理由につき若干補足して説明する。まず,児童買春行為それ自体(児童との性交ないし性交類似行為)は,2項製造罪の実行行為の一部であるとは解されず,児童買春罪と2項製造罪は,その実行行為が部分的にも重なり合う関係にはないのである(このことは,児童に対する強姦や強制わいせつの状況を撮影した場合に,強姦行為や強制わいせつ行為が2項製造罪の実行行為の一部とはいえないのと同様である。)。次に,両罪に該当する行為は,本件においてはほぼ由時的に併存し,密接に関連しているので,自然的観察の下で社会的見解上1個の行為と評価するのが相当か否かが問題となる。

判例上,外国から航空機等により覚せい剤を持ち込み,これを痍帯しそ通関線を突破しようとした場合の覚せい剤取締法上の輸入罪と関税法上の無許可輸入罪が観念的競合の関係にあるとされており,両罪は実行行為の重なり合いはないが,このような行為は社会的見解上1個の行為であるとされている(最高裁昭和58年9月29日第一小法廷判決・刑集37巻7号1、110頁)ので,これと本件の場合を比較検討してみると,外国から覚せい剤を携行して通関線を突破して本邦内に輸入しようとする者は,必然的に両罪を犯すことになり,いずれか一方の罪のみを犯すということは考えられない(関税法違反罪の実行の着手前に発覚した場合を除く。)が,本件の場合は,児童買春罪のみを犯し,2項製造罪には及ばないことも,逆に,2項製造罪のみを犯し,児童買春罪には及ばないことも共に十分に可能なのである。覚せい剤輸入の場合は両罪に該当する行為はいずれも「輸入」として同質的なものといえるが,「買春」と「製造」はむしろ異質な行為であって,行為者の動態としての1個性は認めがたいというべきであろう。

名古屋高等裁判所判決平成18年5月30日
判例タイムズ1228号348頁
所論は,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は包括一罪であり,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪とは観念的競合の関係にあり,結局,原判示事実全体が一罪となるから,児童ポルノの外国からの輸出罪6罪及び関税法の輸入未遂罪6罪の併合罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,(1)原判示第1の6回の児童ポルノの外国からの輸出は,これらの行為が同一機会に同一意思をもってなされたものとは認められないから,それぞれ各別に児童ポルノの外国からの輸出罪が成立し,また,(2)児童ポルノの外国からの輸出罪は,前記のとおり,対象物を他の国に搬出するため,その地域に仕向けられた航空機等の輸送機関にその対象物を積載ないし搭載したときをもって既遂に達すると解されるのに対し,関税法の輸入罪は,外国から本邦に到着した貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては,保税地域を経て本邦に)引き取ったときをもって既遂に達するのであって,児童ポルノの外国からの輸出罪が既遂に達した後,児童ポルノを本邦に引き取るまでの部分は児童ポルノの外国からの輸出罪の実行行為とは重ならないから,児童ポルノの外国からの輸出罪と関税法の輸入未遂罪は一個の行為とはいえず,所論のいう国際スピード郵便(EMS)発送ラベルが複写式になっていて通関手続に必要な書類はそのラベルへの記入で完成することなどを前提にしても,両罪は観念的競合ではなく,併合罪の関係に立つというべきであるから,これらの点につき原判決には法令適用の誤りはない。所論は独自の見解であり,理由がない。