- 製造行為が3段階で厳重に規制されていること、
- 外国から輸出・外国に輸入については不特定多数提供・公然陳列目的の場合のみ規制されていること
- 特定少数に対する場合は、不特定多数に対する場合よりも法定刑が重いこと
がわかります。
これは、改正法の目的は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰することであって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰することを主眼としていることを顕著に示している。
2 旧児童ポルノ法「販売罪」
比較のために、旧法「販売罪」、刑法175条「販売罪」をみておく。
刑法175条については、「販売罪」は営業犯を処罰する趣旨だから、複数回でも包括評価するというのが判例である(大審院S10.11.11)。
保護法益は風俗という社会的法益であること、同条の「販売」の定義(不特定または多数に対する・・・)、表現の自由に対する配慮からは、特定少数への単発の販売行為は処罰しないが、不特定多数への継続反復的販売行為を処罰するという、行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ・奥行き)に着目するものであることが明らかである。だから数回の販売は(包括)一罪とされる。
もっとも、それはわいせつ図画販売罪の職業犯性や保護法益による例外的な扱いである。
その大審院S10.11.11は「不特定多衆に対しておこなう目的に出でた有償的譲渡にして性質上反復される多数の行為を包含するものであるから複数回の販売行為は包括的に一個の犯罪として処罰すべきである」とその理由を述べる。
また、山火氏もわいせつ図画罪の職業犯性による例外的取り扱いであると分析している。
山火正則「包括的一罪」(『判例刑法研究ー4.未遂・共犯・罪数』P279)*1
この結論は、旧児童ポルノ法の「販売罪」(7条1項)についても同様と解される。
3 販売罪の変貌(→提供罪)
直接児童ポルノを拡散する行為について、現行児童ポルノ法では、「頒布罪・販売罪*2」が「提供罪*3」に変更された。
しかも提供罪の行為類型としては特定少数に対するもの(1項)と不特定多数に対するもの(4項)に分かれている。4項には公然陳列も並んで規定されている。
さらに、児童ポルノの拡散に関わる行為として、拡散させる目的がある場合に限定して所持・運搬・輸出入行為が処罰される(2項、5項、6項)。
つまり、改正法の提供罪は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
これに対して非公然陳列行為は処罰されない。閲覧者には児童ポルノが渡らないので拡散しないからである。
同じく、特定少数を相手方にしても、特定少数提供行為は処罰されるが非公然陳列は処罰されないというのは、児童ポルノが相手方の手元に渡るかどうか(再拡散するか)が処罰の境界線となっているからである。
つまり、改正法の「提供罪」は児童ポルノの拡散による法益侵害を処罰する趣旨であって、児童ポルノを拡散させる行為を処罰し、拡散の危険が高いほど重く処罰する趣旨であること、法益侵害の幅に着目したものである。
行為の反復性による法益侵害(法益侵害の深さ)に着目するものではない。
だとすれば、複数回の提供行為は、1項でも4項でも包括評価する根拠がない。
4 提供罪(提供罪+所持罪)の罪数処理
実際、昨年の改正によって、販売罪は姿を消し、代わりに提供罪が登場し、しかも、特定少数提供罪(7条1項)と不特定多数提供罪(7条4項)がもうけられたのである。児童ポルノについては一回性の行為も処罰するのであって 、各罪の法定刑のバランス(1項提供罪は1回性の提供行為を予定しているから数回行えば数罪となる。その場合の処断刑期は併合罪加重され、4年6月となる。数個の4項提供罪を包括一罪とすると、数回でも5年となり、数回の1項提供罪の処断刑期と近接する。わかりやすく言えば、1項提供罪を2回行うと懲役4年6月になるが4項提供罪を1万回行っても懲役5年に止まる)を考えると、特定少数提供罪(7条1項)も不特定多数提供罪(7条4項)も複数回行えば併合罪になることは明かである。
実質的に考えても児童ポルノ罪については、その個人的法益性を重視すると、一回性の売買や特定少数に対する売買や無償譲渡もわいせつ図画以上の当罰性を有するから(職業犯を処罰する趣旨ではないから)、販売=包括一罪とすることは許されない。