児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ画像とわいせつ画像の掲示板への投稿行為を、4項提供罪(不特定多数)+わいせつ図画公然陳列罪の観念的競合とした事案(金沢地裁小松支部h19)

 そのための撮影行為を5項製造罪(不特定多数提供目的製造)にしています。
 これは奥村説なんですが、名古屋高裁h19は公然陳列罪と評価すべきだとしていましたが。

第7条(児童ポルノ提供等)
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

 こういう書き込みをしているときは、たいてい、対応する検察庁にいて、検察事務官の厳しい監視下で、エッセンスを紹介しているわけです。
 後ほど解説します。
 こういう判例があるんですよ。

名古屋高裁h19.7.6
2 主任弁護人の控訴理由第3(インターネット上の公開は、不特定多数の者に対する提供であって、公然陳列に該当しない。)について
論旨は、要するに、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、公然陳列罪には該当しないから、これを「公然陳列罪」に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、ひいては法令適用の誤りがある、というのである。
しかしながら、児童ポルノ画像を「公然と陳列した」とは、その児童ポルノの内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいうところ、インターネットの電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為は、不特定多数のインターネット利用者が自己のパソコンを使用して当該児童ポルノ画像を認識(閲覧)可能な状況を設定するものであるから、これが児童ポルノ画像の公然陳列罪に該当することは明らかである。
所論は、インターネット利用者がインターネットの電子掲示板に記憶、蔵置されている画像データをいわゆる「閲覧」するのは、当該画像データそのものをインターネット利用者のパソコン画面上で見ているのではなく、インターネット利用者がプロバイダを介し当該画像データを構成する各種ファイルの送信を受け(ダウンロード)、これらを自己のパソコンの一時保管ホルダーに保存し、この一時保管された画像データがパソコン画面に表示され、インターネット利用者はこの画面上に表示された画像を見ているのであるから、電子掲示板に児童ポルノ画像を送信して記憶、蔵置させる行為は、児童ポルノ処罰法7条4項の不特定又は多数の者に対する提供罪に該当し、同項の公然陳列罪には該当しない、という。
しかし、所論が、インターネット利用者において、電子掲示板に記憶、蔵置された児童ポルノ画像を見るに至る経緯を、インターネットの仕組みに照らし詳細に説明していることは認めるが、前記認定のとおり、電子掲示板に児童ポルノ画像データを送信して記憶、蔵置させる行為により、不特定多数のインターネット利用者が当該児童ポルノ画像を、所論が詳細に説明するインターネットの仕組みを介して、認識(閲覧)可能な状況を設定していることが認められるのであるから、その行為は、児童ポルノ画像を公然陳列したというを妨げないというべきである。その他、所論のいう児童ポルノの受け手側における再生可能性の有無に関する点を考慮しても、所論は採用できない。
論旨は理由がない。

 その控訴理由はこんなの。

控訴理由第3 法令適用の誤り ネット上の公開は「陳列」にあたらない(「4項提供罪」である。)
1 はじめに
 原判決は、ネット上の掲示板に児童ポルノ画像を掲載することを児童ポルノ公然陳列罪として擬律することを前提にして、掲示板管理者である被告人についても児童ポルノ公然陳列罪(正犯・幇助犯)を認めている。
 しかし、アップロードした者も含めて、児童ポルノをネット上で公開することを「陳列罪」とすること自体誤りである。
 クライアントが見ているのはサーバーに記憶されている画像データではなく、サーバーからダウンロードされてクライアントPCに記憶された画像データであるからである。ダイヤルQ2で音声を聞かせている場合は、電話回線を切れば音声は途切れるが、インターネットでは、回線を切っても映像は消えないのである。
 これは陳列の概念を超えるから、陳列罪に当たらない。
 実はWEBに掲載することは「不特定又は多数の者に対する提供罪」(4項提供罪)である。

 要するに、名古屋では改正前からデータを児童ポルノとしており、

名古屋簡裁H15い01750号*10
名古屋簡裁H15い01751号*11
名古屋簡裁H15い01752号*12
名古屋簡裁H15い01753号
名古屋簡裁H15い01662号
名古屋簡裁H15い01884号
名古屋簡裁H15い01885号
法適用の平等の見地から、いまさらデータが児童ポルノではないとか、インターネットにおけるデータの配布を頒布(現行法では「提供」)ではないとかいえないのだから、本件も提供罪に他ならないということである。

 従って、原判決には法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 「ホームページに画像を掲載するということ」の現象面
(1) WEBへの掲載
 前提としてネット上に画像を掲載するというのはどういうことかを説明する。専門的知識であるから、裁判所が知らなくても恥ずかしくはない。
 しかし、ネット上の行為を犯罪として処断するからには、本件審理を通じて、裁判所が現象を理解して、判決書をみる者に説明できるようになる必要がある。裁判所がわからないままでは、事実認定も適用する法条も定まらないのだから、破棄して無罪にするしかない。
 なお、裁判所も検察官も信用できる文献として、大橋充直「ハイテク犯罪捜査入門 基礎編」(弁08号証)を引用する。大橋は札幌高検検事である。
 特に、「閲覧」しようとしてホームページが表示されるだけでも、下記のようにクライアントPCにはデータが送信され保存されていることには留意しなければならない。

大橋充直「ハイテク犯罪捜査入門 基礎編」p91
大橋P93
ウエッブ・ブラウザによる画像組立
パソコンA のウエッブ・ブラウザは,【図表5 】のように,インターネット経由でC から受信した「cHP.html」等のファイルを使って,C のホームページを画像に組み立て,これをパソコンの画面に表示する。【図表5 】と前【図表3 】とを見比べてみられたい。
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて(ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 そして、画像が画面に表示されたとき、画像データはクライアントPCのHDDに記憶されているが、画面の表示を消したとしても、インターネット接続を切断したとしても、PCを終了させたとしても、画像データは「インターネット一時ファイル」に保存されているから、いつでも再生可能である。
 裁判官の中には、ネット陳列について、クライアントがアドレスを入力すると、あたかも画像を持ったコビトがサーバーからクライアントに画像を見せに来て、画面の表示を消したり、インターネット接続を切断したり、PCを終了させたりすると、そのコビトがサーバーに画像を持ち帰ると思っている者がいるかもしれないが、それこそ事実に基づかない勝手な想像(妄想)である。

(2) WEB掲示板の構造
 インターネット上の掲示板の仕組みについても、大橋検事の著書を引用する。
大橋充直ハイテク犯罪捜査入門p95
3 児童の裸体生中継の擬律との均衡
 また、単に児童の姿態(わいせつに至らないが児童ポルノの要件を満たすもの)を街頭で展示したりテレビ生中継・インターネット生中継する行為(公然児童姿態展示行為)は、本法の法益侵害はあるけれど、直接的に罰則がない以上不可罰である。
 ネットでの児童ポルノ画像展示を陳列罪とすると、現象面では児童の姿態をテレビ生中継・インターネット生中継した場合と区別が付かず、本来不可罰である公然児童姿態展示行為との境界が不明確となる。
 実際、わいせつの場合には、インターネット生中継について、わいせつ物陳列ではなく公然わいせつとした裁判例もある(岡山地方裁判所、平成11年(わ)第524号わいせつ図画公然陳列被告事件*13)。
 生身の児童を展示した場合も含めて、児童ポルノを内容とする画像データ(有体物に化体しないもの)を送る行為については、陳列の概念を超えているのである。

4 ネット掲載行為の擬律
 陳列罪構成では、大容量のHDDが展示された場合でも、いくら多くの画像データが記憶蔵置されていても、有体物としては1個という扱いである。あとからいくら追加しても1個である。1個の物を陳列する行為はあくまで単純1罪であるから、法益侵害に応じた量刑ができない。これはネットによる即時大量伝搬性に、それ故の法益侵害危険性に鑑みると、不十分極まりない。
 これは刑法についてみれば立法の欠缺というべきであって、現状では処罰する法律がないと言わざるを得ない。
 ところが、児童ポルノ法は近年改正されて、データを提供する行為が処罰されている。

5 児童ポルノ提供罪
 改正前から名古屋簡裁では児童ポルノデータのメール送信を頒布罪としていた。メーリングリストの事例であるが、メールでもメーリングリストでも、送信メールサーバーには画像は保存されないので、「サーバーの陳列」という構成は取れない。他方、データとしての児童ポルノは受信者のメールサーバーないし受信者のPCに到達しているので、頒布罪となるのである。
名古屋簡裁H15い01750号
名古屋簡裁H15い01751号
名古屋簡裁H15い01752号
名古屋簡裁H15い01753号
名古屋簡裁H15い01662号
名古屋簡裁H15い01884号
名古屋簡裁H15い01885号
 これらは大阪高裁H15.9.18に照らせば法令適用に誤りがあることになる(大阪高裁管内では不可罰)が、ここは名古屋であってこれが名古屋の法律であるからこれに従わざるを得ない。

 改正によって現行法では、「電気通信回線を通じて二の1から3までのいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者」は、新たに「提供罪」だとされた。国法が名古屋法を追認したことになる。

 「電気通信回線を通じて」というのはインターネット利用に着目した特別の規定であることからすれば、本件のような行為は「公然陳列罪」ではなく、「提供罪」となると解すべきである。

 島戸検事によれば、相手方が利用できるようにする行為が「提供」であるから、WEBに掲載して閲覧者が閲覧するだけではなく、保存・送信できるようになれば、それは提供である。
島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08

 福岡高裁那覇支部H17.3.1*14も「提供罪」を定義している。

新法7条1項,2項,4項及び5項の「提供」とは,特定かつ少数の者に対する当該児童ポルノ等を相手方に利用しうべき状態に置く一切の行為をいい,有償・無償を問わず,必ずしも相手方が現に受領することまでは必要がないものであり,一方,旧法7条1項の「販売」とは,不特定又は多数の者に対する有償の譲渡をいうから,旧法の「販売」は,新法7条4項の「不特定若しくは多数の者に提供」したことに含まれるのであって,


6 提供罪とすべき実質的理由
 公然わいせつ罪とわいせつ物公然陳列罪の区別は、相手方(閲覧者・受領者)においてデータが再拡散しうるかどうかという点にある。
 同様に、児童ポルノの陳列と提供の分水嶺は、相手方(閲覧者・受領者)においてデータが再拡散しうるかどうかという点にある。
 法益侵害の程度が格段に違うからである。
 このことは児童ポルノ罪の各類型と法定刑を一覧すると顕著である。
 すなわち、

 陳列行為は相手方にデータが渡らないことを予定しているので、不特定多数に対する陳列行為は処罰されるが、特定少数に対する陳列行為は処罰されないこと
 データが相手方に渡る提供の場合は、再拡散の危険性に注目して、「特定少数」への提供行為も処罰されていること
 提供の場合は、画像の再拡散の危険性に注目して、不特定多数への提供は、特定少数への提供に比較して重い法定刑となっていること
 外国から輸出・外国に輸出の場合も、不特定多数に対する提供目的の場合は処罰されるが、特定少数に対する提供目的の場合は処罰されないこと

が法文からも明かである。

 このことは、同法の改正前後の規定を比較すると、さらに顕著となる。


 すなわち、旧法は、わいせつ図画罪と同様の「販売」「頒布」という用語を用いるなどして特定少数に対して拡散する行為を不可罰としていたが、現行法ではわいせつ図画罪とは決別して「提供」という類型を取り入れ、児童ポルノの害悪やネットによる拡散の危険性・広汎性に鑑みると「不特定多数」は必ずしも可罰性の要件にはなならないことを明らかにしたのである。
 他方、児童ポルノを自ら不特定多数に拡散する行為は懲役5年という重い法定刑となった。
 そこで、提供罪については特定少数への提供も処罰されることになったが、陳列罪については非公然陳列は処罰されないとされたのである。これは陳列行為によっては、相手方から再拡散することはないという立法者の認識を示す。

 だとすれば、陳列罪の結果として閲覧者から新たに拡散することはないはずであって、そのような行為(閲覧者からさらに拡散するおそれがない行為)だけが陳列罪の実行行為である。
 裏返してみると、陳列行為によって、閲覧者からさらに拡散するおそれが有るとすれば、それは、不可罰としない・懲役5年で罰するというのが法の趣旨である。
 そこで、児童ポルノを公然陳列して、閲覧者において利用可能とした場合には、不特定多数に対する提供罪と評価されるべきなのである。

 さらに、実際、本件で被告人が自ら投稿した画像は、他人がweb上で公然陳列していた児童ポルノ画像を流用したもの(web掲載している者から提供をうけたもの)であることからも、webにおける公然陳列行為によって、閲覧者から再拡散することが実証されている。これは、公然陳列罪が想定する行為ではなく、まさに、提供罪が予定するところである。

7 本件のWEB掲載行為の擬律
 本件のWEB掲載行為については、データが受信者に送信され受信されているところまでが認定されているから、原判決の認定事実は、提供罪の構成要件を満たす。
 被告人の企てに「受信して再生閲覧」とされており、実際、そうやって受信されているのである。
 インターネット閲覧者はインターネット一時ファイルに画像を記録して、それを見ているのであって、「一時ファイル」とはいうものの、削除するまで消去されないから、永続性のある電磁的記録である。

大橋P92
ウエッブ・ブラウザによる画像組立
パソコンA のウエッブ・ブラウザは,【図表5 】のように,インタいネット経由でC から受信した「cHP.html」等のファイルを使って,C のホームページを画像に組み立て,これをパソコンの画面に表示する。【図表5 】と前【図表3 】とを見比べてみられたい。
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて(ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 これは、児童ポルノが添付されたメールを受信したのと同じである。メール提供罪の場合は、受信者のPCにデータが到達しなくても、既遂となるのであるから、本件の行為はその段階よりは進んでいる。

 従ってこれは、7条4項の提供罪に他ならない。
第7条(児童ポルノ提供等)
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

8 まとめ
 原判決においてネット上の掲示板に児童ポルノ画像を掲載することを児童ポルノ公然陳列罪として擬律するという前提に誤りがあり、掲示板管理者である被告人についても児童ポルノ公然陳列罪幇助を認めたことも法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。