児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

只木誠「罪数判断は「法理」か」島大法学

 併合罪の主張は弁護人の主張を容れたものです。訴因変更無効の主張で。
 判例では牽連犯の可能性が検討されていない。

http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/metadata/28548
http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/bull/bull.pl?id=8236
3.児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪の罪数関係児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪の罪数関係につき、前掲最決平成21年7月7日は、併合罪であると判示した。
事案は、被告人は、児童ポルノ提供・同提供目的所持(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という)7条4項前段、5項前段)、わいせつ図画販売・画販売目的所持(刑法175条)の事実として、平成17年1月31日ころから同19年1月21日ころまでの間、前後16回にわたり、Cほか3名に対し、児童を相手方とする性交または性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した児童ポルノであり、かつ前同様のわいせつ図画であるDVD?R合計21枚および男女の性交場面等を露骨に撮影録画したわいせつ図画であるDVD?R合計67枚を代金合計11万2300円で売却し、もって不特定または多数の者に販売して提供した、同19年1月31日、児童を相手方とする性交または性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した児童ポルノであり、かつ前同様のわいせつ図画であるDVD?R合計20枚ならびに男女の性交場面等を露骨に撮影録画したわいせつ図画であるDVD?R合計136枚を不特定若しくは多数の者に提供または販売する目的で所持した、というものである。
不特定または多数の者に提供するともに、同目的で所持した場合には、児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪とが成立することになるが、その罪数関係が本件では問題となったのである。
これについて、最高裁は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう児童ポルノを、不特定又は多数の者に提供するとともに、不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合には、児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし、同法7条4項の児童ポルノ提供罪と同条5項の同提供目的所持罪とは併合罪の関係にあると解される」としたのであった児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪との罪数関係について、下級審判例においては、包括一罪と解したものと併合罪と解したものとがある*6。
東京高判平成15年6月4日刑集60巻5号446頁は、児童ポルノ製造罪、所持罪、販売罪は牽連犯であるという主張に対して、「児童ポルノの製造は、それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり、児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ、わいせつ物の規制と異なり、製造過程に遡ってこれを規制するものである。
この立法趣旨に照らせば、各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし、それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって、販売等の目的が共通であっても、その過程全体を牽連犯一罪として、あるいは児童毎に包括一罪として、既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない」としている。
また、大阪高判平成20年4月17日刑集62巻10号2845頁は、「前述の児童ポルノ法の立法趣旨、保護法益等に照らすと、同法が児童ポルノ等の製造、所持、提供の各行為を並列的に禁圧する規定を置いているのは、児童ポルノ等が児童の権利を侵害するなど、社会に極めて重大かつ深刻な害悪を流す特質を有するところから、その害悪の流布を防止するため、製造、所持、提供の行為如何を問わず、あらゆる角度から児童ポルノ等に関する行為を列挙してこれらを処罰の対象とする趣旨と解される。したがって、その製造、所持、提供の各行為は、別個独立の行為として、それぞれ一罪として処罰されるべきであり、しかも、これらの犯罪の通常の形態として、その性質上、必然的な手段又は当然の結果という関係にあるなどともいえないから、これらの犯罪を連続して犯したとしても、所論がいうような牽連犯ではなく、併合罪になるものと解すべきである。」としている。
最高裁決定は、両罪の関係を併合罪とする根拠として、「児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし」としているが、この判示の趣旨は今ひとつ明白ではない。
とはいえ、上記裁判例にあるように、児童ポルノが児童に対する侵害の程度が極めて重大かつ深刻な犯罪行為であるため、それを効果的に防止するためには、製造から提供に至る各段階の行為はそれぞれ独立して処罰の対象となるべきことをすでに前提としているものと推測されるのである。
児童ポルノ提供罪と同提供目的所持罪の罪数関係を検討するに当たってまず問われるべきは、児童ポルノ法に定める両罪の保護法益である。
これに関しては平成16年の改正後の同法第1条の目的規定は、「この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする」として、「児童の保護、児童の権利の擁護」を謳って、児童の権利保護の側面を打ち出しており*7、主として児童ポルノの対象となる当該児童の保護を、そして付随的には児童ポルノそれ自体の撲滅を指向しているように見受けられる*8。
児童ポルノ提供罪の保護法益をこのように第一次的に児童の権利であると解した場合、児童ポルノの各行為類型ごとに段階的に処罰の対象は考えられているとしても、それらの行為の禁圧を通して結局のところ当該児童の保護を図るということが児童ポルノ法の趣旨であるとすれば、両罪によって被害児童の一個の権利侵害という不法が量的に増加したに過ぎないとして、包括一罪説を採ることは、なるほど不可能とまではいえない。
たとえば、盗品等関与罪の各罪については、狭義の包括一罪とされているのである。
しかし、本罪の保護法益について、同じく当該児童の権利という個人的法益として捉え、かつ、その上で、児童ポルノの製造、所持、提供の個別の行為によって、児童を被写体とした児童ポルノの製造による性的虐待やこれを提供することによる児童の非一身的な権利の侵害の拡大など、それぞれの行為ごとを禁圧の対象とし、それぞれに独立した不法を観念し、それぞれの行為を独立して評価すべきであると解すれば、両罪の関係は併合罪と解さざるを得ないと思われる