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佐久間教授は個人的法益一元説を批判される。
実践的刑法講座「国民の生活環境に対する罪ーわいせつ犯罪を中心として(1)」警察学論集 ’05.09.10
そもそも、児童ポルノの規制が、その規定ぶりから、刑法175条と同じく性的風俗に対する罪と推測される以上、もっぱら個人的法益に対する罪とみるならば、そのための積極的な根拠が必要となるであろう。しかし、暴力などの強制的手段を用いてポルノ製造に協力させた場合は格別、被写体となった児童の姿態が視覚的に認識されることが、ただちに当該児童の個人的利益を侵害するわけではない。
したがって、本罪の罪数や可罰性の評価にあっても、たまたま被写体となった児童の数に拘束されないであろう
学説はともかく、実務家としてはこんな控訴趣意書を書いたら、高裁で撃沈されますね。
公刊されている裁判例が乏しいところでそれしか見ていないとこうなるのもやむを得ないか。集めようにも集まらないと思いますが。
横浜地裁H15.12.15
(犯罪事実)被告人は,・・・・
もって,上記児童ポルノをインターネットに接続したコンピュータを有する不特定多数の者に閲覧可能な状況を設定し,上記日時ころ,上記児童ポルノ画像データにアクセスしたAほか不特定多数の者に対し,上記画像データを送信して再生閲覧させ,児童ポルノを公然と陳列した。
(法令の適用)
1 罰条 被害者ごと(画像が複数ある被害者については,その複数は包括して)に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項
2 科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(一罪として,犯情の最も重い別紙一覧表番号1の被害者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪の刑で処断)
大人でも公然と裸体写真をさらされたら名誉毀損罪じゃないですか。「被写体となった者の姿態が視覚的に認識されることが、ただちに当該個人の個人的利益を侵害するわけではない。」なんて言えないですよね。(次の控訴理由で佐久間説を紹介します。)
佐久間教授が法文を根拠としてこのように誤解されるのも、刑法175の体裁を借用したという立法ミスによるもので無理もないと思います。
実際には個人的法益に対するいかなる罪も個人的法益+社会的法益であってどっちを重視するかの問題であるし、児童ポルノ各罪によって重点が違うというべきだと考えます。
もっとも 明解さと弁護士的には個人的法益一元説。
折衷説多元説は、実務では使いにくい。
なお、佐久間説でもわいせつ画像のメール送信は販売にはならないようですね。
実践的刑法講座「国民の生活環境に対する罪ーわいせつ犯罪を中心として(1)」警察学論集 ’05.09.10
大阪高裁が、不特定多数人に対し児童ポルノ画像を送信した場合には、有体物である電磁的記録の販売にあたらないとした点は、電子メールシステムを利用したわいせつ物の頒布と同様の問題を含んでいる。すなわち、現行法7条l項は、旧規定の頒布・販売・業としての貸与・公然陳列の文言に変えて、児童ポルノの「提供」と表現したものの、上記サーバコンピュータに記録・蔵置された画像データが、インターネット利用者のダウンロードによっても何ら変化しない以上、占有の移転を伴う場合はもちろん、公然陳列にも該当しない提供の方法がある点に配慮したと考えられる。そこで、2条1項の後段で、電子メールなどを利用した電磁的記録等提供罪の類型を、新たに挿入したのであろう。