児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「児童ポルノ単純所持処罰」規定の創設について 〜現行法の構造上、どう位置づけることができるか?

昔書いた原稿を今風に直してみました。

児童ポルノ単純所持処罰」規定の創設について 〜現行法の構造上、どう位置づけることができるか?
1 現行法は、提供陳列等を頂点とする児童ポルノの流通を阻止しようとするものである。
(1) 現行法の構造
 目的犯の目的を手掛りに、児童ポルノ各罪を分析すると、児童ポルノの各罪は次のような構造である。

1製造目的人身売買等
=製造の前段階としての人身売買を処罰するもの
2提供・公然陳列目的製造・所持・運搬等
=提供・公然陳列の準備行為
3姿態とらせて製造
=不意に流通する危険に着目したものである。
4提供・公然陳列
=目的のいかんを問わず、提供・公然陳列行為そのもの(以下「販売等」という。)を直接禁止するもの。相手方が特定少数の場合よりも不特定多数である場合には加重される

 法は、児童ポルノの流通過程に分けて、同種の行為類型として、禁止する行為をグループ分けしているのである。
 つまり、児童ポルノ法の究極の目的は、提供・公然陳列行為の禁止にあり、そのために、その前段階としての製造・所持・運搬が禁止され、さらに製造・所持・運搬の禁止をはかるためにその前段階の人身売買が禁止されていることは明白である。
 言い換えれば、法は提供・公然陳列行為による法益侵害(本丸部分)を最も重視し、その前段階の行為(内堀部分および外堀部分)まで厳重に禁止しているのである。

 このように、
1 製造目的人身売買等
2 3項製造
3 提供公然陳列目的製造・所持・運搬等
4 提供・公然陳列
の4類型は一体となって、児童ポルノの流通を禁圧して、児童ポルノ法の目的=法益保護を目指しているのである。

(2) 他の目的犯との比較
 ちょうど、通貨偽造に関する罪の場合、行使の目的が構成要件とされていていることから「行使」を防止することが法の最終目的であり、そのために、その数段前段階の行為を禁止しており、それゆえ、行使罪も偽造罪も準備罪も同じ保護法益であるのと同様である。行使は対人的行為であるから、詐欺罪同様に個人的法益だと言う者はいない。この結論は各種偽造罪の場合でも共通である。
 このように目的犯とその目的たる行為とは密接な関係がある。

 しかも、刑法であれば、国家的法益・社会的法益・個人的法益について各種の罪が列挙されているからある罪が社会的法益か個人的法益か微妙な場合もあろうが、児童ポルノの罪は、児童買春・児童ポルノ法という特別法に、

旧法第1条(目的)
この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利の擁護に資することを目的とする。

現行法第1条(目的)
この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

という極めて限定された特別の目的を目指して、児童買春罪と並べて規定されているのであるから、上記4類型の関連性はきわめて密接である。

(3)改正刑法草案わいせつ文書の罪との比較
 このことは改正刑法草案をみても明かである。
 実は、旧児童ポルノ法7条の規定は、改正刑法草案247条と酷似している。改正刑法草案の規定を先取りしたものであることはあきらかである。丸写しといってもよい。

改正刑法草案
第247条(わいせつ文書の頒布等−刑一七五)
(1)わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然展示した者は、二年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(2)前項の行為に供する目的で、わいせつな文書、図画その他の物を製造し、所持し、運搬し、輸入し、又は輸出した者も、前項と同じである。

児童ポルノ
第7条(児童ポルノ頒布等)
児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

 ここで、わいせつ文書製造罪等の創設について「改正刑法草案の解説」P259では

わいせつ物の頒布等について処罰規定を残す以上は、その内容を合理的なものとする必要があること、製造・運搬・輸入・輸出は、販売等の前段階の行為として所持と同等に評価することが出来る

と説明されている。
 このような規定方法からして、保護法益にかかわらず、数段階の準備段階からわいせつ文書ないし児童ポルノの流通を禁止しようとするものであることは明らかなのである。

(4) まとめ
 結局、現行の所持罪は、提供・陳列を目的とする流通危険がある所持行為のみを処罰するものである。
 譲渡等を目的とする場合は処罰しない趣旨である。

2 保護法益との関係
 ある法益保護のために、どのような行為に対して、どのような刑罰を科すかは立法問題であって法律問題ではない。
 児童ポルノの保護法益について、描写された者の権利(個人的法益)ととらえようが、社会的風潮(社会的法益)ととらえようが、その法益保護の手段としては、所持行為については、不特定または多数者に対する譲渡・貸与・陳列を目的とする所持行為のみを処罰するというのが現行法の姿勢である。
 従って法益のとらえ方との直接的関係はない。
 しかし、いかなる法益であるにせよ保護法益の重大性・保護の必要性によっては、単純所持・送信を処罰する必要性について影響を与えることはありうる。

3 単純所持罪の位置付け
 単純所持罪の構成要件は明らかにする者がいないので不明であるが、一応、「単純所持=販売等を目的としない所持」であるとの理解で論を進める。
 上記の分析によれば、現行法の児童ポルノの罪は、児童ポルノの流通に関するものであり、現行所持罪も流通の一過程・販売等の準備行為であることから処罰されるものである。
 ところが、単純所持は、流通には関係しない(未必的にでも流通の危険があるのであれば、現行法の1項提供罪で処罰できる)・提供・陳列等の準備ではない点で、現行法の児童ポルノ関係の罪とは全く異質である。

 法益侵害の点では、単純所持行為よりも譲受行為の方が、児童ポルノを拡散させる点で法益侵害の程度が重いにもかかわらず、単純所持は許されないが、譲受は許されるというのは一貫性に欠ける。

4 立法論の道筋
 翻って考えると、ある物を規制する場合には、営業としての流通を規制する方法(わいせつ図画等)と、目的を問わず流通を厳格に規制する方法(覚せい剤サリン等)の2通りに大別できるのではなかろうか。実際には無限の規制方法がある。各種取締法の罰則を眺めればわかることだが、たとえば覚せい剤についてはそれに関与するあらゆる行為が細かく規制されているといっていい。
 そして、規制目的の物についてどのような手段で規制するのかは、立法目的、保護法益、取締りの必要性を考慮して立法において判断されるのである。
 児童ポルノについては、制定当初はわいせつ図画と同様に、営業としての流通を規制する方法が採用されたことは間違いない。それは立法者が保護法益が違う刑法175条を真似たという立法ミスでったが、改正法により是正され、個人的法益を重視して、有償性をとわずに画像を拡散する行為が処罰されるに至っている。
 この流れで立法の方向を占うならば、薬物犯罪並に児童ポルノの流通に関わる行為を細かく取り上げて個別の構成要件を設けることになるであろう。その中で、児童ポルノの害悪を強調して単純所持行為の流通危険性を強調すれば処罰することも可能であろう。
 ただ、児童ポルノ提供・陳列行為は回数・被害児童数にかかわらず包括一罪だという裁判例(提供行為による権利侵害を重視しない)が多数派であり、撮影行為も気づかなければ処罰されない(盗撮行為は被害児童が気づかないから製造罪にあたらない〜島戸「児童買春(かいしゅん),児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08)という解釈が支配的であることを考えると、現行法の趣旨のさらなる徹底(個人的法益重視)をはかることが大前提となるであろう。