児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

数回の児童ポルノ公然陳列罪の罪数処理

 植村部長の包括一罪説がなかなか修正できませんでしたが、最近併合罪説の高裁判例が大阪高裁r03、東京高裁r04で出て、併合罪に修正されそうです。
 併合罪加重されると、懲役は最高7年6月 罰金が500万×罪数になります。

7条6項
児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。


併合罪

特別法を巡る諸問題 大阪刑事実務研究会 児童ポルノ法(製造罪,罪数)
雑誌記事 武田 正, 池田 知史
掲載誌 判例タイムズ1432:2017.3 p.35-
第10 児童ポルノの公然陳列
1機会の複数
陳列の機会が複数の場合に,包括一罪とすることも考えられる64)。
しかし,前記児童ポルノの提供と同様に,日時や方法が異なる陳列は,通常,行為が別で,犯意も別と評価すべきであるほか,全く同じ被害児童の児童ポルノを陳列する訳でもなく,陳列行為ごとに当該被害児童に児童ポルノを流通に置かれて心身に悪影響を与えられた新たな法益侵害が生じていることなどから,多くの場合は数罪となり併合罪とするのが相当である。
64)包括一罪とした例に,大阪高判平成l5年9月l8日裁判所ウェブサイト掲載。複数回かは判決文上必ずしも明らかでないが一定期間に合計16画像を送信して記憶蔵置させた行為を包括一罪とした例に,名古屋地判平成18年1月l6日情報ネットワーク・ローレビュー7号43頁掲載の第1.
65)被害児童が複数かなどは不明であるが,画像データが複数の場合で単純一罪とした例に,東京地判平成l5年IO月23日裁判所ウェブサイト掲載。なお,複数の児童ポルノ画像データがサーバコンピュータ上に記憶。蔵置されていたことを利用して,識別番号(URL)をホームページ上で明らかにすることで公然陳列した場合に,単純一罪とした例に,大阪地判平成21年1月l6日公刊物未掲載(最決平成24年7月9日判タl383号l54頁の第1審)。

静岡地裁浜松支部R03.11.25

東京高裁裁判所R04.03.24

阪高裁r03.3.10*19(原審京都地裁r2.9.18*20)
(2)公然陳列の罪数に関する所論について
 ア 所論〔主任弁護人〕は,原判決は原判示第1の児童ポルノ公然陳列罪と原判示第2の児童ポルノ公然陳列罪とを併合罪としているが,被告人のこれらの行為は,令和年月6日から同年月22日にかけて,自宅で,反復して児童の裸体画像を公然陳列するところにあり,しかも,陳列したのは1個のサーバコンピュータであり,公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まると解するべきであるから,公然陳列行為は1個の行為であって単純一罪ないし包括一罪と評価されるべきであり(1個の公然陳列行為によって,わいせつ物公然陳列罪と児童ポルノ公然陳列罪を充たすので,両罪の観念的競合となる。),原判決には法令適用の誤りがある旨主張する。
 イ この点,原判決は,法令適用の罰条において「判示第1の1の所為のうち,児童ポルノ公然陳列の点及び判示第2の所為につき,各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ法7条6項前段(2条3項2号,3号)に該当する」としているところ,児童ポルノ法は,児童を性欲の対象とする風潮を防止するという面で児童一般を保護する目的がある一方で,同法1条の目的規定や各個別規定による児童ポルノ規制のあり方に照らすと,当該児童ポルノに描写された個別児童の権利保護をも目的としていると解される。そうすると,被害児童ごとに法益を別個独立に評価して各画像データごとにそれぞれ児童ポルノ公然陳列罪の成立を認めている原判決の罰条適用は正当なものである。所論は(児童ポルノ)公然陳列行為の個数はサーバの個数で決まるというが,同罪の個人的法益に対する罪としての性格を軽視するものであって賛同できない。
 その上で,原判決は「判示第1の1の所為は,1個の行為が10個の罪名(わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の包括一罪と9個の児童ポルノ公然陳列)に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により,判示第1の2のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列を含め,1罪として刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑で処断する」と科刑上一罪の処理をしているところ,これは,複数のわいせつ電磁的記録記録媒体陳列は,社会的法益に対する罪である同罪の罪質に照らし,同一の意思のもとに行われる限り包括一罪として処断され,さらに,児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列したときは,児童ポルノ公然陳列罪とわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪との観念的競合になることから,結局,原判示第1の各罪を包括一罪(刑及び犯情の最も重い別表1番号4の画像についての児童ポルノ公然陳列の罪の刑)で処断したものと考えられるのであり,そのような原判決の法令適用に誤りはない。
 ウ もっとも,そのように包括一罪とされる原判示第1のうちの同2のわいせつ電磁的記録記録媒体の公然陳列行為と,原判示第2の児童ポルノの公然陳列行為とは,同じ日の僅か4分の間に続けて行われたものであるから,これらをも包括一罪とする考えもあり得るところで,現に原審検察官の起訴はそのようなものであったが,しかし,児童ポルノ公然陳列罪の個人的法益に対する罪としての性格を重視し,あえてそのような処理をせず,原判示第1の罪と原判示第2の罪とを併合罪の関係にあるとした原判決の法令適用に誤りがあるとはいえない。
 公然陳列の罪数に関する所論も採用できない。
 論旨は理由がない。

 包括一罪説

①東京高裁h16.6.23*8(一審 横浜地裁h15.12.15*9)
 数名の児童の姿態であって、数回の陳列行為がある事件である。
1審は、児童ごとに1罪とした。
横浜地裁h15.12.15
(法令の適用)
1 罰条  被害者ごと(画像が複数ある被害者については,その複数は包括して)に,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項
2 科刑上一罪の処理  刑法54条1項前段,10条(一罪として,犯情の最も重い別紙一覧表番号1の被害者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪の刑で処断)

 控訴審(植村立郎裁判長)は、犯意も行為も複数あるにもかかわらず、被害児童1名1罪とした原判決を修正して、「被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎない」と明確に判示している。
東京高裁h16.6.23
2所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。
犯意が異なろうが、被害者が異なろうが、サーバーが一個であれば、一罪だというのが植村説。

②大阪高裁h15.9.18*10 (一審 奈良地裁h14.11.26*11)
 3回のダウンロード販売を「販売罪」とした原判決を破棄して「公然陳列罪」にした際、包括一罪とした。
阪高裁h15.9.18
(法令の適用)
第1の所為 児童買春児童ポルノ禁止法4条
第2の所為 包括して同法7条1項
児童買春児童ポルノ禁止法2条3項の各号に重複して該当する画像データがあることは所論指摘のとおりであるものの,検察官においてそれらの重複するものについてはより法益侵害の程度の強い先順位の号数に該当する児童ポルノとして公訴事実に掲げていることは明らかであって,包括一罪とされる本件において,それぞれの画像データが上記各号の児童ポルノのいずれに該当するかを個々的に特定する必要もない

名古屋高裁h23.8.3*12(一審 津地裁h23.3.23*13)
 被害者数名の場合でも、包括一罪と判示されている。
名古屋高裁h23.8.3
4 控訴理由④について
 論旨は,本件各画像の被写体となっている児童は3名であるから,本件は児童ポルノ公然陳列罪3罪の併合罪とされるべきであるにもかかわらず,これらを混然と1罪とした本件起訴状は訴因の特定を欠くものであって,この不備を補正させることなく,また公訴を棄却せずに実体判決をした原審の訴訟手続には法令違反があり,さらに,本件を1罪とした原判決には法令適用の誤りがある,というのである。
 しかしながら,本件犯行は,児童3名が1名ずつ撮影された本件各画像(4点の画像のうち2点は同一の児童が撮影されたものと認められる。)のデータを,約5分間の間に,インターネットのサーバコンピュータに記憶,蔵置させた上,本件各画像の所在を特定する識別番号(URL)をインターネットの掲示板内に掲示して児童ポルノを公然と陳列したというものであり,本件各画像が上記掲示板内の「JS・ロリ画像①」と題する同一カテゴリ内に掲示されているなど,各陳列行為の間に密接な関係が認められることからすれば,各児童に係る児童ポルノ公然陳列罪の包括一罪であると解するのが相当である。
したがって,本件起訴状は訴因の特定を欠くものではないから,原審の訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。なお,原判決は本件を単純―罪と判断したものと解されるが,処断刑期の範囲が包括一罪と同一であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはないというべきである。

(3)地裁裁判例
東京地裁h151023*14
⑤大阪地裁h210116*15
奈良地裁葛城支部h261112*16
横浜地裁h290516*17
⑧立川支部H280315*18
罪となるべき事実)
 第1 被告人は,被害者に性交類似行為をさせる姿態を撮影した静止画像データ1点及び同人が衣服の全部又は一部を着けず陰部等を露出させる姿態を撮影した静止画像データ12点(合計13点)を所持していたものであるが,同人が前記各静止画像撮影当時18歳に満たない児童であったことを知りながら,不特定多数のインターネット利用者に前記静止画像合計13点の閲覧が可能な状態を設定しようと考え,
平成25年7月22日から同年10月6日までの間に,大阪府内,京都府内若しくは東京都内又はその周辺において,インターネット上のアダルトサイト「○○」(http://〈省略〉)のアカウント●●●を介し,前記「○○」の運営者が使用するサーバーコンピュータのハードディスクに前記静止画像データ合計13点を記録,保存させた上,不特定多数のインターネット利用者が閲覧できる設定にし,
同年10月6日午後6時14分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Twitter」のアカウント●●●のタイムラインに,前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
同日午後6時19分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の交流サイト「Facebook」のアカウント●●●のウォールに,「そりゃあこんな爆弾抱えてちゃ気が気じゃないもんね。被害者さん。借りを返すよ。それにしても危険人物って...」との文言と共に前記●●●のタイムライン上の前記投稿を特定する識別番号●●●を投稿し,同月8日午後6時29分頃,同都内において,サーバーコンピュータのハードディスクを使用して運営されているインターネット上の掲示板「△△掲示板」に,携帯電話から,「被害者。無差別ではないです。恨みがありました。」との文言と共に前記静止画像データ合計13点の所在を特定する識別番号●●●を投稿し,
もって児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態,あるいは衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した
罰条
  判示第1の行為のうち
   児童ポルノ公然陳列の点       包括して平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項前段,2条3項1号,3号
   わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の点 包括して刑法175条1項前段