児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

元生徒との淫行について真剣交際の主張をした事例(懲戒免職処分取消請求事件熊本地方裁判所令和4年10月19日)

元生徒との淫行について真剣交際の主張をした事例(懲戒免職処分取消請求事件熊本地方裁判所令和4年10月19日)
 青少年は、警察で淫行の事実を供述したり嘆願書を書いたりしていますが、警察の取調に応じなければ捜査はそれで終わったと思います。「私からも真剣交際だって説明するから」といって取調に応じると、淫行の事実関係を聞かれて、交際状況を聞かれないことがよくあります。

熊本地方裁判所
令和3年(行ウ)第2号 懲戒免職処分取消請求事件(以下「第1事件」という。)
令和3年(行ウ)第13号 退職手当支給制限処分取消請求事件(以下「第2事件」という。)
令和4年10月19日民事第2部判決
       主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由

第1 請求の趣旨
1 第1事件
 熊本県教育委員会が、原告に対し、令和元年9月3日付けで行った懲戒免職処分を取り消す。
2 第2事件
 熊本県教育委員会が、原告に対し、令和元年9月3日付けで行った退職手当支給制限処分を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、教員として熊本県立八代高等学校(以下「本件高校」という。)に勤務していたところ、本件高校に在籍していた女子生徒(以下「本件生徒」という。)と性行為等を行ったことなどを理由として、熊本県教育委員会から、懲戒免職処分(以下「本件処分1」という。)及び退職手当支給制限処分(以下「本件処分2」といい、本件処分1と併せて「本件各処分」という。)を受けたことについて、本件各処分にはいずれも裁量権の逸脱濫用があるなどと主張して、本件処分1の取消し(第1事件)及び本件処分2の取消し(第2事件)をそれぞれ求める取消訴訟である。
1 関係法令、熊本県職員等退職手当支給条例(以下「本件条例」という。)、熊本県教育委員会における懲戒処分の指針(以下「本件指針」という。)及び退職手当の支給制限等の運用(以下「本件運用」という。)について
 別紙2関係法令等の定めのとおり
2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)原告及び本件生徒について
ア 原告は、平成11年4月1日に熊本県の公立学校職員として採用され(争いなし)、平成21年4月から平成31年3月までは本件高校において、平成31年4月から令和元年9月3日までは熊本県立東稜高等学校(以下「東稜高校」という。)において、いずれも教員として勤務しており(弁論の全趣旨)、本件各処分がなされた令和元年9月3日当時の年齢は43歳である(弁論の全趣旨)。原告は、本件高校に勤務して本件生徒との関わり合いが生じた平成30年ないし平成31年当時、妻子を有していたが(争いなし)、令和元年7月4日に離婚した(乙10の2・8頁)。
 なお、現在、原告は、姓を変更し、関東の会社で勤務している(原告本人・20頁)。
イ 本件生徒は、原告が平成30年及び平成31年に本件高校で勤務していた際に、本件高校に在籍していた当時16歳(高校1年生)の女子生徒であり(弁論の全趣旨)、原告の担当していた生物の授業を受講していた(争いなし)。
 なお、本件口頭弁論の終結時において、本件生徒と原告は交際関係を解消しており、別々に暮らしている(原告本人・12、13、19、20頁)。
(2)本件各処分に至るまでの経緯
ア 教職員による申合せ事項及び原告による署名押印
 熊本県教育長は、各県立学校の校長等に対し、教職員による児童生徒に対するわいせつ行為等を防止するため、平成31年3月14日付け教人第1702号通知(以下「1702号通知」という。)を発出した。熊本県教育長は、1702号通知において、児童生徒に対するわいせつ行為等に対する処分の事案のほとんどは、教職員が児童生徒とSNS等でつながり、私的なやり取りを始めたことが発端になっているため、教職員に対し、「児童(生徒)との連絡における教職員の適切な対応に関する申し合わせ事項」と題する別紙様式に従い、〔1〕児童(生徒)との私的なメール等のやり取りを行わないこと、〔2〕業務上、児童(生徒)とメール等を通じて直接的な連絡等が必要な場合は、校長に申請し、保護者の承認を得ることを内容とした申合せ(以下「本件申合せ」という。)を同様式に教職員が署名及び押印をして書面で行うとともに、本件申合せに反する事実等が明らかになった場合には、懲戒処分等による厳正な対処もあり得ることを確認することを求めた。(乙1)
 原告は、本件高校(平成30年度)及び東稜高校(平成31年度)において、本件申合せ所定の様式の書面にそれぞれ署名及び押印をした(乙2、3)。
イ 原告と本件生徒との関わり合いの契機
 原告は、平成30年4月、熊本県八代市内で行われていたイベントの会場に部活動の引率者として部員の生徒に赴いた際、同会場を訪れていた本件生徒と会話をしたことをきっかけとして、本件高校内でも会話をするようになった。本件生徒は、同年の1学期頃、日頃から原告に対して「好き。」、「結婚して。」等の言葉を発しており、肩を叩く、腕を組むといったスキンシップを自ら行っていた。原告は、同年11月頃から、本件生徒に対し、異性としての魅力を感じるようになっていった。(争いなし)
ウ 原告と本件生徒との私的な付き合いの開始
 原告は、緊急連絡先として、担任をしているクラスや部活動の生徒に自身の電話番号を教えていたところ、同年12月頃から、原告の携帯電話に本件生徒からのメールが届くようになり、メールでのやり取りをするようになった。同メールには、キスなどの性的な内容も含まれていた。(争いなし)
 原告は、本件生徒からメールでデートに連れて行くように求められていたところ、同月29日、自家用車で本件生徒と二人で八代宮に出かけ、30分程度話しながら散歩した。その後、原告は、本件生徒を自宅まで送迎したが、本件生徒から「もう終わり?」と言われたため、30分から1時間程度の間、インターネットカフェ・漫画喫茶に二人で滞在した。帰り際、原告は本件生徒に対してキスをしようとしたが、拒否された。(争いなし)
 また、本件生徒は、平成31年1月10日以前から不登校気味であったが、同日、スクールソーシャルワーカーと面談するために登校し、面談後、原告に対して登校したことを報告するために生物準備室を訪れた。その際、原告は、本件生徒に対してキスをしようとしたが、拒否された。(争いなし)
エ 本件高校による原告への厳重注意等
 本件生徒の担任が同月16日に本件生徒宅に家庭訪問をしたところ、本件生徒から「原告と付き合っている。」という趣旨の発言があったため(乙14・4頁)、本件高校の副校長は、原告に対し、同月28日、事実確認を行った。原告は、本件生徒とメール等でやり取りしていたこと、八代宮等に本件生徒と二人で行ったこと、本件生徒にキスをしようとしたが拒否されたことなどを認め、同月30日付けで、本件高校の校長宛てに、顛末書(以下「本件顛末書〔1〕」という。)を提出した(本件顛末書〔1〕については乙12、その余は争いなし)。
 本件高校側は、同年2月7日、事実確認を受けて本件生徒の保護者に対して説明及び謝罪をしたが、その際、本件生徒の保護者が原告の同席を望まなかったため、原告は同席しなかった(争いなし)。
 本件高校の校長は、原告に対し、同月8日、本件生徒の保護者に本件高校側から説明及び謝罪したことを伝え、原告に厳重注意をするとともに、本件生徒とは連絡を取らないように指導した(争いなし)。以後、原告は、同年3月末まで本件生徒からのメール等に返信をしなかったが(争いなし)、本件生徒は今までと変わらず、原告が在室していた生物準備室等に訪れていた(弁論の全趣旨)。
オ 原告と本件生徒とが性的関係をもった経緯
 原告は、定期異動で東稜高校への転勤が決まったところ、同年3月末、上記転勤の事実を知った本件生徒から、原告に対して電話があったため、原告はその電話に応じた。また、原告と本件生徒は、同年4月頃、メール等でのやり取りを再開し、そのやり取りの中で、互いに好きだという気持ちを確認し、将来のことも話すようになった。さらに、原告は、本件生徒と二人で、令和元年5月6日、午後3時頃から2時間程度、インターネットカフェ・漫画喫茶に出かけ、本件生徒に化学を教えるなどした。(争いなし)
 原告は、同月13日、本件生徒と二人で会い、人目を気にしないでいい場所はないかという話になった際に、本件生徒が「ホテルは?」と言ったため、当初は躊躇したものの、本件生徒と二人でホテルへ行き、2時間程度滞在する中で、本件生徒と抱き合ったり、キスをしたりした。また、原告と本件生徒は、翌14日も、午後7時頃からホテルへ二人で向かい、1時間程度滞在し、抱き合ったりキスをしたりした。(争いなし)
 また、原告と本件生徒は、同月19日、二人で会ったところ、本件生徒が原告に対して性行為をしたいと述べたため、原告は、性行為をする目的で本件生徒とホテルに行き、ホテルに入室後、性行為に及んだ。原告と本件生徒は、同ホテルに3時間程度滞在した後、同ホテルの近くにあるゲームセンターに二人で入店し、午後4時頃まで約1時間ゲームをした。(争いなし)
 さらに、原告と本件生徒は、同年6月8日又は9日の午後、性交為をする目的でホテルに行き、同ホテルに3時間滞在し、性行為に及んだ(争いなし)。
カ 所属校による原告への聞き取り〔1〕
 本件生徒の担当教員(担任)は、本件生徒の母親からの相談を受けたため、同月18日、本件生徒との面談を実施したところ、原告と本件生徒が交際していることが発覚し、翌19日には、本件生徒が、本件生徒の担任に対し、原告と性的関係があったことを話した(乙15・1、2頁)。
 本件高校の校長は、本件生徒の担任からの報告を受け、原告の当時の所属校である東稜高校に対して、原告への事実確認の依頼を行ったため、東稜高校の校長、副校長及び教頭は、同月20日、原告に対する聞き取りを実施したところ、原告は、今年度になってから本件生徒とメール等のやり取りはしていないし、会ってもいない旨の申告を行った(原告に対する聞き取りがあったこと及びその際原告が述べた申告内容については争いがなく、その余は乙9・1頁)。
キ 原告が熊本県八代警察署へ出頭した経緯等
 本件生徒の母親は、同月21日、本件生徒の担任らと熊本県八代警察署を訪れて今後の対応について相談、協議をした(乙15・4頁)。原告は、同月25日、本件生徒宅を訪ね、本件生徒の母親に対し、今回の件で大変迷惑をかけていること、財産分与が片付けば妻とは別れる予定であること、本件生徒とは真剣な交際であり、本件生徒が望めば結婚を考えていること、本件生徒が本件高校を卒業するまでは会わないこと、今年度末には教職を辞するつもりであること、本件生徒とは性的な関係はないことを述べた。その後、原告は、自ら、熊本県八代警察署へ赴き、本件の事情を説明したが、本件生徒との性行為は否定した。(争いなし)
ク 所属校による原告への聞き取り〔2〕
 東稜高校の校長及び副校長が、同月26日に原告からの聞き取りを実施したところ、原告は、同月20日の聞き取りで虚偽の報告をしていたことを謝罪し、令和元年度に入ってから本件生徒と連絡を取っていたこと及び本件生徒と会っていたことは認めたが、本件生徒と性行為をしたことは認めなかった(争いなし)。
ケ 所属校による原告への聞き取り〔3〕
 原告は、同年7月12日、東稜高校の校長、副校長及び教頭からの聞き取りを受けた際、本件生徒とそれまでに2回の性行為があったことを認め、同月16日、東稜高校の校長宛てに、顛末書(以下「本件顛末書〔2〕」という。)を提出した(本件顛末書〔2〕については乙13、その余は争いなし)。
コ 処分行政庁の担当者による聞き取り
 原告は、同月30日及び同年8月1日、熊本県庁において、処分行政庁の担当者であるA(以下「証人A」という。)らによる聞き取りを受け、本件における原告の行為について再度確認を受けた(争いなし)。
(3)原告への刑事処分等について
 原告は、同年○月○日、熊本県青少年保護育成条例違反の容疑で逮捕され、かかる事実が、原告の氏名及び所属高校名と共に、B新聞、C新聞及びD新聞で報道されたものの、同月7日付けで本件生徒からの嘆願書が提出されるなどし、同月12日、原告は処分保留で釈放され、同月19日、熊本地方検察庁の検察官は、原告を不起訴処分とした(新聞報道については乙4、嘆願書については甲5、その余は争いなし)。

(4)本件各処分について
ア 本件処分1
 熊本県教育委員会は、原告に対し、令和元年9月3日、地方公務員法29条1項各号の規定により懲戒処分として免職する処分を行った(本件処分1。甲1)。本件処分1に関する処分事由説明書(以下「本件処分1事由説明書」という。)には、要旨、〔1〕原告が、平成30年12月及び平成31年1月、本件生徒に対しキスをしようとし、また、令和元年5月から同年6月にかけて、本件生徒と二人でホテルに4回行き、うち2回は本件生徒と抱き合ったりキスをしたりし、うち2回は性行為をしたものであり(以下「本件行為〔1〕」という。)、このことは地方公務員法33条に違反する極めて重大な信用失墜行為であったこと、〔2〕また、原告は、本件行為〔1〕を行っていたにもかかわらず、東稜高校管理職に対して本件生徒との関係を否定するなどの虚偽の報告をしたこと(以下「本件行為〔2〕」という。)、〔3〕さらに、本件高校において、同高校の管理職から禁止されていた本件生徒との連絡を継続していたこと(以下「本件行為〔3〕」という。)は、1702号通知における申合せ事項に違反した行為であって、職務命令に背く行為であり、これらのことは、教員に要求される高度の倫理に反し、熊本県教育に対する社会の期待と信頼を著しく裏切ったものであり、全体の奉仕者としてふさわしくない非行であった、との理由が記載されていた。これらのほかに、審査請求及び取消訴訟の教示が記載されている。(甲2)
 令和△年△月△日、本件処分1が行われたことが、B新聞、C新聞、E新聞、D新聞及びF新聞で報道され、これに加えて、C新聞においては原告の氏名及びその所属校名が、D新聞においては原告の氏名がそれぞれ報道された(乙5)。