児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童福祉法60条4項の「児童を使用する者」「過失がないとき」

児童福祉法60条4項の「児童を使用する者」「過失がないとき」
 戸籍謄本を確認しろと言ってみたり、戸籍謄本を軽信してはいけないと言ってみたり

児童福祉法第六〇条[禁止行為違反罪]
① 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
②第三十四条第一項第一号から第五号まで又は第七号から第九号までの規定に違反した者は、三年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
③第三十四条第二項の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
④児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、前三項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

①東京高裁h7.5.31*1
裁判年月日 平成 7年 5月31日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平7(う)219号
事件名 児童福祉法違反被告事件
上訴等 上告〈上告棄却〉 文献番号 1995WLJPCA05310009
 ところで、児童福祉法六〇条三項の「児童を使用する者」とは、当該児童との間に継続的な雇用関係ないし身分関係にある者に限られず、広く当該児童との間に、社会通念上その年齢確認を義務づけることが相当として是認されるだけの継続的な支配従属関係があると認められる者、いいかえると、その者が当該児童に心理的ないし経済的な影響を及ぼすことにより当該児童の意思決定を左右しうる立場にあると認められるような関係を有する者も含まれると解すべきである。

②東京高裁s40.1.19*2
そして、法が使用者にこのような義務と責任を課したのは、その者が児童と密接な社会的関係にあつて当該児童の健全なる育成を担うに相応しい地位を有するからにほかならない。従つて前記条項にいわゆる「児童を使用する者」とは、これを必らずしも児童と継続的雇傭関係にある者のみに限定すべきではないけれども、少なくとも、児童に前記法禁行為をさせぬよう特にその年令の確認を義務づけることが社会通念上相当と認められる程度の密接な結びつきを当該児童との間に有する者に限定すべきであつて、所論のように、これを広く「児童の行為を利用し得る地位にある者」一般、殊に児童との社会的関係が比較的薄い者にまで拡張することは相当でない。

③大阪高裁S31.2.21*3
裁判年月日 昭和31年 2月21日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 昭30(う)1339号
事件名 児童福祉法違反被告事件
文献番号 1956WLJPCA02210009
 児童福祉法第六十条第三項は、児童と特別の身分関係ある者に児童の年齢を知るべき義務を負わせる趣旨であるから、同項にいわゆる「児童を使用する者」というのは、児童と雇傭契約関係にある者に限らず、児童との身分的若しくは組織的関連において児童の行為を利用し得る地位にある者を指称すると解するべきである。しかして、被告人と本件児童との関係は、前記の証拠により、被告人が児童との間の身分的組織的関係において児童の行為を利用し得る地位にあつたと認めるべきであるから、被告人は同項にいわゆる児童を使用する者に当るのである。そして、所論のように、被告人において同女が十八才未満の児童であることを知らなかつたとしても、児童を使用する者は、自ら戸籍謄抄本、住民登録又は米穀配給通帳等の公信力ある書面の参照その他通常可能な調査方法によつて児童の年齢を確認するべき注意義務を負うているにかかわらず、前記の証拠により、被告人が仲介者の言明を軽信して何らの調査をしなかつたことが明らかであるから、被告人は右児童の年齢を知らなかつたことについて過失があると言わなければならない。原判決が被告人に対し児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項、第三項を適用処断したのは正当であつて、記録を精査しても原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)

児童福祉法
判年月日 昭和34年 5月11日 裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 判決
事件番号 昭33(あ)3523号
文献番号 1959WLJPCA05110011
出典
裁判集刑 129号753頁
理  由
 しかし、所論引用の各判例は、児童福祉法六〇条三項但書にいわゆる児童の年齢を知らないことにつき過失がないというためには、単に児童本人の陳述または身体の発育状況等の外観的事情のみによつて年齢が満十八歳以上であると判断しただけでは不十分であつて、その外に客観的資料として、例えば戸籍抄本、食糧通帳もしくは父兄等について正確な調査を講じ以つて児童の年齢を確認する措置を採るべきである旨判示したもので、すなわち、児童雇入れに際し、右のような客観的資料が全然提供されていない場合における雇主の調査義務について判示したものである。
しかるに、本件原判決によれば、被告人は、原判示児童を接客婦として雇入れるに当り、その実家を訪問し、直接、本人およびその両親について調査したのではあるけれども、その際同人等の差し出した実は他人の戸籍抄本を、同人等の陳述のみによつてたやすく児童本人のものであると軽信したというのであつて、そして原判決は、かかる場合においては、児童又はその保護者において、その雇入を希望するの余り、他人の氏名を詐称して年齢を偽ること、殊に近頃のように年齢確認の資料として戸籍抄本が利用されるようになると他人の戸籍抄本を恰も児童本人のものであるかのように使用することも当然ありうることとして容易に想像できるから、このことをも考慮に入れて、先ずその差し出された戸籍抄本が児童本人のものであるか否かを確むべきであり、それが為には、単に児童およびその両親の一方的な陳述だけでたやすく軽信することなく、他の信頼すべき客観的資料に基づいて調査をなすべきであるのに、被告人はこれが調査を怠つているのであるから、いまだ児童福祉法六〇条三項但書にいわゆる年齢を知らないことにつき過失がない場合に該当しないと解するを相当とする趣旨を判示したものであつて、すなわち、原判決は、児童およびその両親が、児童本人の氏名を偽り他人の戸籍抄本を恰も本人のものの如く装つて提示した場合に関して、これを雇い入れんとする雇主の調査義務について判示したものである。従つて、所論引用の各判例と原判決とは、両者その事案を異にし、原判決は引用各判例になんら相反する判断を示していないこと明白であるから、所論判例違反の主張はその前提において失当である。のみならず、所論の実質は、被告人が本件児童の年齢を知らなかつたことにつき過失がないと解すべきに拘らず、過失があると解した原判決は、児童福祉法六〇条三項但書の解釈適用を誤つた違法があるとする単なる法令違反の主張(この点に関する原判決の判断は正当と認める。)に帰し、上告適法の理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)


大阪高等裁判所判決昭和46年11月16日
風俗営業等取締法七条三項但書に規定する年齢不知に関する過失の程度
刑事裁判資料229号413頁
       理   由
 年令に制限のある接客婦などを雇入れる場合において、その言葉や、前歴、容姿、態度あるいは紹介者の言葉だけでは人の正確な年令を知り得ないことはいうをまたないところであるうえ、接客婦として、雇傭されることを希望する者はその希望を遂げようとしてその紹介者は固より本人自身も恰も満一八歳以上であるかのように装い、その年令を偽り、雇主を欺くことの事例の多いことは証人Aの証言からも十分うかがわれるところであり、したがって、単に紹介者および本人の言葉や、容姿、態度、前歴等の外観的事情によってその者が満一八歳以上であると信じただけでは足らず、さらに客観的な資料として本人の戸籍謄・抄本あるいは住民票等について正確な調査をして、その者の年令を確認すべき注意義務があるのであって、右の確認措置を採らないかぎり、その者の年令を知らなかったことについて過失がなかったとはいえないものと解すべきが相当である。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e74558963089a3383c999c45eaeed8571736f6da
「Aさんは採用面接の際、20歳の友人から借りた健康保険証を提示したそうです。顔写真はついていませんでした。容疑者は『年齢確認を怠った責任は自分にある』と話す一方で、『(Aさんが)17歳の子どもだとは把握していなかった』と犯行を一部否認しています」(同前)