児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

リモート強制わいせつ罪の論点

 刑法学者に聞きました。「わいせつな行為をする」という構成要件を、「わいせつな行為をさせる」ということで実現するのだから、間接正犯じゃないかというのです。
 そう主張すると、大阪高裁は「刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行,脅迫を加えて,被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて,被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ,その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際,それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。」と判示していますが、対面で殺すとか言われている場合とは違って、ネット切っちゃえば手出しされない状況なので、「強いて,被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ,その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合」と言えるのかは慎重に判断する必要があるでしょう。
 捜査段階でもこういう指摘ができれば強要罪に落ちることもあります。量刑は変わりませんが。
「リモート強制わいせつで逮捕」という報道を追いかけると、強要罪で起訴された事例もあります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/da95a2fdf341c88760ea7f0cff0a5b18193cbfbb
西条署によりますと、男は去年10月5日午後11時20分から45分頃にかけて、当時10代の少女を脅した上、テレビ電話を通じて「リモート」でわいせつな行為をさせた疑いです。

阪高裁r4.1.20
令和4年1月20日
3 法令適用の誤りの論旨について
 所論は,次のとおり,原判示第1の強制わいせつ罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 (1) 所論は,本件は,被害者を利用した間接正犯になっていなければ,強制わいせつ罪の正犯となり得ないところ,被害者は道具化していないから,間接正犯は成立せず,強要罪か準強制わいせつ罪に当たると主張する。
 しかし,刑法176条前段の強制わいせつ罪は,13歳以上の男女に対し,その反抗を著しく困難にする程度の暴行,脅迫を加えて,被害者に一定の行動や姿態をとることを強いて,被害者がその意思に反してそれらの行動や姿態をとらされ,その身体を性的な対象として利用できる状態に置かされた場合などにも成立するのであり,その際,それ以外の要件として被害者の道具性を検討する必要はない。これと同旨の原判決は正当である。原判決の説示が「わいせつな行為」について意味不明で独自の定義を作出するものであり,理由不備があるとする主張も含めて,所論は独自の見解であって,採用できない。
 関連して所論は,原判決は,画像要求行為と被害者自身の撮影行為の全体をわいせつな行為と解している点で誤っており,全国の都道府県で画像要求行為を独立に処罰化する動きがあることは,同行為をわいせつな行為と評価することが困難であることを示していると主張する。
 しかし,原判決は,被害者をして乳房等を露出した姿態をとらせ,これを撮影させたことを含めて,わいせつな行為とみているのであり,画像要求行為そのものがわいせつな行為に当たると判断しているわけではないから,所論は前提を誤った主張であり,採用できない。
 (2) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,刑法176条の「わいせつな行為」は明確な定義がないし,原判決もその定義を示せていないのであって,漠然不明確であるから,同条項は罪刑法定主義に反して文面上無効であるのに,原判決は,同条項を適用して強制わいせつ罪の成立を認めたと主張する。
 しかし,「わいせつな行為」という言葉は,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持つことができる言葉であるし,これまでの実務上,多くの事例判断が積み重ねられており,それらの集積からある程度の外延がうかがわれるものである。そして,「わいせつな行為」を別の言葉で分かりやすく表現することには困難を伴う上,定義付けた場合に,かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。また,定義付けしても,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」に該当するのか否かを直ちに判断できるものでもない。「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,どのような考慮要素をどのような判断基準で判断していくべきなのかという判断方法こそが重要であり,定義付けが必須とはいえない。所論は,種々指摘して,刑法176条は罪刑法定主義に反しており無効であるというが,独自の見解であって採用できない。
 (3) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪につき,被害者に撮影させ,記録させ,送信させて,被告人が受信するまでしていれば,わいせつな行為と評価される余地はあるが,撮影させた行為だけではわいせつな行為に当たらないし,被告人の性的意図を考慮すると強制わいせつ未遂罪にとどまると主張する。
 しかし,被告人が被害者を脅迫して,要求どおり裸の写真を撮影させた行為が強制わいせつの既遂に当たることは,上記のとおり明らかである。被害者の意思に反して乳房等を露出する姿態をとらせ,これを撮影させるだけで十分な法益侵害性が認められるから,現実に画像データを送信させる行為は,強制わいせつ罪の成立を認める上で不可欠の要素とはいえない。異なる評価をいう所論は採用できない。
 (4) 所論は,接触を伴う強制わいせつにおいては,犯人が被害者の面前にいることが前提とされていることから,非接触の強制わいせつにおいても,犯人が規範的にみて,被害者の目の前にいるといえなければ,わいせつな行為に当たらないと解されるところ,本件では,脅迫行為に遅れて撮影行為がされているから,規範的にみて被害者の目の前にいるといえず,わいせつな行為に当たらないと主張する。
 しかし,有形力の行使を伴わない非接触型の強制わいせつの成否を,有形力を伴う接触型という類型を異にする強制わいせつの成否と同様に考える必然性はなく,所論は前提において失当である。規範的にみて被害者の面前にいるとはいえなくても,本件のように,被害者を畏怖させて,強いてその身体を性的な対象として利用できる状況に置き,これを撮影させることで,接触を伴う強制わいせつと同程度の性的侵害をもたらし得ることは明らかである。所論は採用できない。
 (5) 所論は,原判示第1の強制わいせつ罪と同第2の児童ポルノ製造罪は,それぞれに該当する行為が,自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,両罪は観念的競合であるのに,原判決は併合罪として処理した違法があると主張する。
 そこで検討するに,本件のように,被害者を脅迫して,被害者にその乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させ,その画像データを送信させ,被告人が使用する携帯電話機でこれを受信,記録して児童ポルノを製造した場合,姿態をとらせるための具体的な手段である脅迫が,児童ポルノ法7条4項の児童ポルノ製造罪において必須の行為ではないことを考慮しても,強制わいせつ罪に当たる行為は,上記児童ポルノ製造罪に当たる行為にほぼ包摂され,大幅に重なり合っているといえる。そして,乳房等を露出する姿態をとらせて,これを撮影させること以外にわいせつな行為が存在せず,かつ,当初から被告人が撮影後,画像データを送信するよう要求していた事案であって,ほぼ同時に送信,受信,記録が行われたことを考慮すると,脅迫が必須の手段ではないという上記の点を踏まえても,両行為は通常伴うものということができる。これらのことからすると,両行為は,自然的観察の下で社会的見解上1個のものとして評価できる場合であるから,本件において,両罪は観念的競合であるというべきであり,これを併合罪であると判断した原判決には,所論が指摘するとおり,法令適用の誤りがある。もっとも,併合罪という前提に立った場合の処断刑は,14年以下の懲役であるのに対し,観念的競合という前提に立った場合の処断刑は,11年以下の懲役であって,その差がさほど大きくないことや,原判決の量刑がその依拠する処断刑よりもはるかに低い刑にとどまっていることを考慮すると,この法令適用の誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。