児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

熊本地震の避難所(以下「本件避難所」という。)において,当時11歳の女子児童(以下「本件児童」という。)に対し本件児童が18歳未満であることを知りながら,その面前でわいせつな動画を見せたという熊本県少年保護育成条例違反の被疑事実(熊本地裁r3.3.3)

 わいせつな動画を見せるというのは「わいせつ行為」なんですかね?

裁判年月日 令和 3年 3月 3日 裁判所名 熊本地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(ワ)319号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2021WLJPCA03036003
住所〈省略〉 
原告 
X 
同訴訟代理人弁護士 
松本卓也 
立山晴大 
小松圭介 
熊本市〈以下省略〉 
被告 
熊本県 
同代表者知事 
A 
同訴訟代理人弁護士 
髙島剛一 
同指定代理人 
主文
 1 被告は,原告に対し,16万5000円及びこれに対する平成28年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを40分し,その3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成28年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
 本件は,熊本県少年保護育成条例違反の被疑事実により熊本県警察に逮捕・勾留された原告が,その逮捕・勾留中に熊本県警察の警察官が取調べの際に黙秘権を告知しなかったほか,黙秘権侵害となる発言をし,弁護人との接見内容に関する質問を行ったこと等により原告の黙秘権及び弁護人との接見交通権が侵害された旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金220万円及びこれに対する逮捕日である平成28年5月16日から支払済みまで民法(ただし,平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 2 前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者
   ア 原告は,平成8年生まれの男性であり,平成28年5月の逮捕・勾留当時19歳の会社員であった。(弁論の全趣旨)
   イ 被告は,熊本県警察を所管する地方公共団体である。(争いがない。)
  (2) 本件逮捕・勾留
 原告は,平成28年5月16日,同年4月に発生したいわゆる熊本地震の避難所(以下「本件避難所」という。)において,当時11歳の女子児童(以下「本件児童」という。)に対し本件児童が18歳未満であることを知りながら,その面前でわいせつな動画を見せたとして,熊本県少年保護育成条例違反の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)により通常逮捕され,熊本県警察本部留置施設に留置された。原告は,同月18日に熊本地方裁判の裁判官が行った勾留決定を経て,同月27日の勾留期間満了まで上記留置施設に勾留された。(争いがない。)
  (3) 原告の取調べ
 原告の逮捕・勾留中,原告の取調べは,熊本南警察署のB巡査部長(以下「B巡査部長」という。)が主に担当し,B巡査部長は,同月16日,同月18日,同月21日,同月22日及び同月24日の計5日にわたり,原告に対し本件被疑事実に関する取調べを行った。(争いがない。)
  (4) 原告による弁護人の選任
 原告は,逮捕当日の同月16日に当番弁護士となった松本卓也弁護士(本件訴訟代理人。以下「松本弁護士」という。)と面会し,その後母親を通じて松本弁護士を弁護人として選任した。
 松本弁護士は,同月18日,日本弁護士連合会作成の「被疑者ノート」(弁護人が接見の際に見ながら取調べ状況の説明を受けるとともに,後日返却を受け,弁護活動に役立てることを予定して,被疑者に差し入れ,記録を要請するもの。以下,単に「被疑者ノート」という。)を原告に差し入れた。(甲4,18)
  (5) 原告に対する処分
 原告は,同月27日,勾留期間が満了したことにより釈放され,熊本地方検察庁の検察官は,同日付けで,審判に付すべき事由を熊本県迷惑行為等防止条例違反に変更した上で,原告を熊本家庭裁判所に送致したが,熊本家庭裁判所は,同年10月11日,送致された事実(非行事実)が認められないことを理由として原告を保護処分に付さない旨の決定をした。(甲3)

熊本県少年保護育成条例の解説h31
(みだらな性行為及びわいせつ行為の禁止)
第13条
1何人も、少年に対し、みだらな性行為又はわいせつ行為をしてはならない。
2何人も、少年に対し、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
ニーニ〔要旨〕
本条は、少年に対してみだらな性行為又はわいせつ行為をすること、又はこれらの行為を故意に教えたり、見せたりすることを禁止するものである。
解説
3第1項関係
(1) 「みだらな性行為」とは、「淫行」と同義語で、一般社会人からみて不純とされる性行為をいい、結婚を前提としない、単なる欲望を満たすためあるいは好奇心からのみ行う性行為がこれにあたり、性交のほか性交類似行為も含まれる。また、不純であるかどうかは、あくまでも社会通念上判断されるべきものである。
なお、17歳の女子高生と分かっていながら性交したとして、愛知県青少年保護育成条
例(淫行の禁止)違反の罪に問われた男性に対する無罪判決(平成19. 5. 23、名古屋簡裁判決)が出ていることから注意が必要である。同裁判は、被告である男性が「単に自己の性的欲望を満たすためだけの目的」で性行為に至ったのかが争われたもので、判決では、
「不倫」「結婚を前提にしない」というだけでは刑事罰の対象とはならず、「加害者と青少年との関係性、行為の手段方法、状況等の外形的なものを捉え、青少年の保護育成上危険があるか、加害者に法的秩序からみて実質的に不当性、違法性があるか等、これらを時代に応じて『社会通念』を基準にして判断すべき」
と述べた上で、

一定期間に映画を見に行くなどのデートを重ねたこと、女子高生も男性に対して好意を抱いており、合意や心的交流があったうえでのセックスだったことなどから、「淫行」に相当するというには相当な疑問が残るとして、男性を無罪としている。
また、同判決では、以下の①~④のような場合は、たとえ合意があっても青少年保護の観点から社会通念上非難に値する行為、つまり「淫行」としている。
①職務上支配関係下で行われる性行為
②家出中の蕾少年を誘った性行為
③一面識もないのに性交渉だけを目的に短時間のうちに青少年に会って性行為すること
④代|賞として金品などの利益提供やその約束のもとに行われる性行為
(2)性交類似行為とは、性交に類似した行為であり、少年にとって精神的又は身体的な観点から性交と同様の影響を及ぼすものを指す。すなわち、男女間の性交を模した、あるいは性交を連想させるような姿態での手淫、口淫行為や同性愛行為等がこれに当たる。(昭和51 . 4. 26大阪高裁判決、平成8. 3. 18長野家裁判決等)
(3) 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激、興薑させたり、その露骨な表現によって正常な普通一般社会人に、性的しゅうち嫌悪の情をおこさせ善良な性的道義感に反するものをいう。
しかし、現にしゅうち嫌悪の情をおこさせたことを必要としない。このような情をおこさせる性質の行為であればこれに当たる。
例えば、単に陰部に触れる行為、乳房を撫でる行為、接吻行為等がこれに当たる。
(4)本項の規定のうち児菫買舂、児菫ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成1 1年法律第52号)に該当するものについては、同法が適用される。