児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「当審における事実取調べの結果によれば,原判決後,被告人は,示談条項に従い,前記残額の200万円を支払い,これによって示談金全額が支払われるに至ったことが認められる。」などとして、懲役1年6月(実刑)とした原判決を判決を破棄して(2項破棄)、保護観察つき執行猶予を付した事案(東京高裁R02.3.12 原判決甲府地裁R01.9.26)

 師弟関係の強制わいせつ1件で、「示談金を400万円と定め,そのうち200万円を既に支払い,残額については50万円ずつ分割払いする旨約して,示談が成立していること,被告人が事実を認めて反省の態度を示していること,被告人の妻が今後の監督を約束していること,前科がないこと,被告人がクリニックに通院して,再犯防止に取り組んでいることなど,所論が指摘し,記録上認められる事情を考慮しても,懲役2年の求刑に対し,被告人を懲役1年6月の実刑に処した原判決の量刑がその宣告の時点では重過ぎて不当であるとはいえない。」ですけど、
「原判決後,被告人は,示談条項に従い,前記残額の200万円を支払い,これによって示談金全額が支払われるに至ったことが認められる。また,当審に提出された示談書等によれば,被告人は,示談条項に従って,フィギュアスケート協会から脱退するなどし,インストラクターの職を失ったことも認められる。さらに,被告人は,当審に提出した陳述書(当審弁31)において,内省を深め,今後,クリニックでの治療を続け,厳しく自分を律して,再犯を絶対行わない旨誓約している。当審に提出された被害児童の両親の心情意見陳述書によれば,その処罰感情がなお厳しいことが認められ,それも理解できるところである。しかし,前記の原判決後の事情及び当審において新しく立証された事情に照らせば,原判決の前記量刑は,執行猶予を付さなかった点において,重過ぎる結果となったというべきである。」
ということです。

強制わいせつ被告事件
東京高等裁判所判決
令和2年3月12日
       主   文
 原判決を破棄する。
 被告人を懲役1年6月に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人A作成の控訴趣意書に記載されたとおりである。論旨は,量刑不当の主張であり,被告人を懲役1年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,保護観察付き執行猶予にするのが相当であると主張する。
 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
 本件は,被告人が,被害児童(当時10歳)が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,令和元年5月14日午前0時10分頃から同日午前0時20分頃までの間,甲府市内の駐車場に駐車中の自動車内において,同車後部座席で横臥していた同人に対し,同人が履いていたズボン及びパンツを引き下げ,その陰部を手指で直接触るなどし,もって13歳未満の者に対し,わいせつ行為をしたという事案である。
 原判決は,上記のような事案であることを前提に,量刑の理由として,フィギュアスケートインストラクターをしていた被告人が,被害児童の練習を指導して帰宅する自動車内において,わいせつな行為に及んだ事案であるとし,その行為は,被害児童のパンツを下げて陰部を指で触るなどのわいせつ性が高いものであり,被害児童の人格を無視してなされた卑劣で悪質な犯行であると説示する。被害児童は,当時10歳であり,本件により多大な恐怖を感じ,本件後は男性に恐怖を感じるようになったり,練習中にパニック症状がでるなどしており,精神的被害は甚大である上,成長過程への影響も懸念されると指摘している。
 原判決の以上の説示に不合理な点はなく,被告人の刑事責任を軽視することは許されない。
 所論は,本件犯行が計画性および常習性が認められない突発的犯行であることや被告人が任意に犯行を終了していることは,被告人の責任非難の程度を大きく減じる事情であるにもかかわらず,原判決は全く考慮していない,また,原判決は,いかなる意味で「被害児童の人格を無視したもの」と評価したのか全く示していない,被害児童の年齢や被告人と被害児童との関係性等を不当に重く評価しているなどと主張する。
 しかし,原判決が,本件について,わいせつ性が高く,被害児童の人格を無視した犯行であり悪質であるなどと評価したのは,本件わいせつ行為の態様,被害児童の年齢,被告人と被害児童との関係性,被告人が本件犯行に及んだ機会などに基づく評価であることは,その判文上明らかであり,計画性や常習性は認められないとしても,原判決の上記評価に不合理な点もない(なお,所論は,「刑法43条ただし書参照」とするが,同規定は,未遂罪に関する規定であり,既遂罪である本件を規律するものではない。)。
 所論は,原判決は,被害児童の精神的被害について,被害児童の母親の誇大な供述を鵜呑みにしているなどと主張する。
 しかし,被害児童の母親の供述は,被害児童の言動やその言動がなされた場面等を具体的に供述するものである(原審甲10・126丁,原審甲11・134~138丁)。また,被害児童も,検察官に対し,被害の際には怖くて寝たふりをしていたこと(原審甲8・77,98,99丁),怖くて練習に行けなくなったこと(同76丁)などを供述し,今後の不安を口にするなどしている(同104,105丁)。以上のような供述に照らせば,本件が被害児童に与えた悪影響について,精神的被害が甚大である上,成長過程への影響も懸念されるなどと評価した原判決が不合理であるとはいえない。
 そうすると,被害児童側との間で,示談金を400万円と定め,そのうち200万円を既に支払い,残額については50万円ずつ分割払いする旨約して,示談が成立していること,被告人が事実を認めて反省の態度を示していること,被告人の妻が今後の監督を約束していること,前科がないこと,被告人がクリニックに通院して,再犯防止に取り組んでいることなど,所論が指摘し,記録上認められる事情を考慮しても,懲役2年の求刑に対し,被告人を懲役1年6月の実刑に処した原判決の量刑がその宣告の時点では重過ぎて不当であるとはいえない。
 しかしながら,当審における事実取調べの結果によれば,原判決後,被告人は,示談条項に従い,前記残額の200万円を支払い,これによって示談金全額が支払われるに至ったことが認められる。また,当審に提出された示談書等によれば,被告人は,示談条項に従って,フィギュアスケート協会から脱退するなどし,インストラクターの職を失ったことも認められる。さらに,被告人は,当審に提出した陳述書(当審弁31)において,内省を深め,今後,クリニックでの治療を続け,厳しく自分を律して,再犯を絶対行わない旨誓約している。
 当審に提出された被害児童の両親の心情意見陳述書によれば,その処罰感情がなお厳しいことが認められ,それも理解できるところである。しかし,前記の原判決後の事情及び当審において新しく立証された事情に照らせば,原判決の前記量刑は,執行猶予を付さなかった点において,重過ぎる結果となったというべきである。
 よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して,被告事件につき更に判決することとする。
 原判決が認定した事実に原判決が挙示する法令を適用し,その所定刑期の範囲内で,被告人を主文掲記の刑に処し,刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間その刑の全部の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,原審における訴訟費用の処理(不負担)につき刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
  令和2年3月12日
    東京高等裁判所第2刑事部
        裁判長裁判官  青柳 勤
           裁判官  高木順子
           裁判官  溝田泰之