「治療」と称する「わいせつ行為」「児童ポルノ製造」の認定方法
公訴事実だけではわいせつと評価できない場合もあります。
控訴してるであればそういう点をチェックしてもらう。
児童ポルノ製造罪については、ひそかに製造罪なのか姿態をとらせて製造罪なのかについて混乱があるので、そこも指摘しておく。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8b749e8ac64ed249899287afa345ec9c96fc1143
19年11月におこした準強制わいせつ容疑で逮捕され、最終的に未成年を含む8名に対する強制わいせつ、児童ポルノ法違反などで起訴された。2020年12月に東京地裁で開かれた公判では、わいせつ行為の際に動画や写真を撮影していたことも明らかになった。被告は当初、「治療行為の一環としてやっただけ」と容疑を否認していたが、公判では起訴事実を認めている。
向井香津子「強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否 最高裁判所判例解説_刑事篇_平成29年度_-_(著)法曹会」
〔6〕強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否(平成28年(あ)第731号 同29年11月29日大法廷判決 棄却
第1審神戸地裁 第2審大阪高裁 刑集71巻9号467頁)(オ)行為者の目的等の主観的事情
「わいせつな行為」該当性の判断において,具体的状況等の事情を総合考慮する場合に考えられる判断要索については,様々なものが考えられ,多くの場合には,当該行為そのものが持つ性的性質の強さに加えて,○a行為者と被害者の関係性,○b行為者及び被害者の各属性等,○c行為に及ぶ経緯,周囲の状況等の諸要素の中から,当該事案における「わいせつな行為」該当性の評価に必要と考えられる判断要素を抽出して,これらを総合考慮し,性的な意味の有無やその性的な意味合いの強さを判断すれば,当該行為の「わいせつな行為」該当性を決することができると思われるが(注16),中には,行為者がどのような目的でその行為をしたのかという主観的事情を総合判断の一要素として考慮せざるを得ない場面も,少ないとはいえ,あり得ると考えられる(前掲刑事比較法研究グループ154頁,前掲佐藤64頁,前掲和田621頁等)。
すなわち,①当該行為そのものが持ち得る性的性質がさほど強くない行為(例えば,身体的接触のない裸体写真撮影行為や単に抱きしめる行為),あるいは,②行為者の主観以外の具体的状況を考慮してみても,性的な意味ではない別の社会的意味が想定され得るような行為(例えば,監護者が児童と入浴し身体を洗う行為)(注17)では,最終的には,行為者の目的等の主観的事情を考慮に入れて判断せざるを得ない場合があると考えられる。(注18)例えば,性的な意味を持ち得るような行為であったとしても,医療行為や養育行為として行われていることが認められれば,社会通念上,通常は,性的な意味のない行為というべきであるから,「わいせつな行為」に該当しないと考えられるところ,医療行為と評価できるかどうかや,養育行為と評価できるかどうかの判断要素として,行為者の目的(医療目的・養育目的ではなく,専ら自らの性欲を満たす目的であったか否か等。)を検討しなければならない場面もあり得るであろう(医師による女性患者に対する陰部に対する検査行為について,検査に名を借りたわいせつ行為であるとして準強制わいせつ罪として起訴され,弁護人から医師の正当行為であると主張された事案について,「わいせつの目的」がないから「わいせつ行為」とは認定できないとした京都地判平成18年12月18日LLI判例秘書(L06150442)参照)。
もっとも,主観的事情として考慮すべき内容は,行為者自身の性欲を満たす性的意図に限られないであろう。被害者に対して性的屈辱感を感じさせることによって復讐等を果たす目的や,第三者らの性欲を満たすための画像等を他人に提供する目的等であっても,社会通念に照らせば,そのような目的によって,当該行為に強い性的な意味が付与されると考えられるので,それらの目的の有無も含めた主観的事情も考慮要素になり得ると考えられる。
本判決は,「そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があることは否定し難い」と判示し,「わいせつな行為」該当性の判断方法を示し,その判断をする際に必要な場合には,性的意図だけでなく,目的等も含めた行為者の主観的事情を考慮してもよい旨を明確に示すことにより,昭和45年判例を変更する射程を明らかにしたものと思われる。
・・・・・・・・・・・・・
(注16)当該行為が行われた際の具体的状況等を総合考慮する場合の具体的判断要素
当該行為が行われた具体的状況等の諸事情を総合考慮して「わいせつな行為」該当性を判断する場合においては,以下のような判断要素を総合考慮(性的意味合いを強める方向の事情と,性的意味合いを弱める方向の双方の事情の総合考慮)していくことが考えられる。
もっとも,下記のとおり,種々の判断要素が考えられるものの,全ての事件において,これらの要素の有無を逐一判断する必要はないし,そのようなやり方は不相当であって,個別の事案ごとに,その事案にふさわしい判断要素となる事情を抽出して拾い上げ,それらの意味合いを総合考慮すべきと考えられる。
○a行為者と被害者の関係性
見ず知らずの者による行為は,挨拶等のコミュニケーションのため,といった他の意味の可能性を排除できるため,多くの場合,性的な意味が肯定され得るであろう。行為者と被害者との間に,一定の関係性(親子,保育者と被保育者,医師と患者等)がある場合には,その関係がどのようなものであるかに加えて,○b以下の判断要素が重要になるものと思われる。
○b行為者及び被害者の各属性等(それぞれの性別・年齢・性的指向・文化的背景〔コミュニケーション手段に関する習慣等〕・宗教的背景等)
被害者が幼ければ,性的な意味がないというべき事案が多くなるであろうが,行為者自身に小児を対象とする性的傾向があるといった場合には,性的な意味が肯定される方向の大きな事情となる。また,被害者及び行為者が同性の友人関係にあっても,どちらか一方または双方が同性愛者である場合には,性的な意味が肯定される余地が増える。行為者及び被害者の双方あるいは片方に,コミュニケーションとしてキス,ハグする習慣があるのであれば,性的な意味はないと判断すべき場合が増えると考えられる。
・・・・・・・・・・・・
(イ)治療行為等との関係
学説の中には,医師による治療行為としての13歳未満の者の性器への接触等が不可罰である理由として,主観的要件を要するとするものもある(前掲日髙72頁等)。しかし,客観的に医療行為と明らかにいえるのであれば,そもそも「わいせつな行為」に当たらないとみることも可能な事案も多いと思われるし(「わいせつな行為」該当性の判断については後述のとおり。),「わいせつな行為」の意味の認識を含めた故意がないということも可能であるほか,少なくとも正当業務行為として違法性が阻却されると考えられることからすれば(前掲内田165頁等),ことさら性的意図といった主観的要件を独立に求める必要性はないと考えられる。
薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」」~植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」2020立花書房
(2)行為そのものが持つ性的性質の判断について 8)
上記(1)イ①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる場合とはどのような行為であろうか。
本判決で問題となった「被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなど」の行為が,①の場合に当たることは異論のないところである(なお,平成29年改正により刑法177条の強姦罪は強制性交等罪となり,同罪の処罰対象となる性交等に膣性交のほか口腔性交・肛門性交が含まれるようになったため,現在ではそもそも陰茎を口にくわえさせる行為は176条ではなく177条による処罰対象となっている。)が,①の場合に当たる行為について,部位と態様の2つの側面から検討することとしたい 9)。
なお,治療行為としての性器等への接触については,「行為」にどこまでを取り込むかという観点から異論もあるだろうが,治療行為であることで性的性質が否定されるものと解されるから,後記(3)で取り上げる。
・・・
(ア)治療行為
前記(2)のとおり,治療行為としての性器等への接触行為については,性的性質が否定されると解される。正当な治療行為である限り,行為者たる医師等が主観的には性的意図を有していたとしても,そのことだけで当罰性を肯定するのは不当であるから,主観的事情により治療行為が性的意味を帯びるものではない 16)。確かに医師等が性的意図を有していたと治療対象者が知れば,その性的羞恥心は害され性的被害を受けたと感じることはあるだろうが,対象者が行為者の性的意図を知る場合には,客観的にも行為者の性的意図の発露を伴うのが通常であろう(当該行為の際にひわいな言動をするとか,当該行為の様子を秘密裡に撮影するといった客観的行為を伴うからこそ,対象者が行為者の性的意図を認識し,また,犯罪として認知されるのが通常と思われる。)。こうした行為者の性的意図の発露を伴う行為については,客観的にみて正当な治療行為の枠から外れていると評価でき,それゆえに性的意味が認められると解される 17) から,上記解釈であっても不都合は生じないと思われる。
なお,治療行為としての必要性の程度と関連させ,検査等として多少は有効ではあるものの必ずしも必要とはいえない行為をした場合で行為者に性的意図があった場合には,わいせつ行為性を肯定する余地を認めるのが妥当とする見解もある 18) が,外形的には行為者の性的意図が一切表れておらず,医学的に治療行為としての必要性が完全に否定できなければ,当該行為に性的意味を肯定することは困難ではないかと思われる 19)。