児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪(176条後段)と同じ機会の児童ポルノ製造罪とで逮捕され、児童ポルノ製造罪で略式命令が確定した後に、強制わいせつ罪について不起訴不当の議決がされた事例

 東京高裁h30.1.30に従えば、強制わいせつ罪(176条後段)とその際の製造罪とは観念的競合ですから、略式命令の一事不再理効で、強制わいせつ罪(176条後段)では起訴できない可能性があります。
 児童ポルノ製造罪とされた行為のうち、所定の姿態を取らせる行為・撮影する行為について、わいせつ行為と評価される行為で、この部分について強制わいせつ罪(176条後段)で起訴されると、一事不再理効が生じ、免訴になります(刑訴法337条1号)
 児童淫行罪と製造罪について公訴事実の同一性を広く解釈する高裁判例福岡高裁h23.1.13)もあります。
一事不再理効は前訴と公訴事実を同一にする本件訴因に及ぶが、公訴事実の同一性がなくても、前訴が有罪判決であった場合余罪として認定されて実質上これも処罰する趣旨で量刑資料として考慮され重く処罰される可能性があった場合には、その事実にも一事不再理効が及ぶ(しかし、前訴である同一被害児童との性交と、本件訴因である、その一一月前にした性交による児童ポルノ製造について審理の経過に照らしかかる関係がない)。(福岡高判平23・1・13高検速報一四八五)」

裁判年月日 平成30年 1月30日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件名 保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
 3 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について
  (1) 論旨は,原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を併合罪としたり観念的競合としたりしており,罪数処理に関する理由齟齬がある,また,上記の両罪は,撮影による強制わいせつと児童ポルノ製造の行為に係るものであり,もともと1個の行為に2個の罪名を付けているだけであるから,いずれも観念的競合とすべきであるのに,併合罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
  (2) 原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ(致傷)罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について,以下のように判断している。
   ア 観念的競合としたもの
 ・原判示第7の強制わいせつ致傷の行為と児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第9から第11までの各強制わいせつの行為と各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
   イ 併合罪としたもの
 ・原判示第2の1の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号2)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第2の2,4の各強制わいせつの行為と同第2の3,5の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第3の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号3)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第4の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号4)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第5の1,3,5の各強制わいせつの行為と同第5の2,4,6の各児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
 ・原判示第6の強制わいせつの行為と同第1(別表1番号7)の児童ポルノ製造(撮影,保存)の行為
  (3) 原判決は,上記罪数判断の理由を明示していないものの,基本的には,被害児童に姿態をとらせてデジタルカメラ又はスマートフォン(付属のカメラを含む。)等で撮影した行為が強制わいせつ(致傷)罪に該当する場合に,撮影すると同時に又は撮影した頃に当該撮影機器内蔵の又は同機器に装着した電磁的記録媒体に保存した行為(この保存行為を「一次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,これらを観念的競合とし(原判示第7,第9から第11まで),一次保存をした画像を更に電磁的記録媒体であるノートパソコンのハードディスク内に保存した行為(この保存行為を「二次保存」という。)を児童ポルノ製造罪とする場合には,併合罪としているものと解される(なお,原判決が併合罪としたもののうち,原判示第2の1,第5の3,5,第6の各強制わいせつ行為では,被害児童に対し緊縛する暴行を加えており,これらについては,このことも根拠として併合罪とし,観念的競合としたもののうち,原判示第7の強制わいせつ行為では,被害児童に対し暴行を加えているが,その暴行態様は,緊縛を含まず,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどしたというものであって,姿態をとらせる行為と重なり合う程度が高いとみたとも考えられ,原判決は,罪数判断に当たり,強制わいせつの態様(暴行の有無,内容)をも併せ考慮していると考えられる。)。いずれにせよ,わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵又は付属された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は,ほぼ同時に行われ,行為も重なり合うから,自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが,撮影画像データを撮影機器とは異なる記録媒体であるパソコンに複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には,両行為が同時に行われたとはいえず,重なり合わない部分も含まれること,そもそも強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し,後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって,基本的に併合罪の関係にあることに照らすと,画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることは合理性を有する。原判決の罪数判断は,合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ,理由齟齬はなく,具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。

1審判決
裁判年月日 平成28年 7月20日 裁判所名 横浜地裁 裁判区分 判決
第7 被告人は,F(以下「F」という。)が13歳未満の男子であることを知りながら,平成25年3月10日頃,東京都中野区●●●において,F(当時生後8か月)に対し,おむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をスマートフォン付属のカメラで撮影し,その静止画データ12点を電磁的記録媒体であるスマートフォン(平成28年押第40号符号1)内蔵の記録装置に記録して保存し,もって13歳未満の男子に強いてわいせつな行為をするとともに,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し,その際,Fに全治約5日間を要する外傷による亀頭包皮炎の傷害を負わせた。【平成27年2月26日付け追起訴の関係】
 第8 被告人は,別表2の番号1ないし3各記載のとおり,平成25年4月6日頃から同年8月9日頃までの間,埼玉県内,神奈川県内又はその周辺において,番号1ないし3の氏名不詳の各男児がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らに対し,全裸又は下半身裸の状態で陰茎を露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラ等の機器で撮影し,同年4月11日頃から同年8月9日頃までの間,埼玉県内,神奈川県内又はその周辺において,その静止画データ合計26点を電磁的記録媒体である前記ノートパソコンのハードディスク内等にそれぞれ記録して保存し,もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノをそれぞれ製造した。【平成27年3月31日付け追起訴別表番号10ないし12の関係】
 第9 被告人は,G(以下「G」という。)が13歳未満の女子であることを知りながら,平成25年8月25日頃,東京都内又はその周辺において,G(当時1歳)に対し,全裸の状態で両脚を開かせて陰部を露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラで撮影し,その静止画データ10点を同デジタルカメラに装着した電磁的記録媒体であるSDカード(平成28年押第40号符号4)に記録して保存し,もって13歳未満の女子にわいせつな行為をするとともに,衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写し
法令の適用
科刑上一罪の処理 判示第1,第7及び第9ないし第11について,いずれも同法54条1項前段,10条(判示第1について1罪として犯情の最も重い別表1の番号2の児童ポルノ製造罪の刑で,判示第7について1罪として重い強制わいせつ致傷罪の刑で,判示第9ないし第11についていずれも1罪として重い強制わいせつ罪の刑でそれぞれ処断する。)

強制わいせつ:強制わいせつの不起訴に「不当」 神戸第2検察審査会 /兵庫
2020.10.23 毎日新聞社
 交際相手の娘への強制わいせつ容疑で神戸地検尼崎支部が捜査し、不起訴処分とした尼崎市の飲食業の男性(70)に対し、神戸第2検察審査会が不起訴不当の議決を出した。14日付。
 議決文や県警によると、男性は2020年1~2月に自宅で交際相手の娘の少女にわいせつな行為をし、裸をスマートフォンで撮影したなどとし、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反(製造)容疑で県警に逮捕された。男性は逮捕時、強制わいせつ容疑について「そういうことをした記憶はある」と供述していたという。
 尼崎区検は男性を児童ポルノ禁止法違反罪で略式起訴。強制わいせつ罪については地検尼崎支部が不起訴処分としたため、少女の母親が検審に申し立てていた。
 議決では「わいせつ行為は母親の交際相手で、被害者が逆らえず声を上げにくいことを利用した悪質な犯罪」と指摘。「被害者は精神的ダメージを負い、成長過程に重大な影響を及ぼすことは必至で、被害は重大」とし、不起訴不当とした。
 神戸地検は再捜査し、改めて起訴か不起訴かを検討する。
 性暴力の司法手続きを巡っては、ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者に乱暴されたと訴えた事件で、検察は不起訴処分にしたが、民事訴訟では1審判決が被害事実を認定した。【山本真也、春増翔太】
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交際相手の娘被害 わいせつ疑い男性 不起訴不当の議決 神戸検察審査会
2020.10.22 神戸新聞 
 交際相手の娘に対する強制わいせつ容疑で神戸地検尼崎支部が捜査し、不起訴処分にした尼崎市の自営業の男性(70)について、神戸第2検察審査会が不起訴不当とする議決を出した。14日付。
 議決や同支部などによると、男性は1、2月に自宅で交際相手の娘=当時(15)=にわいせつな行為をしたなどとして、兵庫県警に強制わいせつ容疑や児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)容疑で逮捕された。4月8日、尼崎区検は同法違反罪で男性を略式起訴したが、地検尼崎支部は強制わいせつ罪について不起訴処分とした。同支部は理由を明かしていない。
 議決では「母親の交際相手であり、経済的に優位な立場を利用した極めて悪質な犯罪」と指摘。「被害者の成長過程に重大な影響を及ぼすことは必至」とした。神戸地検は再捜査し、改めて起訴か不起訴かの処分を検討する。


製造罪と強制わいせつ罪を観念的競合にした裁判例は68個ある。高裁判例も8個。尼崎支部も観念的競合にしてる。
名古屋 地裁 一宮 H17.10.13
東京 地裁 H18.3.24
東京 地裁 H19.2.1
東京 地裁 H19.6.21
横浜 地裁 H19.8.3
長野 地裁 H19.10.30
札幌 地裁 H19.11.7
東京 地裁 H19.12.3
高松 地裁 H19.12.10
山口 地裁 H20.1.22
福島 地裁 白河 H20.10.15
那覇 地裁 H20.10.27
金沢 地裁 H20.12.12
金沢 地裁 H21.1.20
那覇 地裁 H21.1.28
山口 地裁 H21.2.4
佐賀 地裁 唐津 H21.2.12
仙台 高裁 H21.3.3
那覇 地裁 沖縄 H21.5.20
千葉 地裁 H21.9.9
札幌 地裁 H21.9.18
名古屋 高裁 H22.3.4
松山 地裁 H22.3.30
那覇 地裁 沖縄 H22.5.13
さいたま 地裁 川越 H22.5.31
横浜 地裁 H22.7.30
福岡 地裁 飯塚 H22.8.5
高松 高裁 H22.9.7
高知 地裁 H22.9.14
水戸 地裁 H22.10.6
さいたま 地裁 越谷 H22.11.24
松山 地裁 大洲 H22.11.26
名古屋 地裁 H23.1.7
広島 地裁 H23.1.19
広島 高裁 H23.5.26
高松 地裁 H23.7.11
広島 高裁 H23.12.21
秋田 地裁 H23.12.26
横浜 地裁 川崎 H24.1.19
福岡 地裁 H24.3.2
横浜 地裁 H24.7.23
福岡 地裁 H24.11.9
松山 地裁 H25.3.6
横浜 地裁 H25.4.30
大阪 高裁 H25.6.21
横浜 地裁 H25.6.27
福島 地裁 いわき H26.1.15
松山 地裁 H26.1.22
福岡 地裁 H26.5.12
神戸 地裁 尼崎 H26.7.29
神戸 地裁 尼崎 H26.7.30
横浜 地裁 H26.9.1
津 地裁 H26.10.14
名古屋 地裁 H27.2.3
岡山 地裁 H27.2.16
長野 地裁 飯田 H27.6.19
横浜 地裁 H27.7.15
広島 地裁 福山 H27.10.14
千葉 地裁 松戸 H28.1.13
高松 地裁 H28.6.2
横浜 地裁 H28.7.20
名古屋 地裁 岡崎 H28.12.20
東京 地裁 H29.7.14
名古屋 地裁 一宮 H29.12.5
東京 高裁 H30.1.30
高松 高裁 H30.6.7
広島 地裁 H30.7.19
広島 地裁 H30.8.10


追記 2021/01/16
 製造とわいせつ行為とは犯行日が違うようです。
 わいせつ行為については、青少年条例違反で略式起訴されました。同一青少年への青少年条例違反罪は包括一罪になるので(金沢支部福岡高裁、高松高裁)、一事不再理効で、全部のわいせつ行為について再起訴できなくなりました。
 製造罪とされた撮影行為も「わいせつ行為」にほかならないので、二重起訴・二重処罰された部分が出てきています。

強制わいせつ:不起訴不当男性、略式起訴で罰金 検審議決で再捜査 /兵庫
2021.01.06 毎日新聞
 交際相手の娘への強制わいせつ容疑で逮捕されて不起訴となり、神戸第2検察審査会が不起訴不当の議決を出した尼崎市の飲食業の男性(70)について、尼崎区検は県青少年愛護条例違反の罪で尼崎簡裁に略式起訴した。同簡裁は2020年12月24日付で罰金30万円の略式命令を出した。

 議決文や県警によると、男性は20年1~2月に自宅で交際相手の娘の少女にわいせつな行為をし、裸をスマートフォンで撮影したなどとし、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反(製造)容疑で県警に逮捕された。

 尼崎区検は男性を児童ポルノ禁止法違反罪で略式起訴。強制わいせつ容疑については、神戸地検尼崎支部が不起訴処分とした。少女の母親の申し立てを受け、検審が20年10月に不起訴不当の議決を出し、検察が再捜査していた。【中村清雅】