罪数処理が裁判所によってまちまちになっている状況で、併合罪で統一しようということで、武田君(49期)と池田君(52期)が奥村の主張と判示を分析してまとめてくれましたが、撮影型強制わいせつ罪(176条後段)と姿態をとらせて製造罪は観念的競合になりうるという歯切れの悪さです。そこも併合罪にしとかないと一事不再理効の問題が出てきます
奥村は個人的にはどっちでもいいです。
武田正・池田知史 特別法を巡る諸問題 児竜ポルノ法(製造罪, 罪数)
2強制わいせつ罪(刑法176条後段) と姿態をとらせ製造罪の罪数関係
(1)前記のとおり「姿態をとらせ」る行為が姿態をとらせ製造の構成要件的行為であると解すると,設問lの被告人の行為のうち, 「児童Aを裸にして陰部を触るなどのわいせつな行為をし, その際, 自己の観賞用にその様子を撮影(カメラに装着した記録媒体-SDカードに保存) した」行為は,Aに2条3項2号, 3号に掲げる姿態をとらせ, これを電磁的記録に係る記録媒体に描写した行為に当たる。
一方,女性の全裸写真を撮影する行為についても一般的に刑法l76条のわいせつ行為に当たると解されていることからすると,上記被告人の行為は,刑法l76条後段のわいせつ行為にも当たると解される。
設問では,わいせつ行為の詳細な内容や撮影の範囲まで細かく設定されていないが,少なくとも,姿態をとらせ製造罪に触れる行為と,後段強制わいせつ罪に触れる行為とが,相当程度重なり合っていることになる27)。
このように,後段強制わいせつ罪については,撮影行為もわいせつ行為に当たる場合があることから,平成21年決定以降も,後段強制わいせつ行為と姿態をとらせ製造行為が行われた場合の罪数に関する判断は分かれている状況にある。
以下,裁判例を概観した上で,考察を加えることとする。
(2)裁判例平成21年決定以降になされた,姿態をとらせ製造罪と後段強制わいせつ罪との罪数関係に関する裁判例は次のとおりである28)。
ア観念的競合の関係にあるとしたもの高裁レベルにおいて観念的競合の関係にあると判断したものとして,名古屋高判平成22年3月4日(LEX/DB掲載),高松高判平成22年9月7日(LEX/DB掲載),広島高判平成23年5月26日(公刊物未掲載),大阪高判平成25年6月21日(公刊物未掲載)等がある。
前掲名古屋高判平成22年3月4日は,併合罪の関係にあるとした原判決の判断について, 「被害児童らに対し手淫ないし口淫をさせた姿を撮影した行為は,児童ポルノ製造の実行行為となるほか,強制わいせつ罪の実行行為にも当たるから,強制わいせつの事実において上記撮影の点が起訴,認定されていないことを考慮しても,上記の行為は, l個の行為が児童ポルノ製造罪及び強制わいせつ罪の2個の罪名に触れるものというべきであって,両罪は観念的競合となると解される」と判示している。
また,前掲大阪高判平成25年6月21日は,デジタルカメラでの撮影行為と, その撮影に係る画像データをハードディスクの内蔵記憶装置に記憶させる行為(複製行為)がされた事案において,併合罪の関係にあるとした原判決の判断について, これらの各製造行為が包括一罪となるとした上で,「本件各起訴状の公訴事実では,着衣を脱がせ,自己の陰茎を口淫させるなどの行為を強制わいせつ罪の実行行為として記載し,上記撮影行為は明示されていないが,上記撮影行為は, それ自体わいせつ行為に該当するものである上,裸の姿態及び自己の陰茎を口淫させた姿態をそれぞれとらせて撮影するものであり, これら撮影行為と,原判示の各強制わいせつ行為とは,内容において重なり合っており, l個の行為とみるべきものである。
そうすると,強制わいせつの公訴事実に上記撮影の行為が明示されておらず, また,児童ポルノ製造には,強制わいせつ行為と重なる撮影行為以外に複製行為が含まれるにしても,前述のとおり,撮影による児童ポルノ製造と複製による児童ポルノ製造とが包括一罪となることも踏まえれば,各強制わいせつと各児童ポルノ製造とは一罪と評価すべきものであ」ると判示している。
なお,大阪高判平成23年l2月21日(LEX/DB掲載)は,青少年愛護条例違反29) と提供目的製造罪及び姿態をとらせ製造罪との罪数関係並びに後段強制わいせつ罪と提供目的製造罪との罪数関係に関して, いずれも併合罪とした原判決の判断について, 「児童ポルノの製造行為に関して行われた撮影行為は,被写体である被害男児の状態等にも照らすと刑法上のわいせつ行為に当たる行為であり,強制わいせつ罪及び本条例21条1項の罪はわいせつ行為を実行行為の一部とする犯罪であって,強制わいせつ罪又は本条例違反の罪と各児童ポルノの製造罪とは, 自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上1個というべき関係にあるから,観念的競合として処理するのが相当」としている。
地裁レベルの判断は多数あるが,松山地判平成26年1月22日(判例秘耆掲載)は,わいせつ行為と姿態をとらせる行為が重なり合っている後段強制わいせつ罪と姿態をとらせ製造罪の罪数関係について観念的競合の関係にあるとしつつ,他方で,強制わいせつ致傷罪と姿態をとらせ製造罪の罪数関係については,わいせつ行為に胸や陰部を触るという児童ポルノ製造罪の実行行為ではない行為が含まれており,加えて,被告人が児童から逃げるための暴行にも及んでいることからすると,強制わいせつ致傷と児童ポルノ製造は, その行為の一部に重なる点があるにすぎず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,併合罪の関係にあると判示している。
イ併合罪の関係にあるとしたもの高裁レベルにおいて併合罪の関係にあると判断したものとして,広島高判平成22年1月26日(LEX/DB掲載),大阪高判平成24年2月24日(公刊物未掲載),東京高判平成24年ll月1日(高刑集65巻2号l8頁,判夕l391号364頁)等がある。
前掲広島高判平成22年1月26日は,一次製造と複製の双方が起訴された事案において, 「被害児童に陰部を露出させる姿態をとらせてこれをデジタルビデオカメラで撮影する行為は,刑法l76条後段に触れる行為であるとともに,児童ポルノ法7条3項(現4項)に触れる行為でもあるが,社会的見解上,わいせつ行為に伴い, これを撮影するのが通常であるとはいえないことに加え,本件において,被告人は,原判示第1のとおり,被害児童の陰部を手指で弄び,舐め回すなどのわいせつ行為にも及んでいるところ,これらの行為は原判示第2の3項製造罪(姿態をとらせ製造罪)の実行行為ではなく,他方,原判示第2の児童ポルノであるハードディスク1台を製造した行為が,原判示第1のわいせつ行為と社会的, 自然的事象として同一のものでないことも明らかであることからすると,両者が観念的競合の関係に立つということはできず,両者を併合罪として処理した原判決に法令適用の誤りはな」いと判示している。
前掲大阪高判平成24年2月24日は,一次製造のみが起訴された事案で,被害児童に対し,着衣をずらして露出させた陰部を触ったり,舐めたり, 自己の陰茎を被害児童の口に擦りつけるなどしたわいせつ行為と,わいせつ行為に係る姿態をとらせてこれを撮影,記録した行為は,行為の一部に重なり合いも認められるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえない上,両行為の性質等に鑑みると, それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから併合罪の関係にあるとしている。
また,前掲東京高判平成24年11月1日は,一次製造のみが起訴された事案において,被告人が,被害児竜のパンティ等を下ろして陰部を手指で触り,舐めるなどした上, 自己の陰茎を握らせるなどする(直接的なわいせつ行為)際に, これらの姿態をとらせてその一部又はそのほとんどを撮影した事案において,後段強制わいせつ行為と姿態をとらせ製造行為とは重なり合いがあるとしながら,「本件では,被告人は撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとしたものではないから,撮影行為の重なり合いを重視するのは適当でない。
また,直接的なわいせつ行為の姿態をとらせる行為は,上記のとおり構成要件的行為ではあるが,児童ポルノ製造罪の構成要件的行為の中核は撮影行為(製造行為)であるのであって,同罪の処罰範囲を限定する趣旨で『姿態をとらせ」という要件が構成要件に規定されたことに鑑みると, そのような姿態をとらせる行為をとらえて,刑法l76条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項(現4項)に触れる行為とが行為の主要な部分において重なり合うといえるかはなお検討の余地がある。
そして,直接的なわいせつ行為と, これを撮影,記録する行為は,共に被告人の性的欲求又はその関心を満足させるという点では共通するものの,社会的評価においては,前者はわいせつ行為そのものであるのに対し,後者が本来意味するところは撮影行為により児童ポルノを製造することにあるから,各行為の意味合いは全く異なるし, それぞれ別個の意思の発現としての行為であるというべきである。
そうすると,両行為が被告人によって同時に行われていても, それぞれが性質を異にする行為であって,社会的に一体の行為とみるのは相当でない。
また,児童ポルノ製造罪は,複製行為も犯罪を構成し得るため,時間的に広がりを持って行われることが想定されるのに対し,強制わいせつ罪は,通常,一時点において行われるものであるから,刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項(現4項)に触れる行為が同時性を甚だし〈欠く場合が想定される。
したがって,両罪が観念的競合の関係にあるとすると,例えば,複製行為による児童ポルノ製造罪の有罪判決が確定したときに,撮影の際に犯した強制わいせつ罪に一事不再理効が及ぶ事態など,妥当性を欠く事態が十分に生じ得る。
一方で, こうした事態を避けるため,両罪について,複製行為がない場合は観念的競合の関係にあるが,複製行為が行われれば併合罪の関係にあるとすることは,複製行為の性質上,必ずしもその有無が明らかになるとは限らない上,同じ撮影行為であるにもかかわらず,後日なされた複製行為の有無により撮影行為自体の評価が変わることになり,相当な解釈とは言い難い。
以上のとおり,本件において,被告人の刑法176条後段に触れる行為と児童ポルノ法7条3項(現4項)に触れる行為は, その行為の重なり合いについて上記のような問題がある上,社会的評価において,直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為は,別個の意思に基づく相当性質の異なる行為であり,一罪として扱うことを妥当とするだけの社会的一体性は認められず, それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,両罪は観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあると解するのが相当である」と判示している。
地裁レベルの判断は多数あるが,複製行為がある場合に併合罪としたもの(横浜地判平成27年3月12日(一次製造と複製の双方を認定。判例秘耆掲載),盛岡地一関支判平成27年1月26日(一次製造と複製の双方を認定。判例秘耆掲載),名古屋地判平成26年6月19日(一次製造と複製の双方を認定。判例秘書掲載),大阪地判平成26年4月21日(一次製造と複製の双方を認定。公刊物未掲載)),わいせつ行為が起訴されていない別の製造罪がある場合に併合罪としたもの(東京地判平成25年11月12日判例体系掲載),複製行為がない場合でも併合罪としたもの(神戸地判平成24年7月19日判例秘書掲載)に分類される。
なお,松山地判平成27年2月24日(判例秘書掲載)は,後段強制わいせつ罪による有罪判決確定後に, その強制わいせつの際の撮影行為(一次製造)が起訴された事案について,実体判断をしている。
ウ考察以上のとおり,平成21年決定以降も,撮影行為についても重なり合いが認められる,後段強制わいせつ罪と姿態をとらせ製造罪の罪数関係については,複製行為がある場合も含めて観念的競合とする判例(前掲大阪高判平成25年6月21日等)と,複製行為がなく行為のほとんどが重なり合っている場合でも併合罪とする判例(前掲東京高判平成24年11月1日等) まで,解釈が大きく分かれている状況にある。
また,複製行為がある場合には併合罪とする裁判例が比較的多いように思われるところ,前掲東京高判平成24年11月1日は,複製行為の有無によって罪数判断が異なることについて疑問を呈している。
最判昭和49年5月29日(刑集28巻4号114頁)により,一個性の判断対象となる行為は, 自然的観察のもとでの行為者の動態であるとされたことから,具体的事案において行為者の動態を自然的(前構成要件的)に観察した結果,複製行為がある場合とない場合があり, また,わいせつ行為と姿態をとらせ行為の事実上の重なり合いの程度も事案によって異なるから,両行為の重なり合いの程度によって,観念的競合か否かの判断も異なるということは自然なようにも思われる。
しかし,行為の重なり合いという点に関していえば,確かに,わいせつ行為を撮影する行為自体がわいせつ行為を構成する場合はあるものの,わいせつ行為を撮影する行為が,全てわいせつ行為を構成するかについては検討の余地がある(例えば,わいせつ行為の被害児童が撮影行為に気付いていない場合には,撮影行為はわいせつ行為に当たらないと思われる。)。
また,観念的競合か否かの判断は, あくまで, 自然的に観察したもとでの行為者の動態が, 「社会的見解上一個のものとの評価を受けるか」という判断である。
このような観点で,後段強制わいせつ行為と姿態をとらせ製造行為の重なり合いについてみると,撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとする例外的な聿案を除いては,一般的に,後段わいせつ行為の本質的な部分は身体的接触を伴う「直接的なわいせつ行為」であるのに対し,姿態をとらせ製造罪の本質的な部分は「撮影(製造)行為」であるから,本質において重なり合いがあるとはいえない。
さらに,同じ撮影行為でも,製造罪の場合は記録する点に本質があるのに対し,わいせつ罪の場合は撮影行為を通じて被害児童の'|牛的ド]由を害する点に本質があり,質的な違いがある。
このような相違に加えて,前記の?社会的事実としての=体1生, |司質性や,?一般的に単一の意思行為に基づくものといえるかといった点についても検討すると, 「直接的なわいせつ行為」の社会的評価はわいせつ行為そのものであるのに対し, 「製造行為」の社会的評価は撮影行為により児童ポルノを製造することにあるから,両行為の意味合いは全く異なるし,別個の意思の発現としてなされた行為と見るべきであることや,姿態をとらせ製造罪は寮後的な複製行為も犯罪を構成し得るため時間的な広がりを持って行われることが想定されるのに対し,後段強制わいせつ罪は通常一時点において行われるものであるという性質の相違には, このような性質の相違から,両行為が同時性を甚だし〈欠く場合における一事不再理効の範囲の問題等もある。
以上を考慮すると,撮影行為同体を手段としてわいせつ行為を遂げようとする例外的な事案を除いては,複製行為の有無や,わいせつ行為と姿態をとらせ行為の事実上の重なり合いの程度いかんを問わず,後段強制わいせつ行為と姿態をとらせ製造行為は, 「社会的見解上−個のものとの評価」を受けることはなく, したがって,両者は併合罪の関係にあると解するのが相当である30)。