児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童に2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同法7条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するときに、同条5項を適用することの可否(最判令和6年5月21日)

 強制わいせつ罪・強制性交に伴う撮影行為の罪名が争点になりました。
 児童ポルノ製造罪の法文はこういう構成になっていて、4項は「前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ」という法文で、5項は「前二項に規定するもののほか、ひそかに」という法文なので、姿態を取らせていれば盗撮でも4項が適用されるはずで、ほとんどそう処理されている。

第七条(児童ポルノ所持、提供等)
3前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
5前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。

 しかし、5項で起訴・判決されているものも少なからずあって、強制性交罪・強制わいせつ罪の長期実刑の事案も多く
神戸 地裁 尼崎 H28.9.7
東京 地裁 H28.10.19
新潟 地裁 H28.11.4
奈良 地裁 葛城 H29.3.16
東京 高裁 H29.3.16
津 地裁 伊勢 H29.7.10
熊本 地裁 H29.10.20
青森 地裁 八戸 H30.1.25
水戸 地裁 土浦 H30.8.3
福島 地裁 会津若松 H30.12.21
大津 地裁 H31.1.24
水戸 地裁 H31.3.20
名古屋 地裁 R01.8.21
東京 地裁 R02.3.2
福岡 地裁 R02.3.3
津 地裁 R2.6.17
福岡 地裁 R03.5.19
熊本 地裁 八代 R03.6.4
福岡 地裁 R03.6.9
宇都宮 地裁 R03.6.16
横浜 地裁 R03.6.22
千葉 地裁 R03.11.4
京都 地裁 R03.11.26
静岡 地裁 浜松 R03.12.17
奈良 地裁 R04.7.14
東京 地裁 R04.8.30
奈良 地裁 R04.10.20
神戸 姫路 R05.3.23
札幌 地裁 R1.11.14
広島 地裁 R2.3.9
札幌 地裁 R5.2.16
名古屋 地裁 R5.12.7
東京 地裁 立川 R05.1.20
大阪 地裁 堺 R06.5.1

大阪高等裁判所令和4年(う)第758号同5年1月24日判決・判例タイムズ1512号136頁」(原審奈良地裁R04.7.14)が原判決を厳しく非難した。
 それに対して、そんなに目くじら立てなくてもいいじゃんという高裁判例が大阪・大阪・東京・東京と4つくらい相次いで、判例変更になりました。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92995
事件名
 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等未遂、強制性交等被告事件
裁判年月日
 令和6年5月21日
法廷名
最高裁判所第三小法廷
原審裁判所名
大阪高等裁判所
原審裁判年月日
 令和5年7月27日
判示事項
 児童に児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同法7条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するときに、同条5項を適用することの可否

令和5年(あ)第1032号強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為
等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等未遂、強制性交等被告事件
令和6年5月21日第三小法廷判決
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中170日を本刑に算入する。
理 由
1弁護人奥村徹の上告趣意のうち、大阪高等裁判所令和4年(う)第758号同5年1月24日判決・判例タイムズ1512号136頁を引用して判例違反をいう点について
原判決は、就寝中の被害児童(当時10歳)に対する強制わいせつ、強制性交等未遂及び強制性交等の各犯行の機会に同児童に児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)2条3項各号のいずれかに掲げる姿態(以下、単に「姿態」という。)をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという各児童ポルノ製造(以下「本件各児童ポルノ製造」という。)の事実について同法7条5項を適用した第1審判決を是認した。
この判断は、児童に対する強制わいせつ、準強制わいせつ及び強制性交等の各犯行の機会に同児童に姿態をとらせ、これを撮影するなどして児童ポルノを製造した場合には、児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても、児童ポルノ法7条4項の児童ポルノ製造罪が成立し、同条5項は適用されないとした所論引用の判例と相反する判断をしたものというべきである。
しかしながら、児童ポルノ法7条5項が、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造するという行為態様の違法性の高さに鑑み、同条3項及び4項の各児童ポルノ製造に加えて、処罰対象となる児童ポルノ製造の範囲を拡大するために制定されたという立法の趣旨及び経緯、並びに、同条4項、5項の各児童ポルノ製造罪の保護法益及び法定刑に照らせば、児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当である。そのように解さなければ、事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立の反証を志向するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることになりかねず、さらには、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造したことは証拠上明らかであるのに、裁判所が同条5項を適用することができないといった不合理な事態になりかねない。同項にいう「前2項に規定するもののほか」との文言は、以上の解釈を妨げるものではない。
よって、本件各児童ポルノ製造の事実について児童ポルノ法7条5項を適用した第1審判決を是認した原判断は正当である。
したがって、刑訴法410条2項により所論引用の判例を変更し、原判決を維持するのを相当と認めるから、所論の判例違反は、結局、原判決破棄の理由にならない。
2その余の上告趣意について
弁護人奥村徹の上告趣意のうち、その余の判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないか、引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠くものであり、その余は、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
3よって、刑訴法408条、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今崎幸彦裁判官宇賀克也裁判官林道晴裁判官渡惠理子)

 奥村はかつて「「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だ」と主張したことがあって、大阪高裁で屁理屈扱いされたのだが、最判令和6年5月21日で採用されることになった。

阪高平成28年10月26日宣告 
強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
3 第10,第12及び第13の各2の事実における法令適用の誤りの主張について
 論旨は,第10,第12及び第13の各2の製造行為は,いずれも盗撮によるものであるから,法7条4項の製造罪ではなく,同条5項の製造罪が成立するのに,同条4項を適用した原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
 しかしながら,法7条5項は「前2項に規定するもののほか」と規定されているから,同条4項の罪が成立する場合には同条5項の罪は成立しないことが,法文上明らかである。所論は,法7条5項に「前2項に規定するもののほか」と規定されたのは立法のミスであってこの文言に特段の意味はないとした上で,法7条5項の罪と他の児童ポルノ製造の罪との関係は前者が後者の特別法の関係だと主張する。しかし,法7条5項の罪が追加された法改正の趣旨を考慮しても所論のように「前2項に規定するもののほか」に意味がないと解する必要はなく,法7条5項の罪が特別法の関係にあるとの所論は,独自の見解であって,採用できない。いずれも法7条4項の罪が成立しているとした原判決の法令適用に誤りはない。

 大阪高裁r5.1.24(判タ1512号)は理論的には正しいんだか、現場の評判が悪くて、即座に反対の東京高裁R5.6.16(判タ1514号108頁)が掲載された。 

阪高裁令5.1.24判決_判タ_1512号_136頁
児童ポルノの姿態をとらせ製造罪とひそかに製造罪の関係
対象事件|令和5年1月24日判決大阪高等裁判所第5 刑事部令和4 年(う)第758 号強制性交等,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,準強制わいせつ被告事件
裁判結果|破棄自判,確定
原  審|奈良地方裁判所令和3年(わ)第422号,令和3年(わ)第454号,令和4年(わ)第37号,令和4年(わ)第79号令和4年7月14日判決
参照条文|児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7 条4 項,5 項
判例掲載データベース|判例秘書INTERNETTKC ローライブラリーWestlaw JapanD1-Law.com判例タイムズアーカイブ
[判決要旨]
児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても,行為者が姿態をとらせて撮影することで児童ポルノを製造した場合には,姿態をとらせ製造罪が成立し,ひそかに製造罪は適用されない。
[解説]
本件は,被告人が,就寝中等の複数の男子児童に対し,その陰茎を露出させるなどしてわいせつ行為や口腔性交をし,それぞれの機会に動画撮影をして児童ポルノを製造するなどした事案である。原審では事実関係に争いはなく,原判決は,公訴事実のとおり,被告人が,就寝中の各被害児童の下着をずらして直接陰茎を触るなどのわいせつ行為をしたり,又は,児童の陰茎を自己の口腔内に入れて口腔性交をしたりし,それぞれの機会に,ひそかに,児童の陰茎を露出する姿態,その陰茎を手指で触る姿態,又は,児童の陰茎を口腔内に入れる姿態をとらせ,動画撮影して保存し,児童ポルノを製造したなどと事実を認定し,そのうち児童ポルノ製造罪については,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下,法律名の改正前後を問わず「児童ポルノ法」という。)7条5項等を適用するなどして,起訴状どおり,ひそかに製造罪を適用するなどした(ただし,被害児童が就寝中等ではなかった各事実については,公訴事実のとおり,姿態をとらせ製造罪を認定した。)。これに対し,被告人が控訴し,控訴審の弁護人が多岐にわたる主張をしたが,その中で,原判決がひそかに製造罪の成立を認めた事実については姿態をとらせ製造罪が成立するとし,法令適用の誤りがあるなどと主張した所論につき,本判決は,正しいものと判断した。児童ポルノ法は,これまで数度の改正がなされており,その中で,姿態をとらせ製造罪は,平成16 年法律第106 号により新設された。「姿態をとらせ」の意義については,行為者の言動等により,当該児童が当該姿態をとるに至ったことを言い,強制によることを要しないとされており(島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」現代刑事法66 号64 頁),行為者の言動等によって児童が姿態をとるに至ったのであれば,児童において,熟睡等により,自らが姿態をとるに至ったことや撮影されていることを認識していなくても,「姿態をとらせ」に該当するものと考えられる。こうした理解に立ち,本件と同様の事案について,姿態をとらせ製造罪が成立すると判断していた裁判例もあった。そうした中,ひそかに製造罪は,平成26 年法律第79 号により,いわゆる盗撮による児童ポルノの製造行為であっても,通常の生活の中で誰もが被害児童になり得ることや,発覚しにくい方法で行っている点で巧妙であるなど,行為態様の点で違法性が高く,児童の尊厳を害する行為であるとともに,児童を性的対象とする風潮が助長され,抽象的一般的な児童の人格権を害する行為であるなどとして,新設された(坪井麻友美「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」法曹時報66 巻11 号55 頁)。この改正経緯において,従前からあった構成要件の成立範囲を変えるものではなく,新たに処罰範囲を拡大する趣旨で改正されたものとされており(第186回国会衆議院法務委員会第21 号平成26 年6 月4 日。高木和博「真に児童の権利の保護に必要な規制を目指して―児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部改正―」立法と調査357号40頁参照),その趣旨を明確にするため,法文上も「前2 項に規定するもののほか」と規定されたのであるから,提供目的製造罪(児童ポルノ法7 条3 項)と姿態をとらせ製造罪(同条4 項)のいずれにも該当しない場合のみ,ひそかに製造罪が成立するものと考えられる(坪井・前掲57 頁)。実務上,本件と同様の事案は少なくないが,第1 審段階においては,当判決と同様の理解に立つ裁判例も,本件の原審と同様の理解をする裁判例も,混在しているとみられる。控訴審段階においては,姿態をとらせ製造罪を認定した原判決に対し,控訴した弁護人によるひそかに製造罪が成立する旨の主張を排斥する理由において,本判決と同様の説示をした裁判例がある(大阪高判平28.10.26 公刊物未登載。ただし2 項破棄)。本判決は,原判決を破棄したことでその趣旨を明確にしており,今後の実務の参考になるものと考えられる。(関係人仮名)

[判決]
主    文
原判決を破棄する。被告人を懲役13 年に処する。原審における未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用するが,論旨は,理由齟齬,法令適用の誤り及び量刑不当である。そこで,記録を調査し,当審における事実の取調べの結果も併せて検討する
・・・・
しかし,同法7 条5 項の規定する児童ポルノのひそかに製造行為とは,隠しカメラの設置など描写の対象となる児童に知られることがないような態様による盗撮の手段で児童ポルノを製造する行為を指すと解されるが,同項が「前2 項に規定するもののほか」と規定していることや同条項の改正経緯に照らせば,児童が就寝中等の事情により撮影の事実を認識していなくても,行為者が姿態をとらせた場合には,姿態をとらせ製造罪(同条4 項)が成立し,ひそかに製造罪(同条5 項)は適用されないと解される。したがって,検察官は,本来,上記各事実をいずれも姿態をとらせ製造罪として起訴すべきところを,誤ってひそかに製造罪が成立すると解し,同一機会の各事実と合わせると姿態をとらせたこととなる事実を記載しながら,「ひそかに」との文言を付して公訴事実を構成し,罰条には児童買春・児童ポルノ処罰法7 条5 項を上げた起訴状を提出し,原判決もその誤りを看過して,同様の事実認定をした上で,上記のとおりの適条をしたことが明らかである。このような原判決の判断は,判文自体から明らかな理由齟齬とまではいえないにせよ,法令の適用に誤りがある旨の所論の指摘は正しい。さらに,検察官のみならず,被告人や原審弁護人も,上記各事実に関してひそかに製造罪としての責任を問われているとの誤信の下で原審公判に
臨んでいたものとうかがえるから,第1 審裁判所としては,関係証拠に照らして認定できる事実に正しい適条をするだけではなく,検察官に釈明を求め,その回答如何によっては訴因変更請求を促すなどして,被告人及び原審弁護人の防御に遺漏がないよう手続を尽くすべきであったのに,原審はこうした手続を何ら行っていない。姿態をとらせ製造罪とひそかに製造罪とでは,法定刑は同じとはいえ,児童ポルノ製造罪における「姿態をとらせ」あるいは「ひそかに」という要件は,処罰根拠をなす重要部分に当たるから,この点について被告人や原審弁護人が誤解をしたままでは十分な防御の機会が与えられたと評価できず,原審の釈明義務違反は,判決に影響を及ぼすとみるべきである。以上から,原判決には,所論指摘の法令適用の誤り,さらには,訴訟手続の法令違反があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,論旨は理由がある。
原審における検察官の求刑:懲役19 年)(裁判長裁判官坪井祐子,裁判官今井輝幸,裁判官奥山雅哉)