児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童を脅迫してビデオ通話機能を用いて裸体を送信させた行為を、強制わいせつ罪とした事例(岡山地裁H29.7.25)

 
 わいせつ性を問われているのに、裁判所はわいせつの定義を示していません。控訴せず確定。

裁判年月日 平成29年 7月25日 
裁判所名 岡山地裁 
裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件

文献番号 2017WLJPCA07256001


上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官武用訓充出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,
第7 L関係
 スマートフォンのゲームアプリを通じて知り合ったL(当時●●●歳。以下「L」という)が13歳未満であることを知りながら,Lに強いてわいせつな行為をしようと考え,平成27年10月28日,被告人方において,Lに対し,被告人が使用するスマートフォン(平成29年岡地領第188号符号3,5)からLが使用するタブレット端末にアプリケーションソフト「LINE」を通じて,「B」を名乗る第三者を装い,「C」を名乗る被告人がLの個人情報をインターネット上で漏洩させている旨及び「無視するならしらないよ」「街中の人が付け狙い,家に押しかけたり,いたずら電話がかかってきて,引っ越しを繰り返さなければならなくなる」等のメッセージを送信し,さらに,「C」を名乗り,「今頃なんやねん」「こうかいしろ」「小学生ちゃうねんからごめんなさいで許すわけないやろ」「なら胸出して顔出して写メとれ」等のメッセージを送信して脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,その乳房,陰部等を露出した姿態及びその陰部を指で開いた姿態をとり,タブレット端末でその姿態を撮影して被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し,
  (1)同日午後8時9分頃から同日午後10時33分頃までの間に,21回にわたり,●●●内のL方において,Lに,衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,Lが使用するタブレット端末付属のカメラでその姿態を撮影させ,別表6記載のとおり,9回にわたり,その画像データ合計21点をLが使用するタブレット端末から被告人が使用するスマートフォンに「LINE」を利用して送信させ,
  (2)同日午後10時36分頃から同日午後10時45分頃までの間に,被告人方において,被告人が使用するパーソナルコンピュータとLが使用するタブレット端末を「LINE」のビデオ通話機能により接続した状態で,ビデオ通話機能を使用し,同タブレット端末付属のカメラの前で衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開いた姿態をとるよう要求し,その頃,L方において,Lに,衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,Lが使用するタブレット端末から被告人が使用するパーソナルコンピュータにビデオ通話機能を使用して動画配信させ,
 もって,13歳未満の女子に強いてわいせつな行為をし,

第8 M関係
 スマートフォンのゲームアプリを通じて知り合ったM(当時●●●歳。以下「M」という)が13歳未満であることを知りながら,Mに強いてわいせつな行為をしようと考え,平成28年2月9日頃から同月14日頃までの間に,被告人方において,Mに対し,被告人が使用するスマートフォン(平成29年岡地領第188号符号10,11)からMが使用する携帯型デジタル音楽プレーヤー「iPod」にアプリケーションソフト「LINE」を通じて,「N」を名乗る第三者を装い,「E」を名乗る被告人がMの個人情報を漏洩させている旨及び「天誅リストにさらされてるよ」「あいつ2ちゃんねるとかニコニコとかで情報収集するの」「情報収集したらスレッド立てて嫌がらせのイベントするよ」「ただストーカーのイベントされるよ」「知らない人が多勢学校や家とかに待ち伏せして写真撮る」「何時何分になにしたとか晒されるの」等のメッセージを送信し,さらに,「E」を名乗り,「お前なにうそついてんねん」「嘘つきだれがゆるすねん」「なら胸出して顔かくさんといて写メ撮ってみろ」等のメッセージを送信して脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,その乳房,陰部等を露出した姿態及びその陰部を指で開いた姿態をとり,Mが使用する「iPod」でその姿態を撮影して被告人が使用するスマートフォンに送信するよう要求し,
  (1)同月9日頃から同月14日頃までの間に,38回にわたり,●●●内のM方において,Mに,衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,Mが使用する「iPod」付属のカメラでその姿態を撮影させ,別表7記載のとおり,19回にわたり,その画像データ合計38点をMが使用する「iPod」から被告人が使用するスマートフォンに「LINE」を利用して送信させ,
  (2)同月14日,被告人方において,Mに,被告人が使用するパーソナルコンピュータとMが使用する「iPod」を「LINE」のビデオ通話機能により接続した状態で,ビデオ通話機能を使用し,「iPod」付属のカメラの前で衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸でその陰部を指で開くなどした姿態をとるよう要求し,同月15日午後8時13分頃から同日午後8時23分頃までの間に,2回にわたり,M方において,Mに,衣服を脱いでその乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,Mが使用する「iPod」から被告人が使用するパーソナルコンピュータにビデオ通話機能を使用して動画配信させ,
 もって,13歳未満の女子に強いてわいせつな行為をし,

第2 強制わいせつ罪の成否
 1 関係証拠によると,被告人は,インターネット上で知り合った11歳ないし14歳の被害女児に,第三者を装って天誅リストに載っているから被告人に謝った方がいいなどと言うとともに,謝ってきた被害女児にごめんなさいで許すわけがない,胸と顔を出した写メを送れなどと言って脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,乳房,陰部等を露出した姿態及びその陰部を指で開いた姿態をとり,被告人のスマートフォンに送信するよう要求し,被害女児の自宅において,衣服を脱いで乳房,陰部等を露出した姿態及び全裸で陰部を指で開くなどした姿態をとらせ,被害女児のスマートフォン等付属のカメラでその姿態を撮影させ,その画像データや動画データを被告人が使用するスマートフォンに送信させるなどしたことが認められる。
 2 一般に,被害者を裸にして写真を撮影する行為は,被害者に直接触れていなくとも,わいせつ行為に当たると解されているところ,本件において,被害女児らは,被告人の要求に従い,衣服を脱いで乳房や陰部等を露出したり陰部を指で開いたりする姿態をとり,それをスマートフォン等で自ら撮影して被告人に送信しているのであって,被害女児は被告人と全く面識がないこと,被害女児が撮影して送信した写真や動画は容易に複製や頒布が可能な拡散可能性の高いデータであったことなども考慮すると,被害女児らの性的羞恥心は著しく害されているといえ,被害女児らの性的な自由の侵害という点からみて,撮影者が被告人であるか被害者であるかに質的な違いは見出し難い。
 確かに,女性が密室において一人で自らの陰部等を撮影する行為が,直ちにわいせつ行為といえるかには疑問もある。しかし,本件において,被害女児らは,被告人から衣服を脱いで乳房や陰部等を露出したり陰部を指で開いたりしている写真等を自ら撮影して被告人に送信するよう要求されて,その要求どおりに撮影しているのであって,被害女児らが自らの陰部等を撮影した行為は,被告人に送信することのみを目的として行われたものである。
 また,本件においてわいせつ行為に当たるか否かが問題となっているのは,被害女児らのいわゆる自撮り行為のみではなく,自撮り行為により撮影した写真や動画を被告人のスマートフォンに送信したことまでを含めた一連の行為であって,その一連の行為は被告人も予定していたものであり,被告人は自撮り行為が行われた状況をリアルタイムで認識していないとはいえ,自撮り行為により撮影された写真や動画を予定どおり自撮り行為後間もなく認識している。
 弁護人は,このような行為がわいせつ行為に当たるとすると,子どもが自発的に撮った写真を率先して送信したのでない限り,ほぼ全ての児童ポルノ製造行為が強制わいせつ行為となると指摘するが,強制わいせつ罪の成立には,被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫が立証される必要があることなどに照らすと,その指摘は当たらない。
 また,弁護人は,同様の事案において強要罪児童ポルノ製造罪の成立を認めた裁判例(東京高判平成28年2月19日判例タイムズ1432号134頁)の存在を指摘するが,強制わいせつ罪ではなく強要罪として起訴された事案における判断であり,本件とは事案が異なる。
 3 以上によると,本件においては,被害女児らが陰部等を自ら撮影して被告人に送信するなどした行為はわいせつ行為に当たるというべきであり,強制わいせつ罪が成立する。