横浜地裁の別の裁判体は観念的競合にしていて、控訴審でも維持されています。それが横浜地裁に伝わりません。
東京高裁は併合罪説だと思ってたんですけど、ちょっと観念的競合説に寄りました。ダビングすると併合罪、そうでなければ観念的競合。
撮影行為を強制わいせつ罪(176条後段)の犯罪事実にも、製造罪にも挙げているから、撮影行為はわいせつでもあり、製造でもあるのに、「直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為とは、本質部分において共通性を欠き、社会的意味合いを異にする別個の意思の発現行為であるから」ってよく言えるよな。観念的競合になっている罪は、普通社会的意味合い違いますよね。そもそも違う罪なんだから。
第1 各児童がいずれも13歳未満であることを知りながら、同人らにわいせつな行為をしようと考え、
1 (平成28年11月30日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
平成27年9月21日、神奈川県P市●●●所在の託児所●●●(以下「本件託児所」という。)内において、●●●(当時3歳。以下「A」という。)に対し、その陰部付近を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
もってそれぞれ13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし
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第2 各児童がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら、
1(平成28年11月30日付け追起訴状記載の公訴事実第2)
平成27年9月21日午後10時13分頃、本件託児所内において、Aに対し、その性器を露出させる姿態をとらせ、これを携帯電話機付属のカメラで撮影した上、同月22日午前4時1分頃、同所において、その静止画データ2点を、同携帯電話機から同所に設置されたパーソナルコンピュータを介して、電子メールを使用して送信又は下書き保存する方法により、東京都(以下略)所在のRビル内に設置されたS株式会社が管理するサーバコンピュータ内蔵の記録装置に記録させて保存し
もって第2の1について衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造したものである。
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なお、弁護人は、各強制わいせつ罪と各児童ポルノ製造罪とは観念的競合であると主張するが、直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為とは、本質部分において共通性を欠き、社会的意味合いを異にする別個の意思の発現行為であるから、両罪は観念的競合の関係ではなく、併合罪の関係にある。
東京高裁h30.1.30
原判決は,同一機会の犯行に係る強制わいせつ(致傷)罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係について,被害児童に姿態をとらせてデジタルカメラ等で撮影した行為が強制わいせつ(致傷)罪に該当する場合に,撮影すると同時に又は撮影した頃に当該撮影機器内蔵の又は同機器に装着した電磁的記録媒体に保存した行為(一次保存)を児童ポルノ製造罪とする場合には,これらを観念的競合とし,一次保存をした画像を更に別の電磁的記録媒体に保存した行為(二次保存)を児童ポルノ製造罪とする場合には,併合罪としていると解される(原判決は,罪数判断に当たり,強制わいせつの態様をも併せ考慮していると考えられる。)。いずれにせよ,わいせつな姿態をとらせて撮影することによる強制わいせつ行為と当該撮影及びその画像データの撮影機器に内蔵等された記録媒体への保存行為を内容とする児童ポルノ製造行為は,ほぼ同時に行われ,行為も重なり合うから,自然的観察の下で社会的見解上一個のものと評価し得るが,撮影画像データを撮影機器とは別個の記録媒体に複製して保存する二次保存が日時を異にして行われた場合には,両行為が同時に行われたとはいえず,重なり合わない部分も含まれること,強制わいせつ行為と児童ポルノ製造行為とは,前者が被害者の性的自由を害することを内容とするのに対し,後者が被害者のわいせつな姿態を記録することによりその心身の成長を害することを主たる内容とするものであって,基本的に併合罪の関係にあることに照らすと,画像の複製行為を含む児童ポルノ製造行為を強制わいせつとは別罪になるとすることには合理性がある。原判決の罪数判断は,合理性のある基準を適用した一貫したものとみることができ,理由麒甑はなく,具体的な行為に応じて観念的競合又は併合罪とした判断自体も不合理なものとはいえない。
横浜地方裁判所平成29年12月26日
上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官亀卦川健一、同田中惇也、主任弁護人中野憲司、弁護人金子泰輔各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第1 各児童がいずれも13歳未満であることを知りながら、同人らにわいせつな行為をしようと考え、
(4) 別表1―5記載のとおり、同年1月21日から同年2月21日までの間、前後4回にわたり、●●●(当時1歳。以下「F」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
(5) 別表1―6記載のとおり、同年1月20日及び同年2月19日の前後2回にわたり、●●●(当時1歳。以下「G」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影しもってそれぞれ13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし
第2 各児童がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら、(4) 別表2―5記載のとおり、同年1月21日午前5時57分頃から同年2月21日午前5時12分頃までの間、前後4回にわたり、Fに対し、他人がFの性器等を触る姿態及びその性器等を露出させる姿態をとらせ、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し、その動画データ合計5点を電磁的記録媒体である同携帯電話機内蔵の前記記録装置に記録して保存し
(5) 別表2―6記載のとおり、同年1月20日午後10時19分頃から同日午後10時21分頃までの間及び同年2月19日午後11時55分頃から同日午後11時56分頃までの間の前後2回にわたり、Gに対し、他人がGの性器等を触る姿態及びその性器等を露出させる姿態をとらせ、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し、その動画データ合計4点を電磁的記録媒体である同携帯電話機内蔵の前記記録装置に記録して保存しさらに、同月4日頃、神奈川県内又はその周辺において、前記第2の4(1)ないし(4)のデータ合計14点を同携帯電話機内蔵の記録装置から同携帯電話機に装着した電磁的記録媒体であるマイクロSDカードに記録して保存し、もって第2の1について衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し、第2の2ないし4について他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造し
たものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の1ないし4の各所為(第1の2及び3(1)ないし(5)は別表の番号ごと)は、いずれも平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段に、判示第2の1の所為は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号に、判示第2の2ないし4の各所為(第2の2、3(1)ないし(5)及び4(1)ないし(4)は別表の番号ごと)は、いずれも同法7条4項、2項、2条3項2号、3号にそれぞれ該当するが、判示第2の各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し、前記の前科があるので刑法56条1項、57条により判示第1及び第2の各罪の刑についてそれぞれ再犯の加重をし、以上は同法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の3(2)別表1―3番号4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中240日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
なお、弁護人は、各強制わいせつ罪と各児童ポルノ製造罪とは観念的競合であると主張するが、直接的なわいせつ行為とこれを撮影する行為とは、本質部分において共通性を欠き、社会的意味合いを異にする別個の意思の発現行為であるから、両罪は観念的競合の関係ではなく、併合罪の関係にある。
(求刑 懲役18年、弁護人の科刑意見 懲役10年)
第1刑事部
(裁判長裁判官 深沢茂之 裁判官 伊東智和 裁判官 澁江美香)
別表(省略)