16歳未満の者に対する映像送信要求罪が伴う場合の、不同意わいせつ罪(176条3項)の着手時期


高松高裁では、「このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。」ということで、要求行為を不同意わいせつ罪(176条3項)の実行行為としています。

不同意わいせつ、16歳未満の者に対する映像送信要求、性的姿態等撮影、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、不同意性交等被告事件
松山地判令和6年9月24日D1-Law.com判例体系〔28330040〕

(罪となるべき事実)
 被告人は、A(当時14歳。氏名は別紙記載のとおり。)が16歳未満の者であり、かつ、自らが前記Aの生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら
第1 正当な理由がないのに、令和5年10月24日午後7時34分頃から同日午後7時41分頃までの間、愛媛県(以下略)被告人方において、前記Aに対し、自己が使用する携帯電話機のアプリケーションソフト「B」のメッセージ機能を利用し、「あそこの見せあいってできます?」「写真ですねー」などと記載したメッセージを送信し、その頃、同人にこれらを閲覧させ、もって性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信することを要求し、同日午後10時24分頃、同人に、その陰茎を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する撮影機能付き携帯電話機で撮影させ、同日午後10時27分頃、その画像データ1点を同携帯電話機から前記「B」を利用して被告人が使用する携帯電話機に送信させ、その頃、同画像データ1点をC株式会社が管理する日本国内に設置されたサーバコンピュータ内に記録、保存させ、もって16歳未満の者に対し、わいせつな行為をし、13歳以上16歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影する行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。

(法令の適用)
罰条
  判示第1の所為 不同意わいせつの点 刑法176条3項、1項(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
  16歳未満の者に対する映像送信要求の点 刑法182条3項2号(令和5年法律第66号附則3条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
  性的姿態等撮影の点 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項4号(1号イ)(同法附則2条前段により「拘禁刑」を「懲役」とする。)
児童ポルノ製造の点 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項(2条3項3号)
科刑上一罪の処理
  判示第1 刑法54条1項前段、10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから、1罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)

高松高裁r7.2.13
第2 訴訟手続の法令違反の主張について
   論旨は、原判示第1の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、併合罪の関係にあるにもかかわらず、検察官は16歳未満の者に対する映像送信要求罪についても1個の公訴事実として起訴したのであるから、原審裁判所としては訴因の特定を欠くものとして公訴棄却の判決をすべきであるのに、これを看過した原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというのである。
   しかしながら、原判示第1の各罪について公訴を提起した令和6年2月15日付け起訴状記載の公訴事実第1は、前記各罪を構成する犯罪行為についてその犯行日時を明確にして他の犯罪事実と識別し得る程度に特定しており、訴因の特定を欠くものとはいえない。
   訴訟手続の法令違反に関する論旨は理由がない。
第3 法令適用の誤りの主張について
 1 原判示第1の事実について
   論旨は、原判示第1の所為のうち、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、その他の不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪及び児童ポルノ製造罪と併合罪の関係にあるにもかかわらず、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、仮に併合罪関係にはないとしても、16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、不同意わいせつを目的にその手段として行われたものであり、不同意わいせつ罪と牽連犯の関係にあるから、観念的競合の関係にあるとした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
   そこで検討すると、原判示第1の不同意わいせつ罪は、当時30歳の被告人が、SNS上に性交相手を募集する内容の投稿をしていた当時14歳のAに対し、ダイレクトメッセージを送って自らがその相手となることを持ち掛けて待合せ場所を決めるなどした後、Aの陰茎を露出して写真を撮影してその画像を被告人に送ることを要求するメッセージを送信し、Aにこれを了承させ、その約3時間後に、Aに陰茎を露出させてそれを撮影させ、画像データを被告人に送信させたことにより行われたものである。このように原判示第1は、刑法176条3項のわいせつな行為としてAの行為を利用したものであるが、被告人は、前記のような状況にあったAに対し、自らの勃起した陰茎の写真を送るなどしながらAにも勃起した陰茎の写真を撮影して送信するよう求めるなどの性的意味合いの強い具体的な要求をし、すぐさまAに了承させ、Aに要求どおりの行為をさせており、このような事実関係の下において、本件の被告人のAに対する要求行為は、Aの性的自由の侵害を生じさせる客観的な危険性が認められるものであり、不同意わいせつ罪の実行行為に当たるとみることができる。
   そうすると、原判示第1の不同意わいせつ罪における実行行為に当たる、Aに対し陰茎を露出した姿態をとってその写真を撮影して送信することを要求した被告人の行為と、16歳未満の者に対する映像送信要求罪の実行行為に当たる要求行為は、同時に行われ、重なり合うものであり、それぞれにおける被告人の動態は社会的見解上1個のものといえるから(最高裁昭和47年(あ)第1896号同49年5月29日大法廷判決・刑集28巻4号114頁、最高裁平成19年(あ)第619号同21年10月21日第一小法廷決定・刑集63巻8号1070頁参照)、原判示第1の16歳未満の者に対する映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪及びこれと観念的競合の関係にある他の2罪は、刑法54条1項前段の観念的競合の関係にあるというべきである。原判決第1の事実について法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。

 東京高裁の事例では、「陰茎を露出した姿態をとらせてその姿態を撮影させて被告人が使用する携帯電話機宛てに送信させ、被告人において閲覧するなどの利用が可能な状態に置いたものであることを指摘し、一連の行為がわいせつ行為に当たる。」という原判決を追認しているし、映像送信要求罪と、不同意わいせつ罪(176条3項)等とが牽連犯とされているので、要求時点では不同意わいせつ罪の着手を認めていません

東京地裁r06.11.29
第2
 被告人は、B(当時歳)が16歳未満の者であり、かつ、自らが B の生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることを知りながら、正当な理由がないのに、令和6年月日午前7時18分頃、被告人方において、アプリケーションソフト「」のメッセージ機能を利用して、 B に対し、同人からの同人の陰茎が勃起してる旨のメッセージを受け、「見せなさい」と記載したメッセージを送信して、その頃、同人にこれを閲読させ、もって性的な部位を露出した姿態をとってその映像を送信するよう要求し、
同日午前7時18分頃から同日午前7時19分頃までの間に、内の同人方居室において、同人に陰茎を露出した姿態をとらせ、これを同人が使用する携帯電話機で撮影させた上、その静止画データ1点を同携帯電話機から前記「LINE」を利用して被告人が使用する携帯電話機に宛てて送信させ、その頃、当時の株式会社が日本国内に設置して管理している電磁的記録媒体であるサーバコンピュータ内に記録させて保存し、もってわいせつな行為をするとともに、性的姿態等を撮影し、衣服の一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造したものである。

(争点に対する判断)
2 弁護人の主張(1)について
  令和6年7月24日付け追起訴状の公訴事実には、罰条として記載された各法条の構成要件に該当する事実が、日時場所等を特定して具体的に記載されており、個々の訴因を特定するのに十分な記載があるといえる。弁護人は、検察官が併合罪関係にあり、単一性を欠く事実について1個の訴因として訴追しているとも主張するが、法令の解釈適用は裁判所の専権であり、公訴事実に含まれる訴因の罪数関係は、裁判所において判断すれば足りる事柄である。前記起訴状の公訴事実に係る訴因は特定されている以上、その公訴提起の手続に違法はない。したがって、弁護人の主張(1)は採用できない。

4 弁護人の主張(3)について
 (1) 同主張①について
   16歳未満の者に対する映像送信要求罪は、16歳未満の者に対する性被害を未然に防止し、その性的自由の保護を徹底する観点から、16歳未満の者が性被害に遭わない環境にあること(性的保護状態)を保護法益としているもので、同罪と不同意わいせつ罪は、その保護法益を異にする。したがって、16歳未満の者に対する映像送信要求罪に該当する行為が行われ、引き続き、当該16歳未満の者に対する不同意わいせつ行為が行われた場合、両罪が成立するものと解するのが相当である。したがって、弁護人の主張(3)①は採用できない。
 (2) 同主張②について
   被告人は、自分とは別の場所にいる被害者に対し、被害者に陰茎を露出した姿態をとらせてその姿態を撮影させ、被害者にその画像データを被告人の使用する携帯電話機に送信させている。被害者に性的な姿態をとらせて撮影させる行為は性的な意味合いが強く、同行為がわいせつ行為に該当することは明らかであるが、そのようにして撮影された画像を、被告人の使用する携帯電話機に送信させ、被告人において性的対象として閲覧するなどの利用が可能な状態に置く行為は、被害者の性的自由に対する侵害の程度をより高める行為であり、同行為がわいせつ行為に該当することも明らかである。したがって、弁護人の主張(3)②は採用できないo
・・・

科刑上一罪の処理  
判示第2について、刑法54条1項前段、後段、10条(不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノ製造は、1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合であり、16歳未満の者に対する映像送信要求と、不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノ製造は、手段結果の関係があるので、結局以上を一罪として最も重い不同意わいせつ罪の刑で処断)
           なお、弁護人は、被害者に、性的姿態を撮影した画像データを被告人の使用する携帯電話機に送信させる行為が、わいせつ行為には当たらないことを前提に、判示第2の各罪は併合罪の関係に立つ旨主張するが、同行為もわいせつ行為に当たることは、(争点に対する判断)4において説示したとおりである。そうすると、本件の不同意わいせつ、性的姿態等撮影及び児童ポルノの製造には重なり合いが認められ、これらは、社会的見解上1個の行為といえるから、観念的競合の関係に立ち、これらの手段として行われた16歳未満の者に対する映像送信要求とは、牽連犯の関係に立つというべきである。

東京高裁r07.7.4
3原判示第2の事実に関する不法な公訴受理の主張について
論旨(弁護人)は、原判示第2に関し、原判決が、①映像送信要求、②不同意わいせつ、③性的姿態等撮影及び④児童ポルノ製造を一つの公訴事実として記載した起訴状による公訴を棄却しなかったことについて、各罪は、行為の重なり合いがないか一部が重なるにとどまるから併合罪の関係に立つとして、公訴事実は単一性を欠き、訴因が不特定であるから、公訴は棄却されるべきであり、それをしなかった原審は、不法に公訴を受理したものである、という。
しかし、原判示第2に係る令和6年7月24日付け追起訴状記載の公訴事実の記載を見るに、論旨と同趣旨の原審弁護人の主張に対する原判断のとおり、検察官が①から④までの各罪について罪となるべき事実としてそれぞれいかなる事実を主張しているかは、その日時、場所、方法等の記載により十分に特定されている。
したがって、その公訴提起の手続に違法があるとはいえず、原審が不法に公訴を受理したとはいえない。
・・・・
(2)論旨(弁護人)は、次に、原判決が原判示第2の不同意わいせつ罪及び性的姿態等撮影罪の成立を認めたことに関し、データを送信させ記録保存する行為はわいせつ行為ではなく性的姿態等撮影罪の成立範囲は、撮影に着手してから撮影するまでであって、記録保存までは含まないのに、原判決は、画像データを被告人が使用する携帯電話機宛てにLINEアプリを使用して送信させ、事業者のサーバコンピュータ内に記録させて保存した行為を含めて両罪の成立を認めており、法令適用の誤りがある、という。
このうち、不同意わいせつ罪については、原判決は、所論と同趣旨をいう原審弁護人の主張に対し、被告人は、別の場所にいる被害児童に対し、陰茎を露出した姿態をとらせてその姿態を撮影させて被告人が使用する携帯電話機宛てに送信させ、被告人において閲覧するなどの利用が可能な状態に置いたものであることを指摘し、一連の行為がわいせつ行為に当たる旨判示している。
行為者が、性的な部位を露出した姿態をとらせ、自身が所持するカメラ等の機器で撮影した場合、その画像は直ちに記録保存されて閲覧するなどの利用が可能となるのに対し、
㋐別の場所にいる者に撮影させた上で、
㋑その画像を送信させて事業者のサーバコンピュータ内に記録させて保存した
本件では、㋑の行為が加わることで被告人において閲覧鑑賞するなどの利用が可能な状態となったのであるから、その一連の行為全体が性的な意味合いを有し、被害児童に対するわいせつ行為に当たるとした原判決の判断は、相当である。
次に、性的姿態等撮影罪は、「撮影する行為」を対象とするものであるから、本件のように撮影対象者を利用して行う場合についても上記㋑の行為はその要素ではない。
原判決も、㋑の行為が性的姿態等撮影罪に該当する旨の判示をしたものではなく、被害児童に原判示の撮影をさせた行為が同罪に当たるとしたものと理解され、したがって、法令適用の誤りはない。