児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

女性の胸を触った行為につき「触ったのはおはらいの一環」「胸を触ったのは事実だが、よこしまな気持ちでやったことではない」という弁解は有効か?

 警察は、大法廷h29を性的な行為があれば性的意図不要という理解だと思います。

 正確に言えば、大法廷H29は、わいせつ行為を

強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為
②行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為

に大別して、口淫とか肛門性交とかは①で、乳房陰部を触るような婦人科でもあり得る行為については②という分類をして、②については「個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」としています。
 ①②の境界線が不明確ですが、乳房触る行為というのは、婦人科の治療でもあり得る行為なので、②の分類だと主張して、性的意図はない=宗教目的だった(そういう宗教行為もある)と主張すれば、性的意図がないから強制わいせつ罪から外れる可能性があります。
 多くの学説のように性的意図一律不要説にして、正当行為として治療目的とか宗教目的を主張させるという解釈もあり得るのですが、最高裁はそれは回避しています。

https://this.kiji.is/322220229990630497
同署によると、容疑者は「触ったのはおはらいの一環」と容疑を否認している。
 容疑者は同県弥富市佐古木6丁目で「講」という宗教団体を主宰。地元に約50人の信者がいるという。
 逮捕容疑は昨年12月9日と24日、佐古木6丁目の団体の集会所で、おはらい中に女性の胸を触った疑い。
 女性はおはらいに数年通っており、指圧などを受け、毎回約5千円の謝礼を払っていた。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018010690153143.html
 逮捕容疑では昨年12月9日と同月24日、同県弥富市佐古木で主宰する宗教施設で、施設を訪れた女性(33)の体を触るなどわいせつな行為をしたとされる。
 署によると「胸を触ったのは事実だが、よこしまな気持ちでやったことではない」と供述している。女性が今月4日に署に被害届を出し、発覚した。容疑者は信者約50人の「講」という宗教を主宰しているという。

中日新聞

大法廷h29.11.29
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256
判示事項  強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
裁判要旨  刑法(平成29年法律第72号による改正前のもの)176条にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はあり得るが,行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない。


http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/256/087256_hanrei.pdf
ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。
(5) もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。
その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。
そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。
したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。
しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。