児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

 執行猶予の刑期の上乗せ

 取り消されたら損するぞということで、刑期が上乗せされています。

原田 國男 執行猶予と幅の理論 (井田良教授退職記念号)
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AA1203413X-20170224-0001.pdf?file_id=122541
6 執行猶予の刑期の上乗せ
 次に、執行猶予の宣告刑の刑期については、実刑とする場合の刑期より長めで、求刑どおりとするのが実務の大勢である。しかし、他方、実刑の刑期と同様とするか求刑より少し短めにする実務も存在する。高裁で地裁の判決をみていると、このような例も時々みられる。おそらく、裁判官の考え方なのであろう。昭和43 年1 月から6 月の間に東京地裁で言い渡された被告人のうち詐欺罪で処断された268 人及び傷害罪で処断された291 人について調査した結果によれば24)、詐欺罪と傷害罪について、執行猶予が付された場合で求刑どおりが77.2%、1 段階低い刑(例えば、懲役1 年の求刑で懲役10 月に下げて執行猶予とする場合)が12.9%、2 段階低い刑(例えば、懲役1 年求刑で懲役8 月に下げて執行猶予とする場合)が9.1%、3 段階以下が0.8%である。これによると、刑期が求刑を下回る執行猶予は、それでも22.8%はあることになる。この調査は、かなり古い時期のもので現在では参考にならないという感想もあるかもしれないが、大阪刑事実務研究会での議論でも、「求刑の内容が、特に執行猶予の取消し等の際に不当な影響をもたらさない、妥当な範囲のものであれば、基本的には求刑と同じ主刑を定めてよいとする意見が、相対的には多かったが、そのほか、仮定的な実刑を想定した上、それに近い主刑を宣告する運用をするのが相当とする意見、あるいは、実刑の場合と同等にまでは扱わないが、求刑が相当であってもそれより短い刑を宣告するという意見など、かなりの幅が見られた。」としている25)。筆者もかつてこの実務について不合理ではないとした上で、
例外的に求刑を下回る刑期とするのは、多額の損害賠償がなされたことを刑期の面でも考慮するのが妥当であるとき、一方の共犯者に対してその刑期を求刑より大幅に下げた実刑としたため、それとある程度のバランスを取る必要があるとき、求刑自体が事案から見て重過ぎると考えられるときなどを挙げた26)。
最後の場合の具体例として、来日外国人の不法残留の事案において、不法残留の期間が長期であるため、求刑も懲役2 年6 月であったが、その間、ひたすらまじめに働き、祖国の家族に多額の送金を行い、日本人の雇い主も公判廷で被告人のため嘆願していることから刑期を2 年に減じたことがある。多額の送金はそれ自体不法残留の果実であるから、良い情状とはいえないが、全体として求刑が重過ぎると感じたのである。それ自体微調整にすぎず、本質的な対応ではないが、執行猶予の場合、刑期は求刑どおりということが絶対の原則ではないことを示している。求刑どおりとする理由として、刑の執行という威嚇によって被告人に対する改善更生のための心理的強制の効果を上げることを狙ったものであると説明されている27)。取り消されると最初から実刑になる場合よりも長い刑期で服役しなければならないという威嚇をするのは合理的だというのである。これに加えて、実刑か執行猶予かギリギリ迷って、猶予にした途端に、刑が全体として各段に軽くなってしまうので、刑期をやや上乗せしてバランスをとるとか、いったん執行猶予になって再犯等で取り消される場合、最初から実刑となる場合よりも長期の矯正処遇が必要であるからといった説明もある28)小池は、幅の理論が妥当する以上、宣告刑は執行猶予が取り消されて執行されることを想定した上で、責任の幅に収まっていなければならないとする。求刑自体が責任の幅を超えることは考えにくいから、求刑どおりの執行猶予自体は、幅の理論に適合していることになる。その者の再犯のおそれの大きさが現実の事態により示されたとの評価が類型的に可能であり、それは、幅の理論の下で、幅の範囲内で刑を重くすべき状況にほかならないとして、「度が過ぎない限り、正当化しうる」とする29)。もっとも、この点は、前記の鹿野が指摘する②⒝のように、犯行自体の罪の重さはその時点で決まり、行為後の事情によってこれを変えないというのであれば、犯行後の再犯によりすでに確定した評価を変えることにならないかという疑問は残る。