こうやってない弁護人が散見されるのですが、
被告人の一連の性犯罪・福祉犯について、一部が地裁、一部が家裁となって、片方(a罪)が執行猶予、他方(b罪)が実刑の場合は、被告人がどう判断するかは別として、次のような説明をして、弁護人は両方控訴を勧めるべきである。
1 総合的な量刑の見通し
執行猶予の場合(a罪)は、心理的強制のために、長めの刑期となっている。
事実関係を争っていなければ、一方が実刑(b罪)の場合、併合審理されれば、両事件まとめて実刑判決となる。
その場合のa罪の量刑は、実刑を前提とするので、精密に決まる。b罪が比較的重い場合には、a罪の刑が埋没して分からないこともある。
これが併合審理の利益。
両判決を総合して、こういう見通しを立てる必要がある。2 2号取消
b罪が先行した場合、b罪の実刑判決を確定させると、a罪に執行猶予を付し得ない第25条(執行猶予)
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者a罪が先行した場合、a罪の執行猶予判決を確定させても、後にb罪の実刑が確定すると取り消される。
刑法第26条(執行猶予の必要的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。3 裁判例
東京高裁平成18年3月6日
=執行猶予付判決に控訴して、並行事件の実刑判決を加味して刑期が大幅に短縮された事例4 まとめ
1に述べたように、執行猶予の場合の量刑の趣旨や併合審理の利益を考えると、執行猶予取消という形で、a罪が実刑判決となることは、刑期の点で被告人に不利益。
どれくらい不利益かというと、やったことの責任以上の刑期に服することになるということだから、志願囚でもなければ納得できないくらいの不利益。
裁判官の論文も認める不都合。裁判例コンメンタール刑法第2巻p117
趣旨
本号は、執行猶予を言い渡した判決の確定前に犯した他の罪について禁錮以上の実刑判決が確定したことを理由に執行猶予を取り消すといういう趣旨のものである。前号と異なり、執行猶予に内在するものであるか否かは見解は分かれ得るが、社会内で犯罪者の改善・更生を図るという執行猶予制度の趣旨からすれば、その犯人に直ちに刑の執行を受けさせるべき事情が生じたときは執行猶予を維持する実質的理由はなく、矯正施設に収容中に執行猶予期間を過ごさせるのは制度の趣旨にももとることは否めない。したがって、本号も合理性があり、もとより二重処罰の禁止に触れるものではなく合憲である(最決昭42・3・8刑集21・2・423)。
(2)「猶予の言渡し前に犯した他の罪」
執行猶予を言い渡した判決の確定前の趣旨である。通常は、45条後段の余罪の関係にある場合がこれに当たる。執行猶予判決の宣告後、その確定前に犯した場合には限られない(東京高決昭54・11・8)。なお、執行猶予の判決の場合には、実刑判決の場合に比べて若干主刑が重くなる傾向があることから、実体法上併合罪の関係にある複数の罪について分離して審理・判決し、執行猶予の付された判決が先に確定して、後に実刑に処せられた罪の判決が確定するということがあり、そのときには、本号で執行猶予の取消しがされることになり、被告人の責めによらない事由によって、結果的に刑が重くなるという不都合が生じ得る。このような点から、主観的併合の場合にはなるべく併合の利益を考慮した取扱いがされるべきであるが、管轄裁判所が異なり併合ができない場合(例えば一方の罪が家庭裁判所の専属管轄のとき)もあり、被告人にとってやや不合理と感じられる結果になることも見受けられないわけではない。それを回避するには、両方控訴して、高裁に両事件の記録を調べてもらって総合的な量刑を決めてもらうしかない。
こういう場合、猶予だからって、確定させてしまうと、取り返し付かないわけです。
その点については、よく調べて欲しいし、結論が出るまで、暫定的に控訴するということも躊躇すべきではないと思います。