児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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青少年条例のわいせつ行為の定義(福岡高裁H26.2.26)

 よくわからないけど、弁護人の主張を丸呑みした定義づけをした上で、控訴棄却しよった。
 結局青少年条例の「わいせつ」の定義については、「その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し,性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為」という要件は不要であって、他方、「心身の未成熟に乗じた不当な手段により,あるいは青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合に限定される」と判示しています。
 同種の判例は大阪高裁に2件あるんだけど青少年条例の手引きに反映されないかなあ。
 なんでこんなに楽に限定解釈をしてくれるのかというと、判例解説に大法廷判決の趣旨はわいせつ行為にも及ぶって書いてあるから。

福岡高裁H26.2.26
4 控訴理由第5について
 論旨は法令適用の誤りの主張として,原判示1の行為について,県条例39条1項,48条1項2号の「わいせつ行為」の処罰規定は憲法違反であり,文面上無効であるから,その行為について被告人は無罪である旨いうのである。
 主張の性質上,他の控訴趣意に先立つて判断するに,同条例は,青少年の健全育成を目的としており,同条例の各種規定の文理からは,同条例39条1項,48条1項2号の規定は,青少年の健全な育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質の行為を禁じたものであって,当該規定にいう淫行又はわいせつ行為とは,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させるなど,青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるものや,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないようなものをいうものと解されるところ,このような解釈は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うとともに処罰の範囲が不明確であるともいえないのであるから,上記規定が憲法の各条項に違反するということはできない。
・・・・・・・
5 控訴理由第4について
 論旨は埋由不備ないし法令適用の誤りの主張として,原判示1の行為について,原判決が,県条例所定のわいせつ行為は,(1)いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり,(2)その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し,性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為である旨説示したことに対して,?の要件は不適切であり,また,同条例にいうわいせつ行為は,心身の未成熟に乗じた不当な手段により,あるいは青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような場合に限定されるのに,原判決はそのような限定を行わないまま,同条例を適用したなどというのである。
 しかし,原判決が(1)の部分を本件についての必要条件として判示したものでない上,原判決は,罪となるべき事実として,「被告人は,単に自己の性的欲望を満たす目的で,当時12歳の被害女性に対して,接吻し・・・」旨認定判示し,同条例所定のわいせつ行為に該当するとしていることは明らかであって,原判決の罪となるべき事実の記載に欠けるところもなければ,法令適用の誤りも存しない(なお,被害女性の年齢等に照らせば,被告人がその心身の未成熟に乗じたこともまた容易に認めることができる)。

阪高裁平成23年6月28日
 控訴理由は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書,控訴趣意補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
第2 法令適用の誤りの主張について
1 違憲の本条例を適用した法令適用の誤りの主張(控訴趣意第1,第2)について
(1)主張の要旨
 ア 青少年に対するわいせつな行為を規制する本条例21条1項は,13歳以上,特に婚姻適齢以上の青少年とその自由意思に基づいて行うわいせつな行為についても,それが結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合を含め,すべて一律に規制しようとするものである。しかし,同条項は,処罰の範囲が不当に広汎にすぎるし,同項にいう「わいせつな行為」の範囲も不明確であって,広く青少年に対するわいせつな行為一般を検挙,処罰するに至らせる危険を有するものであるから,憲法31条に違反する。したがって,原判決第1の行為について,憲法違反の同条項を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある(控訴趣意第1)。
(2)当裁判所の判断
 ア 控訴趣意第1について
 しかし,わいせつな行為を処罰の対象とする本条例が憲法31条に違反しないものであることは,昭和60年最高裁判決の趣旨に徴して明らかである。すなわち,もともと,わいせつ行為とは,いたずらに性欲を興奮又は刺激させ,かつ,普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり,その内容が不明確であるとはいえない。また,本条例にいう「わいせつな行為」についても,あらゆる性的行為がこれに含まれるものと解すべきではない。本条例は,何人も,青少年に対し,みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない(本条例21条1項)と定めているが,ここにいう「わいせつな行為」についても,本条例が青少年の健全な育成を図り,これを阻害するおそれのある行為から青少年を保護することを目的とする(本条例1条)ことからみて,性的な行為のすべてを禁止する趣旨とは考えられない。この点は,昭和60年最高裁判決がいわゆる淫行条例(福岡県青少年保護育成条例)に定める淫行について加えたのと同様の限定を付して解釈されるべきである。そうすると,弁護人がいうような結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合までこれに当たるとはいえない。以上のとおり,上記条項が犯罪構成要件として不明確であるとはいえず,憲法31条に違反するものでないことが明らかである。

阪高裁平成23年12月21日
理由本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書,同訂正書,同補充書(平成23年11月2日付けのもの)に,これに対する答弁は検察官熊谷保作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。
第1控訴趣意中,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反の主張について
1本条例違反(原判示第3の1,同第4の1,同第5の1,同第5の7)について法令適用の誤りをいう主張について
(1)各事実に共通の主張論旨は,
(ア)本条例21条1項の「何人も,青少年に対し,みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。」との規定は,13歳以上,特に婚姻適齢以上の青少年との間で,同人の自由意思に基づいて行うわいせつ行為について,婚姻を前提とした真摯な合意に基づく場合も含めて一律に規制するものであって,処罰の範囲が広範にすぎるし,「わいせつな行為」の範囲は不明確で,広く青少年に対するわいせつ行為一般を検挙,処罰するに至らせる危険を有するから,憲法31条に反している,(イ)最高裁判所昭和60年10月23日判決が,本条例21条1項と同様の処罰規定を設けていた条例の「みだらな性行為」との文言について,限定解釈を加えた上で適法と判断していることに照らすと,同条1項の「わいせつな行為」についても同様に限定解釈する必要があるのは明らかであるのに,原判決はこのような限定解釈をせずに漫然と同条1項を適用しており,違法である,として,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
しかし,(ア)の点については,最高裁昭和60年10月23日大法廷判決(刑集39巻6号13頁)は,福岡県青少年保護育成条例10条1項の規定にいう「淫行」とは,青少年を誘惑し,威迫し,欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当であり,同規定は憲法31条に違反しないと判示しているところ,その趣旨に照らすと,本条例21条1項にいう「みだらな性行為」はもちろん「わいせつな行為」についても,合理的な限定解釈をすることにより明確性が確保されるというべきであるから,本条例の同規定は憲法31条に違反しない。
イ)の点については,上記各事実の被害児童は,いずれも男児であり,当該各行為に至る経緯,行為態様等にも照らすと,被告人は,被害児童を単に自己の歪んだ性的欲望の対象として扱っているとしか認められない事案であり,原判決が上記各事実について「自己の性欲を満たすため」とそれぞれ摘示するのも,そのような趣旨に基づいたものと解されるから,原判決は,本条例21条1項の「みだらな性行為又はわいせつな行為」について,上記判例の趣旨等に鑑み,青少年の健全な育成の観点から問題性の認められないわいせつ行為を除外する限定解釈をしてその適用を行ったものと解されるのであって,本条項の適用が違憲,違法であるとはいえない。