青少年条例が、法律の範囲を超えて、16歳から17 歳までの者の性的行為の自由及びそれらの者との性的行為の自由を不当に制限するとして規定違憲をいう点は、同条例が、青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるから、前提を欠く(最決R6.4.8)
原判決はR5.12で、確定をR6.4以降に延ばすというミッションは達成。ほとんどは4ヶ月以内に棄却されるし、事実誤認だけだと上告趣意書差出最終日から2週間くらいで棄却されることもある。
そういうときは、控訴理由の段階で、最高裁の判断がない論点を挙げる。
よくわからないので、文献を羅列するだけの主張になっている。上告趣意書起案段階で憲法学者のコメントをもらって構成を修正している。
なお、同じ控訴理由について、別件の東京高裁R6.4.10でさらに詳しい判断が出ている。
上告理由第1 法令違反~17歳との性行為は、国法上許容されるに至っているから、憲法94条違反で無効となり、刑の廃止による免訴(刑訴法337条2号)にすべきであった。 4
1 青少年条例は刑法の性犯罪規定とは補充関係にある 4
2 青少年の性的行為の実情 9
3 最近の未成年者法の動き 11
4 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件大法廷判決(最大判S60.10.23)の合憲理由の大半が失われたこと。 13
5 憲法94条違反 17
木村光江「性的自由に対する罪」再考法曹時報第76巻01号p19 17
6 本件被害青少年の成熟度 28
7 刑の廃止 30
8 17歳後半の青少年との性行為を懲役刑を以て規制する青少年条例は「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから無効である。 33
9 原判決とその問題点 37
上告理由第2 憲法違反~国法上許容されることになった17歳との性行為を条例で懲役刑を以て規制することは、青少年の性的行為の自由+その相手方の性的行為の自由を不当に制限するものあって、条例の当該部分は憲法13条・24条に違反して無効である。 41
1 原判決は根拠規定も合憲性判定基準も示さずに合憲とした 41
憲法と青少年―未成年者の人権をめぐって2021 42
2 青少年側の性的権利について 43
(1)未成年者の人権享有主体性 43
佐藤幸司 日本国憲法論 第2版P155 44
米沢「未成年者の自由」憲法の争点[旧]〔新版〕71頁) 47
(2)青少年側の性的権利について~最高裁の判断はまだ無い 49
憲法と青少年―未成年者の人権をめぐって2021 50
村西良太「刑罰法規の不明確性と広範性―福岡県青少年保護育成条例事件―」『憲法判例百選Ⅱ 第7 版』(別冊Jurist No.246)有斐閣, 2019, pp.240-241 51
(3) 現行刑法は、青少年側の決定権を重視して、13~15歳に対する性的行為を明文で許容したこと(5歳差ルール) 52
【逐条説明】刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案 54
梶検事の説明 55
城祐一郎元検事も「対等性」を理由とする。 56
米沢「未成年者の自由」憲法の争点[旧]〔新版〕71頁) 58
3 根拠規定 60
(1)原判決は根拠規定を示さない。 60
(2) 幸福追求権(13条)侵害 61
①文献 61
ア 最高裁判例解説s60 61
イ 安部哲夫「青少年の性的保護と刑事規制の限界「青少年保護育成条例」を中心に 63
ウ 米沢広一 子ども,親,政府--アメリカの憲法理論を素材として神戸学院法学15巻3号 65
オ 横田耕一:九州大学教授 ジュリスト853号 44頁 1986年2月1日発行 特集・青少年保護育成条例大法廷判決 青少年に対する淫行の条例による規制と憲法 68
カ 福岡 久美子「青少年保護条例による性的自由の制限」 70
キ 羽渕雅裕「親密な人間関係と憲法」 71
ク 竹中勲:京都産業大学教授法学教室176号 49頁 1995年5月1日発行 重点講座【現代人権展望】〔2〕親密な人的結合の自由(Ⅰ 自由と自己決定) 72
②裁判例では青少年側の性的行為の自由への言及はない 74
※名古屋高裁s53.10.25*4 74
※福岡高裁s55.10.30*5 74
(3) 家族生活における個人の尊厳と両性の平等(24条)侵害 74
※松井茂記『日本国憲法 第3 版』有斐閣, 2007, pp.549-550 75
(4)青少年のリプロダクティブ・ヘルス / ライツ(子どもの権利条約34条) 77
4 青少年の性的自己決定権の限界・合憲性判定基準 78
辻村みよ子 憲法第7版p107 79
佐藤幸治 人権の観念と主体 79
岩村正彦 岩波講座 現代の法14 自己決定権と法 P165 81
5 青少年の相手方(被告人)の性的権利について~最高裁の判示がないこと 84
(1) 幸福追求権(13条)侵害 84
①文献 84
ア 最高裁判例解説s60 84
②裁判例 86
※名古屋高裁s53.10.25*6 86
※福岡高裁s55.10.30*7 86
(2)本件について 86
上告理由第3 青少年のリプロダクティブ・ヘルス / ライツ(子どもの権利条約34条)違反 87
最決r6.4.8
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人○○の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人奥村徹の上告趣意のうち、青少年条例○条、○条が、法律の範囲を超えて、16歳から17 歳までの者の性的行為の自由及びそれらの者との性的行為の自由を不当に制限するとして規定違憲をいう点は、同条例が、青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって、同法41 4条、38 6条1項3号、18 1条1項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
令和6年4月8日
最高裁判所第三小法廷
東京高裁令和6年4月10日
上記(2)の主張は、控訴趣意書差出最終日経過後の新たなものであるから、不適法と解されるが、 上記(1)の主張の前提となることにも鑑みて、職権で検討する。
所論は、本件各罰則規定は、いずれも憲法13条が保障する青少年の性的自由を一律かつ広汎に制約し、 しかも青少年の性的行為を相手方の処罰により禁止するものであり、このような強度の規制に正当性はなく、規定自体が憲法13条、 24条に違反し文面上無効である、そうでなくとも、当時○○歳で性的行為に対する十分な判断能力がある被害者に保護の必要はないから、本件各罰則規定を適用して被告人を処罰することは、被害者の性的自由に対する過度の介入であり、憲法13条に違反する、 というのである。
検討するに、両条例における本件各罰則規定は、いずれも、 18歳未満の青少年は、その心身の未成熟などから、 性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっているといえないことなどを踏まえて、青少年の育成を阻害するおそれのある行為を禁止すべく、 「みだらな性行為」(A県条例) ないし 「みだらな性交」 (B県条例)を処罰の対象としたものと解され、結婚その他正当な理由がないのに、単に自己の性的欲望を満たす目的でする性行為ないし性交は、この要件を満たすものである。
所論がいうように、かかる罰則規定の適用により、青少年の性的行動に事実上の制約を及ぼす面があるとしても、本件各罰則規定は、いずれも青少年の育成を阻害するおそれのある行為を禁止する目的に基づきこれを達するに必要な罰則を定めたものといえ憲法13条、24条に違反するものでないことはもとより、本件各行為に適用することが憲法13条に違反するともいえない。
所論は、令和5年改正に係る刑法176条3項、 177条3項においては、行為者と相手方の年齢差が5歳以上でない限り13歳以上16歳未満の者とのわいせつな行為、性交等が許容され、 青少年の性的自由が認められているというが、上記の刑法改正においても16歳未満の者には性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっているといえないことが前提になっているものであり、 上記の刑法改正によっても、本件各罰則規定の文面及び適用に係る憲法適合性の判断が左右されるものではない。
本件の被害者に性的行為に関し十分な判断能力がある旨をいう所論についても、 原審記録を調査しても、本件の被害者が本件各罰則規定における青少年から除外されるべき事情は認められない。