児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp3@okumura-tanaka-law.com)

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タクシー運転手による女性客への準強制わいせつ行為により220万円が認容された事例(東京地裁h24.9.13)

被害者はこういう裁判例の原告代理人をメモして下さい。

損害賠償請求事件
東京地方裁判所平成23年(ワ)第37369号
平成24年9月13日民事第50部判決
口頭弁論終結日 平成24年7月12日

       判   決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 永冶衣理
被告 タクシー株式会社
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 本村俊学
被告 C
       主   文
1 被告らは,原告に対し,各自220万円及びこれに対する平成21年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


       事実及び理由

第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して550万円及びこれに対する平成21年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張等
1 事案の概要
 本件は,原告が,平成21年5月16日に被告タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員であった被告C(以下「被告C」という。)の運転するタクシー内において,飲酒の影響等により抗拒不能な状態にあったことに乗じて,被告Cが準強制わいせつ行為に及び,原告が肉体的,精神的苦痛を被ったとして,被告Cに対し,民法709条に基づき,慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円の賠償並びに不法行為日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告会社に対し,民法715条に基づき,被告Cと連帯して同額の賠償等を求める事案である。
2 請求原因(原告の主張)
(1)当事者等
 被告会社は,タクシー運送事業等を営む株式会社を目的とする株式会社であり,平成21年5月16日当時,被告Cをタクシー運転手として雇用していた。
(2)被告Cの原告に対する準強制わいせつ事件(以下「本件事件」という。)
 被告Cは,平成21年5月16日午後4時頃,東京都葛飾区,江戸川区墨田区又はその周辺に停車したタクシー内において,原告(当時23歳)が前日から当日朝にかけて飲酒の影響等により抗拒不能の状態にあるのに乗じ,原告のパンティを脱がせてその陰部を手指でもてあそぶなどし,もって原告の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした。
(3)被告会社の責任
 被告Cは,被告会社のタクシー営業中に顧客として乗車した原告に対して準強制わいせつ行為に及んでおり,同不法行為は時間的,場所的にもタクシー運送事業の執行行為の最中になされたものであって,被告会社の事業の執行についてなされたといえる。
(4)本件事件による損害
 原告は,タクシーを見るたびに本件事件を思い出すなど,本件事件の恐怖,悔悟,不快の気持ちが忘れられず,一人でタクシーに乗車できない状態になったほか,本件事件を突然思い出したり,睡眠導入剤の服用が必要になったりしたこともあった。これらの事情を考慮すると,本件事件により原告が被った肉体的,精神的苦痛の慰謝料は500万円を下らない。また,原告は,本件訴訟追行のため弁護士を選任し,その弁護士費用として50万円の支払を約束した。
(5)よって,原告は,被告C及び被告会社に対し,民法709条ないし715条に基づき,連帯して550万円及びこれに対する不法行為日の翌日である平成21年5月17日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告らの認否及び反論
(被告Cの認否及び反論)
(1)本件事件
 被告Cは,平成21年5月16日,タクシーに乗車して勤務中,新宿区α町において,男性客とともに原告をタクシーに乗車させ,男性客が降りた後,原告に対し,「β迄3000円で走るからエッチはしないから触るだけでいいから触らして」と言ったところ,原告から「触るだけだったらいいよ」と同意が得られた。そこで,被告Cは,住宅地のような場所にタクシーを停め,運転席から原告が座る後部座席に移り,同所において,原告の陰部を触り,指を入れるなどしたが,原告から生理が始まった旨を告げられたことから,陰部を触るのをやめ,再びタクシーを運転して原告を目的地まで連れて行き,原告からタクシー料金3000円を受領したものである。
 また,原告は,タクシーに乗った後,眠っておらず,被告Cと話をしていたのであり,上記男性客がホストであり,同月15日から酒を飲み,ホテルに宿泊していたことなどを被告Cに話していた。原告は,刑事事件において,検察官に対して酒に酔っていた状態で(身体を)触ることについて承諾していたかもしれない旨を述べたと証言しており,このような供述をしていたことからすれば,原告は被告Cのわいせつ行為に対して同意していたことを自認していたと認められる。
(2)原告の損害については否認。
(被告会社の認否及び反論)
(1)当事者
 被告会社がタクシー運送事業を営む株式会社であり,平成21年5月当時,被告Cを乗務員として雇用していたことは認める。なお,被告Cは,同年6月15日に被告会社を退職している。
(2)本件事件
 不知。ただし,原告の本件事件前日から本件事件当日の行動からすれば,原告が本件事件時に抗拒不能な状態にあったことは疑いがあるし,被告Cの乗務日報(乙1)及び刑事事件における公判供述(甲10)も考慮すれば,原告が被告Cに明示の承諾ないし推定的承諾をしていたと認めるべきである。
(3)被告会社の責任
 争う。被告会社のタクシー運送事業と原告が主張する被告Cの不法行為との間に関連性はなく,被告Cの不法行為が被告会社の「事業の執行について」されたものにあたらない。
(4)原告の損害については否認。
4 争点
(1)被告Cの準強制わいせつ行為の有無(原告の承諾の有無)
(2)被告会社の責任
(3)原告の損害
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告Cの準強制わいせつ行為の有無)について
(1)証拠(甲5ないし7,13)及び弁論の全趣旨によれば,東京地方裁判所は,平成23年9月15日,被告Cに対する準強制わいせつ被告事件(同裁判所平成22年刑(わ)第2571号。以下「本件刑事事件」という。)について,前記請求原因(2)記載の事実を認定した上で懲役刑の実刑判決を宣告し,控訴されたが,東京高等裁判所も,平成24年1月24日,本件刑事事件の控訴審(同裁判所平成23年(う)第1921号)において,上記東京地方裁判所の認定を正当であるとした上で,控訴を棄却する旨の判決を宣告したこと,原告は,本件刑事事件第一審の第2回公判期日において,被告Cが原告に対し,前記請求原因(2)記載の行為をした旨を証言し,本件においても,同様の供述をしていることが認められる。
 そこで,原告の上記証言の信用性を検討するに,同証言は,被害に遭ったとする時間や被告Cのタクシーのメーターが動いていたか否かなどについて曖昧な部分もあるが,原告がタクシー車内で目覚めた際,ブラジャーとTシャツがまくり上げられ,スカートも腰までまくり上げられ,パンティが左足から完全に抜け,右足に残ったまま陰部が露出した状態で,後部座席に仰向けに寝かされていたことや中腰になっている被告Cの姿を原告自身の股から確認できたことなど,具体的かつ迫真性に富む内容であり,本件刑事事件における被告Cの弁護人の反対尋問に対しても揺らいでいない。また,原告と被告Cとの接点は本件事件以外に認められず,そうすると原告が本件刑事事件においてあえて被告Cを罪に陥れなければならない理由もうかがえない。
 また,証拠(甲7,9)によれば,原告の友人は,本件事件後,原告から準強制わいせつの被害に遭ったとの告白を受けた旨を本件刑事事件の公判期日において証言し,同証言の内容は原告の証言内容とも一致していることが認められるほか,証拠(甲7,12)によれば,原告と本件事件の直前にタクシーに同乗していた男性は,本件刑事事件の捜査において検察官に対し,原告がタクシーに乗車する際には酒が抜けておらず,元気という感じではなかった旨を述べ,同供述の内容は原告の証言内容と一致していることが認められ,これらの証言ないし供述は,いずれも原告の上記証言の信用性を補強するものといえる。
 以上からすれば,原告の上記証言は,信用することができ,前記請求原因(2)の事実が認められる。
(2)この点について,被告Cは,原告に対し,「β迄3000円で走るからエッチはしないから触るだけでいいから触らして」と言ったところ,原告から「触るだけだったらいいよ」と同意が得られたことから,原告の陰部を触り,指を入れるなどしたが,原告から生理が始まった旨を述べられたことから,陰部を触るのをやめ,タクシーを運転して原告を目的地まで連れて行き,3000円を受領したものであると主張し,本件刑事事件及び本件を通じてこれに沿う供述をする(甲10,乙2ないし9)。
 しかしながら,被告Cの供述は,原告が同意してから,被告Cが原告の陰部等を触るまでの一定時間における原告との会話内容や実際に陰部等を触った場所にタクシーを停車するに至った経緯に係る供述が曖昧であって不合理であるし,原告が数千円程度の対価をもって被告Cにその陰部等を触らせることについて同意したという内容自体が不自然であるといわざるを得ず、これを採用することはできない。
 また,被告Cは,原告が本件刑事事件の捜査において検察官に対し,「万一,私が体を触ることについて承諾するようなことを運転手に言っていたとしたら,それは,お酒に酔って訳が分からない状態で言ったことでしょうし,そのことは,その承諾の内容から考えて,運転手も当然分かったはずです」と供述していたとし,原告自身が同意をした事実を暗に認めているかのような主張をするが,上記供述内容及び証拠(甲7)によれば,原告は,本件刑事事件の第2回公判期日において,上記供述を仮定的な意見として述べたことが認められるのであるから,上記供述をもって原告が被告Cに身体を触らせることを承諾していた事実を認めることはできず,被告Cの上記主張も採用できない。 
(3)なお,被告会社は,〔1〕原告はホテルで9ないし10時間睡眠していたこと,〔2〕原告と被告Cがタクシー内で会話していたこと,〔3〕本件事件時の原告のパンティは,原告の左足から完全に抜け,右足に残っている状態であったこと,〔4〕原告は生理になっていたこと,〔5〕原告が本件事件現場から自宅付近までタクシーに乗車していたことからすれば,原告が本件事件時に抗拒不能な状態にあったことは疑いがあるし,被告Cの乗務日報(乙1)及び本件刑事事件における公判供述(甲10)を考慮すれば,原告が被告Cに明示の承諾ないし推定的承諾をしていたと認めるべきである旨を主張する。しかしながら,上記〔2〕及び〔4〕の事実を認めるに足りる証拠はなく,このことをさておくとしても,証拠(甲7,12)及び弁論の全趣旨によれば,仮に上記〔1〕ないし〔5〕の事情が真実であったとしても,原告が本件事件時に酒に酔っていた状態であったと認められ,他に原告が抗拒不能であったことを疑わせる事情はみられない。
 また,確かに被告Cの乗務日報(乙1)によれば,被告Cは原告のタクシー代金について,2500円となるように実際の乗車状況とは異なる記載を乗車日報にしていた事実が認められるが,同事実をもって原告が被告Cに対してタクシー代金を3000円とすることの対価として身体を触ることに承諾したとの事実があったと認めることはできず,被告会社の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(被告会社の責任)について
 前記請求原因(1)の事実は当事者間に争いがない。
 そして,上記1のとおり,被告Cは,原告に対し,不法行為責任を免れないというべきところ,本件事件の被告Cによる準強制わいせつ行為は,原告が被告Cの乗務するタクシー車内において,運送の機会にされたものであると認められ,被告Cの被告会社のタクシー乗務員としての職務と密接な関連を有することは明らかである。
 この点について,被告会社は,被告会社のタクシー運送業務と本件事件における被告Cの準強制わいせつ行為は異質の行為であることから,被告会社の事業の執行につきなされたといえない旨を主張する。確かに,被告Cの上記準強制わいせつ行為は,事業の執行行為自体ではないものの,上記のとおり,被告会社のタクシー車内において運送と時間的に連続する状況下で発生したものであり,職務執行行為自体を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為であるから,被告会社の事業の執行につき加えた損害にあたるというべきであって,被告会社の上記主張は採用できない。
 したがって,被告会社は,原告に対して民法715条に基づく使用者責任を免れない。
3 争点(3)(原告の損害)について
 証拠(甲7ないし9,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事件により受けた恐怖感や不快感を忘れられず,タクシー乗車を極力避けるような状態になったことが認められ,本件事件における準強制わいせつ行為の態様,原告の年齢,被害時の状態,その他本件に顕れたすべての事情を考慮すると,本件事件により被った原告の精神的苦痛を慰謝する慰謝料の額は200万円とするのが相当である。
 そして,本件の内容,訴訟の審理経過,認容すべき損害賠償額等を踏まえると,本件の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は20万円と認めるのが相当である。
4 よって,原告の請求は,上記3の範囲で理由があるからこれらを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第50部
裁判官 小島清二