てっきり、道教委は迷惑条例の「卑わい行為」は「わいせつ行為」ではないという形式論で言ってると思って、調べてみたのだが、懲戒指針も「注1 「わいせつ行為」とは、・・・「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」などに違反するわいせつな行為をいう。」と言っていて、「わいせつ」行為を広くとらえて「卑わい行為」も「わいせつ行為」としてしまっているので、「「卑わい行為」は「わいせつ行為」ではない」というのでは理由になってないですね。
しかも、非接触行為が強制わいせつ罪の「わいせつ」になることは常識ですし、指針では「わいせつ行為」に含めている「卑わい行為」の中にも撮影が入っていますから、「「指針における『わいせつ行為』は直接体に触れる行為で、盗撮はわいせつ行為にはあたらない」と解釈した。」というのも、何言ってるのかわかりませんね。
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
北海道条例第34号
http://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/koukai/seian/seian/seian-12.htm
(卑わいな行為の禁止)
第2条の2
1 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服等の上から、又は直接身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
「卑わいな言動」の定義については、最決H20.11.10参照。
最決H20.11.10
弁護人古田渉の上告趣意のうち,憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ,職権で検討するに,原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官田原睦夫の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)
具体例については、手元の滋賀県条例の解説を紹介しておく。
滋賀県迷惑行為等防止条例の解説 滋賀県警h16
1 本条の趣旨
本条は、公共の場所等における卑わいな行為を禁止する規定で、本条各号の違反が成立するためには、当該行為が卑わいな行為であるとの認識(故意)が必要である。
「卑わいな行為J とは、いやらしくみだらな動作で、普通人の性的しゅう恥心を害し、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りる行為をいう。
・・・・
「卑わい」とは、下品でみだらなものをいう。刑法に規定される「わいせつ」より広い概念であり、わいせつに至らない程度の、人に性的基恥心を起こさせ、嫌悪の念を催させ、又それによって不安を覚えさせるものをいう。
「言動」とは、人の言語、動作をいう。卑わいな文章や写真、図画を執ように相手に見せる行為は、相手の性的差恥心を著しく害し、又は不安を覚えさせるようなものである以上卑わいな言動と認められる。例えば、ビデオカメラをスカートの中に差し入れ盗撮しようとしたが撮影できていなかった場合、胸や尻を触ろうとする行為、キスしようとしたり、耳、うなじ等に息を吹きかける行為、更には卑わいな文書や写真を執ように相手に見せつける行為等が本号の違反となる。
・・・
3 他法令との関係
第1項第3号(その他卑わいな雷動)
刑法第176条(強制わいせつ罪)との関係は法条競合(吸収関係)であり、強制わいせつ罪のみが成立する。
わいせつについては、最判S26.5.10参照
わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。−「サンデー娯楽」事件−(最判昭26・5・10刑集5-6-1026)
ちなみに、北海道における「わいせつ行為」の定義については、は青少年条例の解説を見る限りは判例と同じ。
北海道青少年保護育成条例の解説(平成11年)
3 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、興奮させたり、その露骨な表現によって、健全な常識ある一般社会人に対し、性的な差恥、嫌悪の情をおこさせる行為をいう。
http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/ksi/grp/01/02shishin.pdf
【懲戒処分の指針】
「懲戒処分の指針」は、標準的な処分の量定を示したものです。
懲戒処分に当たっては、非違行為の動機や過程、態様及び結果の程度や過去の非違行為歴等を総合的に考慮の上判断することから、以下に示した標準的な例とは異なる処分になる場合もあります。また、標準的な例に示していない非違行為についても懲戒処分の対象となります。
懲戒処分の指針
平成17年12月16日
北 海 道 教 育 委 員 会
(平成18年10月 4日一部改正)
(平成19年10月18日一部改正)
2 わいせつ行為及びセクシュアル・ハラスメント
(1) 児童生徒に対する行為
アわいせつ行為を行った場合(同意の有無を問わない。)・・・免職
イセクシュアル・ハラスメントを行った場合・・・免職、停職又は減給
(2) 上記以外の者に対する行為
ア わいせつ行為を行った場合・・・免職又は停職
イ セクシュアル・ハラスメントを行った場合・・・停職、減給又は戒告
注1 「わいせつ行為」とは、「刑法」「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律」「軽犯罪法」「ストーカー行為等の規制等に関する法律」「北海道青少年保護育成条例」「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」などに違反するわいせつな行為をいう。
注2 「セクシュアル・ハラスメント」とは、他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動をいい、わいせつな発言、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等がこれに当たる。なお、児童生徒に対する性的な言動は、自校、他校の別を問わない。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120928-00000256-yom-soci
盗撮「わいせつ行為」とせず…教諭の免職適用外
読売新聞 9月28日(金)9時52分配信
盗撮事件で罰金刑を受けた北海道浦河町立中学校の男性教諭(48)の勤務校への復職に保護者の反対が相次いだ問題で、道教育委員会が男性教諭の盗撮について、懲戒処分指針で免職とされている「わいせつ行為」にはあたらないと判断していたことが、27日分かった。
道教委は「前例に従った」として、今年3月、この男性教諭を停職2か月の懲戒処分としたが、今後盗撮に関する懲戒処分の厳罰化も検討する方針。
道教委によると、懲戒処分指針では、わいせつ行為について、「道迷惑防止条例などに違反するわいせつな行為」と定義し、児童生徒に対してわいせつ行為をした場合は免職と明記している。
この男性教諭は、女子高校生のスカートの中を撮影しようとして道迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで現行犯逮捕されているが、道教委は「指針における『わいせつ行為』は直接体に触れる行為で、盗撮はわいせつ行為にはあたらない」と解釈した。過去10年の盗撮事案6件も停職処分とした経緯から、今回も停職処分にしたという。
懲戒指針通りに処分すれば、児童に対するわいせつ行為として[免職]になっちゃいますね。保護者も気付かないんでしょうかね。
追記10/6
「従前の理解が間違ってました」と付言して欲しいな
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121005-OYT1T01026.htm?from=ylist
今回の指針改正は、盗撮のほか、のぞきや痴漢行為も免職の対象となる「わいせつ行為」と明記する。児童生徒以外に対するわいせつ行為も「免職または停職」から「免職」に厳しくする。